25
……………
狭い静かな部屋。
ここにあるのは柔らかいとも言えないベッド。
机。少しの筆記用具。
壁に掛かっているカレンダー。
それだけ。
「…………。」
数十分黙って寝転がっていたサラは、ようやく重い体を起き上がらせた。
考えても考えても、今自分がどうすれば良いのかわからない。
それに先程、一発の銃声が聞こえた。
何が起こったのかわからず…怖くて全身がずっと震えている。
頭に浮かぶのは、長年連れ添ってきたバイク仲間の5人の顔ばかりだ。
彼女はゆっくりとベッドから降りた。
この部屋には窓もない。
隠し部屋なのだから当然だ。
だが、5人の事が心配だ。
顔が見たい。どうしても…今。
少しだけ、と彼女は階段を上がり、からくり扉を開けた。
塞ぐように設置している本棚を専用のスイッチで動かし、フラフラした足取りで部屋から出た。
向かうのはその部屋の窓。
ガチャン
「……ッ…」
開けて目に映ったのは、自分の為に必死に走り回っている仲間の姿だ。
ビッキーが転んでそれをジムが起き上がらせて…
ナイジェルやボビーが息を切らして必死に走り回っている。
「…何でよ」
一度は裏切った仲間。
一度は捨てた仲間。
それなのに彼らはまだ私を仲間だと信じて、必死に体力をすり減らしている。
「…………。」
クールで感情が薄いと言われている彼女の目に、いつの間にか涙が溜まっていた。
胸が熱くなって居ても立ってもいられなくなった彼女は、リッキーとの約束を破ってその部屋を飛び出してしまう。
「…皆……どこっ…」
会いたい…!
会いたい…!
ただそれだけの思いで、とにかく必死に長い廊下を走る。
しかしこんなにも広い「豪邸」と呼ばれる家。
もう!なんで私の家はこんな馬鹿みたいに広いのよっ…!
なかなか仲間には巡り会えず、ついに走り疲れて立ち止まってしまった。
「ハァ……ハァ…」
廊下のど真ん中に、息を切らしながら小さな少女のようにしゃがみ込む。
もう泣いてしまいたい。
何してるの、私。
こんな所でひとり。
もうぐちゃぐちゃ…
皆…
「…サラッ!?」
「…ッ」
聞き覚えのある声が聞こえて振り返ると、そこには自分を隠し部屋まで運んでくれたリッキーが息を切らしながら立っていた。
彼は急いで彼女の元へ走り出して肩を掴む。
「何してるんですか、こんな所で!まだロビンがこの辺りをうろついているんですよ!?」
「リッ…」
「さ、早く部屋に戻って…」
「見つけましたよ」
ぞわりと背中に冷たい空気を感じる。
リッキーがサラの手を握った途端、後方から気味の悪い声が聞こえた。
先程の爽やかな声とはまるで別人。
悪魔のようなその声の持ち主は
全員が探していたロビン・ジャックマンだった。
「……ッ!!」
不気味な顔で笑う彼の手には拳銃が握られており、サラは驚いて息を吸い込んだ。
思わずリッキーは彼女を庇うように抱き締め、ロビンに背を向ける。
「あれ?君は初めて見る顔ですね?新しいお手伝いさんですか?」
「訊いてどうなるというんですか?」
リッキーの問いかけにもロビンは顔色を変えない。
銃はこちらに向けられたまま。
「まぁいい。事情を知っているかどうかは知らないですけど、その女性を渡してくれませんか。その女のせいで緻密に立てた計画が台無しになってですね。
私も早く逃げれば良かったのですが、色々と根に持つタイプでして」
「渡すわけないでしょう?彼女を殺して自分は助かるとでも思ってるんですか?」
「なるようになるだけさ」
彼は両手で銃を構え、片目を瞑った。
「さぁ、早くその女から離れて。じゃないと貴方にも当たっちゃいますよ?」
「…ッ…リッキッ…離して…」
腕の中で微かだがサラの声がした。
「ほら…撃っちゃうよ?」
「リッキー!お願い、離して!!!」
今度はハッキリと聞こえる。
しかし彼女がそう叫んでも、彼は全く離そうとしない。
「…リッキー!!!」
「リッキー。そのまま離すんじゃねーぞ」
「………ッ!?」
いつの間にかロビンの背後に男が立っていた。
匂い始めるタバコの煙。足音に全く気がつかなかった。
しかも彼の右手にはしっかりと銃が握られ、ロビンの後頭部に突きつけられている。
「ナイジェルッ!」
「貴方…いつの間に?」
気づかないうちに背後を取られ、ロビンも驚いているようだ。
「おっと。動くんじゃねーぞ、金髪野郎」
この状況ではロビンも動けない様子。
引き金を引こうとしていた指も止まっている。
「リッキー。お前ならサラがいた隠し部屋っつーのがわかんだろ?早く連れてけ」
「でも、ナイジェルは…」
心配そうな彼女の声。
「俺はお前を傷つけたこの男をコテンパにしてから行くから」
「冗談言わないでよ!そいつ拳銃持ってんのよ!?」
「俺だって持ってるじゃねーか」
「そうじゃなくて…危ないわよッ!やめて!」
「俺が銃でこんなチャラチャラした優男に負けるわけねーだろうが」
彼はロビンの頭から視線を離さないままサラに言い放った。
「信じろ」
「……ッ…」
彼の言葉に何も言い返せない。
そこで険しい表情のままリッキーが立ち上がる。
「ナイジェル…」
「リッキー!早く連れてけ!」
「………。」
「行けっつってんだろーが!!」
責め立てるような怒鳴る彼の声。
リッキーはごくりと息を飲んだ。
「絶対…生きて帰ってきてくださいよ」
ガバッ!
「…ッ!!」
リッキーはサラを抱えて長い廊下を走り出した。
「イヤッ!放して!放して!!ナイジェルッ!!!ナイジェッ…」
腕の中で必死に暴れるサラ。
廊下中に彼女の泣き叫ぶような声が響き渡り、その声は徐々に遠く小さくなって
消えてしまった。
- 62 -
*PREV NEXT#
ページ: