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……………


その後、顔を洗って軽く化粧をした後にリビングへ戻ると、彼が作った料理がテーブルに並べられていた。

こんがり焼かれたフランスパン。

お供のジャムとバター。

スクランブルエッグとケチャップのかかったウインナー。

野菜サラダとコーンスープ。

そしてオレンジジュース。

その出来栄えは、まるでどこかのホテルの朝食みたいに仕上がっていて「さすが」としか言いようがない。


しかし私は昨日の事もあり、上手くクラウディ君の顔を見ながら料理を食べる事が出来なかった。

昨日も結局ケーキしか食べてなくて、お腹は空いていたからあっという間に食べてしまったけど。


そうこうしている間に、時計の時間は8時に。

もう外は雨も降っていないのに、いつまでも長く居座るのは申し訳ないと、私はバッグの中の整理を始めた。


「帰るんですか?」

「うん。いつまでも居座っちゃ悪いし」

「自分としては何時までも居て欲しいですが、バレルさんがお腹を空かせて倒れてるかもしれませんしね」

「そ…そうだね」


お、面白いけど笑えない…。


昨日の雨で濡れた靴も、今日の朝にはなんとか乾いているようだ。

それを手に取り、一足ずつ順番に履く。


「また今度。勉強見て欲しかったらメールしてね」

「うん」

「それじゃ。バイバイ」






「…………。」




部屋を出ようとドアノブを握る彼女だが、なかなか扉を開けない。

動けなくなってしまったのか。

黙って背中を向けたまま。







何故だろう。

クラウディ君にはまた会えるのに…

なんだか胸が苦しい。

まだ私の中に強い罪悪感が渦巻いている。


このままじゃ…私、嫌っ…


何か…何か彼に伝えなきゃ…



「クラウディ君!」

「…ッ」



クラウディが手を振ろうとした瞬間、突然ローラが振り返って大きな声で名前を呼んだ。


「あのね…ちゃんと…ちゃんと…伝えなきゃって…思って…

私の気持ち」


「…………。」



彼女が手を強く握っているのは勇気を振り絞っている証拠。

その意志も伝わって、彼は拒否もせずに黙って耳を傾けた。



「私…クラウディ君の事は、凄く大切な存在だって思ってるの!他の友達なんかとは訳が違うっ。

こんなに私の事を想ってくれて、何度も何度も助けてもらって…

バレルさんの件があって心が押し潰されそうになった時…私はクラウディ君だけが支えだったの。
あの時君がいなかったら…今の私はいない。
それは今でも忘れられないし、これからもずっと変わらない。

バレルさんの事も、それはもちろん好きだけど…
本物の素の私をさらけ出せるのは君だけなの!
君だけは…何があっても私の味方でいてくれる。
何があっても信じられる、たった一人の大切な存在。

それを…どうしても伝えたくて…」


「…………。」


「だから…それでもしクラウディ君を傷つけてしまっていたのなら、本当にごめんなさい。
クラウディ君の気持ちに気がつけなかった事…凄く反省してるから」


深々と頭を下げる彼女。

その姿を、ただじっと見つめていた。






「顔を上げてください。ローラさん」

「……ッ…」


言われてゆっくりと顔を上げる。



「…クラウディ君…怒ってる?」



不安気に訊いてきた彼女は、またそうやって心を惹きつけるような切ない表情をしている。

全く…。

そんな顔をされて、怒れる男がいたら教えて欲しい。


それと同時に自分の中にまた我が儘な…
貴方を傍に置いておきたいと思う独占欲が湧き上がってしまう。

ここまで想ってしまうのも、やはり自分が貴方の事を愛してしまっている証拠だ。

自分も…もう少し「我慢」を覚えないといけないな。





「ううん。…嬉しいよ」

「本当!?よかった、私…クラウディ君にだけは嫌われてしまう事が怖かったから」


心底安心して笑ったローラさん。

その表情に偽りはなく、本当に自分の事を大切な存在だと思ってくれているようだ。


「クラウディ君、これからもお友達でいてくれる…?」

「………ッ…」

「クラウディ君…?」

「…あぁ、いるよ。これからもずっと」




お友達。



自分とローラさんは、その壁から越えられない関係。

彼女がバレルさんを好きでいる間は…ずっと…


色んな感情や衝動を押し殺して、やっと扉を開ける背中を見つめる。


「ローラさん。またね」

「うん。バイバイ」









やっぱり…結局最後は人の陰に立ってしまう。



マスターの言った通りだった。




これが…自分の性なんだ。



諦めて手を振ると、愛しい女性が笑って手を振り返してくれた。






















「あ」


マンションを出ると、さっきまで厚く暗い雲に覆われた空はすっかり晴れて太陽が顔を出していた。

眩しくて暖かい。

よかった、今日はもう雨は降らないみたい。






「クラウディ君、またね」



ローラはマンションを見上げて声をかけた後に、荷物を持ち直して長い道を歩き出した。











































もし、バレルさんと上手くいかなくなったら…またここへ来てください。


もしその瞬間が来たら、今度は自分の素性や正体


そして正直な気持ちも


包み隠さず貴方に伝えますから。








fin


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