『それではシンキングタイム終了です!皆様、作戦で決まった位置へ移動を開始してください!』



実行委員の指示に従い、動き出す選手達。

もちろんチーム「走り屋」が身を置いた場所は、最初の標的であるバレルの周りだ。







(いいか?油断作戦だ。スタート直後、笛が鳴ったら速攻で奴に雪玉を全員でぶつける。
奴だっていくらなんでもいきなり四方八方から自分ひとりをめがけて玉が飛んでくるとは考えてまい。

多少の犠牲をはらっても構わない。とにかくバレルだけを全力で倒すんだ!)




スタートの笛が鳴る直前。

チーム「走り屋」全員の脳裏に、最後のジムの言葉が蘇ってきていた。








『それでは、参ります…』



あらかじめ作っておいた雪玉を腰の後ろに隠し構える。

この笛が鳴った直後…そこが一番の勝負だ。




『よーい…』













ピ「「おりゃぁあああああああああああ!!!」」ィ――――――!!










笛が鳴り終わる前に、全員が盾から飛び出して雪玉を全力投球。

凄いスピードで飛ぶ6つの雪玉は、盾の後ろに身を潜めていたバレルに向かって一直線に飛んでいく…!




やった…!

イケ…





「ポニテハイパートルネードスピン!!!」


「「なッ…!」」



どこから飛んできたのか、突然頭上から降ってきたのは爆乳プリティボディギャルのボビエだ。

バレルの真上で高速回転し、ブオン!と竜巻が発生するとともに6つ全ての雪玉が弾き返されてしまったのだ。



「うわ!」


投げたはずの雪玉が自分に向かって飛んできた瞬間、走り屋のメンバーは慌てて盾に身を隠して直撃を防いだ。





「なんだ、今の!?」

「ははは〜。タイミングは惜しかったですけどねぇ。ただ闇雲に玉っころ投げてるくらいじゃ、僕達には勝てまへんよ!」



どこからか隠れている葛西の笑い声が聞こえてくる。

多くの雪玉を弾き飛ばしたボビエも、一瞬で別の場所へ隠れてしまった。


チッ…やはり人間離れの動きが出来る奴がいれば攻撃がやりにくい。



「反撃や!ロビンはん、おばはん頼みましたで!」

「任せたまえ★」

「いくわよ、ロビンちゃん!!」



次に飛び出したのは、セレブリティ弾丸ホームレス親子・ロビン&ママだ。

まるで戦隊ヒーローのように華麗に交差しながらジャンプし、そしてロビンが内ポケット、母親が尻ポケットから取り出したものは…



「「親子コンビネーション!美しき氷結弾丸銃★」」



ズキュン!

ズキュン!

ズキュン!



ジム「危ない!皆伏せろ!」

ビッキー「きゃぁッ!!」



慌てて伏せた直後、息の揃った親子の弾丸が周りに当たる。



ナイジェル「オイ、審判!アレはいーのか!?もろ銃じゃねーか!」

審判「んー…弾丸自体は氷だから大丈夫なんじゃないですか?」

リッキー「大丈夫じゃないですよ!氷だって立派な凶器になるんですから!」



ズキュン!

ズキュン!

ズキュン!

ズキュン!

ズキュン!



「わぁあああ!」



これは雪之原の雪玉乱れ投げよりもタチが悪い。

下手をすればボビーじゃないが、冗談抜きで蜂の巣だ。

しかしチーム「カサイーズ」の猛攻はこんなものじゃ終わらない。



「ただ隠れてはるだけなら僕達の思う壺ですよ!ボビエはん、追撃頼んます!」

「任せなさぁーい!!」



再び頭上高く飛び上がったボビエ。

外はこんなに寒いのに、コートの下は相変わらずの見せブラにショーパンで。

その姿で空中に留まり、クルクルと回転し始めたのだ。


この時点で人間技じゃない。





「ボビエ必殺!愛のデカパイパイレボリューション!!」

「「なッ、危…!」」



高速でスピンして胸の谷間から発射されたたくさんの雪玉。

それは上空から6人を狙う…!



