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「あー寒い…」
2月のとある休日。
肩を震わせ両腕を手で抑えながら、リッキーは階段を下りてきた。
ふぁぁ…眠い。
それに今朝はいつにも増して寒い気がする。
そのせいで目が覚めたのが8時くらいだったにもかかわらず、暖かいベッドの中から出られなくて、結局1時間も毛布にくるまって携帯ゲームをやっていた。
え?何のゲームかって?
それはもちろん、最近流行っている猫好き人間には堪らない可愛い可愛い育成ゲーム
「俺のぬこぬこ帝国」
に決まっている。
最近はこのゲームをやっていない奴は猫愛好会で話の輪に入れないという、一部ファンには絶大な人気を誇る猫を育てるスマホゲーム。
俺はその愛好会の中でも、常に上位の実力の持ち主。誇り高きネコマー。
ハンドルネームは「魅惑のコロ助ハンター」だ。
俺が持っている自慢の持ち猫はエキゾチックショートヘア(レベル58)。
鼻の頭を思いきり指で潰したようなブサイクな顔で最初は売却してコインに変えようかと思ったのだが、
少し育てているとそのブスさに妙に愛着が湧いて今では俺のパートナーにまで成り上がっている。
他にもアメショにロシアンブルーにマンチカンなどさまざまな種類の猫を持っている。
ちなみにパートナーはエキゾチックショートだが、一番俺が可愛がっているのはマンチカンだ。
くりくりおめめと嘘みたいに短い足が最高にキュートなのだ。
昨日コインが貯まったので久しぶりにスペシャルガチャを引いてみたら、なんとコーギーが出てきた。
可愛いけど…犬だよね。この子。
「君。さっきから何を話してるんだい?」
「へ?あ、ボビー。おはようございます」
朝っぱらから俺の猫帝国の妄想に思いを馳せていると、いつの間にか目の前にボビーが立っていた。
頭の中が猫でいっぱいだったからか、全くその存在に気づかなかったけど。
彼は相変わらずのキラキラ瞳をこちらに向けてくる。
「猫ちゃんが…どうしたんだい?」
「え?なんで俺が考えていた事がわかったんですか!?もしかしてエスパー!?」
「全部口から漏れていたよ。それよりリッキー君、外見たかい!?」
「外?見てないですけど」
「ならすぐに来たまえ!凄い事になっているぞ!」
「えっ」
ガチャン!
まだ筋肉が解れていない体を無理やり引っ張られ、リッキーが連れて来られたのはいつものメインルームだ。
しかし…
「わぁっ!凄い!」
外の景色は普段と全く違う。
眠気も吹っ飛んで彼は思わず窓に張り付いた。
「いつの間にこんな積もったんですか!?」
「リッキー!見てみて、真っ白だよ!」
「そうですね!真っ白!」
まさに絵に描いたような「銀世界」
今朝はやたら寒いとは思ったが、庭や屋根、塀…全てに20〜30センチ程の真っ白な雪が積もっていたのだ。
まるで上から大量の砂糖を振りかけたよう。
こんな外の光景はこの地域では滅多になく、窓側で騒いでいたビッキーと一緒に子どものように盛り上がってしまった。
「ったく、ガキはちょっと雪が積もったくれーで大騒ぎだな」
「いいじゃないの。こんなに積もったのは10年ぶり…だったかしら?綺麗じゃない、この景色も」
「寒いし外で動きにくいだろーが。雪かき面倒臭ぇしよ」
やんちゃ組が楽しそうにはしゃいでいる一方で、ソファーにふんぞり返って座っているナイジェルと彼に温かいコーヒーを渡すサラ。
彼女の言った通り。
この街にこんなにも雪が積もったのは約10年ぶりだ。
寒冷前線が南下し、冷たい空気がなんとか風に乗ってなんとか…?
難しい事はよくわからないが、天気予報で大々的に騒がれて結構なニュースになっているらしい。
「ねぇ、リッキー!外出ようよ!」
「いいですね!とりあえず上着取ってきます!」
「ビッキーちゅあん!全裸で雪に埋まって3時間耐えたら、僕と結婚してくれるかい!?」
「ふざけんな!そのまま仮死状態になっちまえ!」
ビッキーとリッキーとボビーは外に出る為、厚手の上着を羽織って靴を履き直す。
キャッキャと騒いでまるで小学生だ。
「サラとナイジェルも一緒に行きましょうよ!」
「行くわけねーだろ。ガキは勝手に好きなだけ遊んでろ」
「えー!ケチ!」
ナイジェルから追い出され、次々と外へ飛び出す3人。
すぐに雪を手ですくってばら蒔いたり、雪玉を作って投げたりして遊び始める。
あ、ボビーがビッキーに物凄い豪速球の雪玉を投げつけられ、塀を飛び越えて隣の家まで飛んで行った。
遊んでいる3人をサラとナイジェルは立って眺め、彼はそれと同時にコーヒーを啜る。
「ったく。このクソさみー中元気だな」
「貴方だってリッキーくらいの歳の頃は同じ感じだったんじゃないの?」
「どーかな。ま、雪が積もってはしゃぐのはアイツらみてぇなガキか頭の弱いオッサン限定だろ」
ガチャン!!
ジム(28)「ナイジェル!!!!サラ!!!!!スッゲーよ!雪超積もってるぞ!俺感動してコンビニからの帰り道、ずっとミュージカルしながら帰ってきたわ!すこーしも寒く…」
「………。」
「頭の弱いオッサン…ねぇ…」
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