「つッ!」

「痛ッ…痛い!痛いって言ってんでしょーが!怒」



ボビエの雪玉はサラを集中して攻撃し、彼女とその傍にいたナイジェルがアウトに。

しかしそれでも玉を投げ続けるボビエに対し、逆ギレした彼女がアウトになったにもかかわらず雪玉を投げ返す。



「ちょ〜!アンタもうアウトになった系でしょ!超すっこんでてぇ、オバサン!」

「はぁ!?私がオバサン!?」

「ダイッタイなんでアンタいっつもチョリと一緒にいるワケ!?いい加減しつこいんですけど〜!マジでぇ!いやつーかマジでぇ!」

「一緒にいないじゃない!アンタこの髭のオッサンがあのリッキー君に見えるわけ!?そんなにデカいのにその目見えてないんじゃないの!?」

ナイジェル「ちょ…サラ。この髭のオッサンって…」

「見えるわけないでしょぉ!コレがチョリに見えるなら、老人ホームはキムタクだらけよ!!」

ナイジェル「オメーも失礼だろ!俺が杖ついて歩く程のジジィに見えてんのか!怒」



「大体オバサン、顔がケバいって感じいやマジで!化粧方法変えたらいやマジで!?」

「アンッタに言われたくないのよ!!雪溶け水でその金魚みたいな濃いチーク洗い流してきなさい!」



相撲のような取っ組み合いを始めるふたりをナイジェルが仕方なく止めようとするが、強い女性を前に老人ホーム入居前のオッサンが勝てるはずがない。



葛西「あーあ。おなごはんの因縁は恐ろしいですなぁ」

ロビン「いや、止めた方がいいのではないか?」

葛西「止めに行ったら巻き込まれて骨の1本や2本あっちゅう間に折れますさかい。ここは終わるまで待ちましょ」

「…むぅ。……ん?」




ふとロビンの目に黒い影が映る。


あれは…






ビッキー「ビエール!これもリッキーの部屋に新しい隠しカメラを設置する費用の為なの!裏切り御免!!」












「レディ!!」








バサッ…




「…ッ!!?」



背中で誰かが倒れる音が聞こえ、ようやく怒鳴り声を止めるボビエ。

すぐ傍には粉々になった雪の玉が背中に乗った、倒れたロビンの姿が。



「ちょ!アンタ何やってんのよぉッ!!!」


彼女が抱きかかえると、何故か口元から血が流れている弱り果てた彼の顔。

男はフルフルと震える手を差し出すと、ボビエはその手を力強く握った。


「レ…レディを…守るのは……男の…使命さ……★」

「ロビン!」

「あとはっ……頼ん………ヴッ」

「ロビン!!!ロビィィィィィ……フグンッ!」



感動のシーンで後頭部に雪玉をぶつけられ、大きなポニーテールを揺らして前に突っ伏すボビエ。



ボビー「やったー♪ついに敵をひとり撃破したゾォ〜♪」

ジム「…オイ。僕の可愛い妹を狙う奴は鼻と口に大量の雪を詰め込むんじゃなかったのか?何の躊躇もなく両手でいったな」






短時間の間に事態は急変。

自分のチームの有力選手が一気にふたりもアウトとなり、珍しく葛西はあたふたするが…


「こら、えらいこっちゃっ!おばは…」

「宗ちゃん、あれ見て」

「え?」



観客側から弥生が指さした先には…



「イヤァンッ!ナイジェルさん!もっと激しく!もっと強くぶつけてぇ!」

「ババァ、気色悪いんだよ!」


ロビンママが尻を向けて四つん這いになっている所を、ナイジェルが全力で雪玉を何発もぶつけている。

全く需要のない誰得なSMプレイが展開されていた。


「おばはん!何やってはるんですか!早よコッチに戻って!」

「嫌や!ウチはナイジェルはんにもっと痛めつけられて嬲られて愛されてたいんや!」

「愛してねーよ!可愛くねぇから関西弁やめろ!」


もはや尻を足で蹴られて喜ぶ始末。


審判「ナイジェルさん。貴方は既にアウトになっていますので退場してください」

ナイジェル「あ。すんません」

葛西「ちょっ!おばはん!なんでアンタも出て行ってんねん!アンタはまだ退場せんでええんですよ!ちょっ!」


最後には退場していくナイジェルに付いて行ってしまい、オバサンはフィールドを離れてしまった。






「よし!これで形勢逆転だ!最初の作戦に戻るぞ!」


ジムの号令にコクッと頷いたボビー、リッキー、ビッキー。

あらゆる方向に走って散らばり、その手には2つずつの雪玉が。

向こうは一気に3人もの戦闘員を失い、それぞれが混乱しているはずだ。



その隙だ!


その一瞬の隙を突いて…


今こそバレルを倒すっ!


目一杯の力でジャンプをし、バレルの背後を取ったジムが大きく腕を振り上げた!








「もらったぁ!!」





パシュッ!




「…ッ!煤v




至近距離で雪玉を力強く投げたのに…当たった感覚がまるでない。


その瞬間、バレルは腕を構えて半回転したと同時にジムの投げた豪速球を素手でキャッチ。

背後についた彼の殺気を瞬時に見抜いたようだ。


その反射対応に、ジムもよろけながら地面へ着地してしまった。


「嘘だろっ…?掴んだだと!?」

「…雑魚が。こんなトロい玉が俺に当たると思ってんのか」



ギロッと蛇の目で睨みつけた後、その手に持っている雪玉に豪快にかじりついた。


ジム「イヤ、だから食うなって!おにぎりじゃねんだよ!」



「は〜ははは!甘かったですな、ジムはん!3人仲間がアウトになったくらいで、このチームが崩れると思いはったんですか!?」


盾の向こう側から、再び胡散臭く笑う糸目眼鏡の声が聞こえる。


「そう。我々の最大の切り札はこの人や。
その狙いはよかったんですけどな。背後から雪玉を投げるやなんて単純な方法で彼を退場にするなんて普通の人間には到底無理ですわ」


「…………。」



敵4人に囲まれているバレルだが、全く怯える様子を見せない。

「貴様らみたいな雑魚が俺に敵うわけがない」という顔にも取れ、その冷酷な表情に優位に立っているのに威圧感さえ感じる。


バレルがスッと後ろに手を伸ばした事に気がつき、ビッキーが視線を向けると…


そのすぐ近くにいた葛西の周りに大量の雪玉が置いてある。

ダラダラと喋っているだけかと思っていたら、ひたすらに雪玉を作り続けていたのか。

そして葛西の方にバレルが手を伸ばしている。


その玉の使用目的はただひとつ。


それは…





ビッキー「ヤバい!攻撃が来るよ!」




「頼んだでぇ、バルンはん!」


「バレルだ」



ピシュッ!

パシッ!

ピシュッ!

パシッ!



「わぁっ!」

「きゃっ!」


葛西から投げられた雪玉を受け取り、思い切りそれをこちらへ投げつけてきた!



「危ねっ!」


ジムが一発かわしても攻撃の手が緩む事はない。

バレルはどんな態勢になっても連続で投げられてくる葛西からの雪玉をキャッチし、それを敵メンバーに投げつけ続ける。



ピシュッ!

パシッ!

ピシュッ!

パシッ!

ピシュッ!

パシッ!

ピシュッ!

パシッ!



ボビー「もうこの際仕方がない!ゴリ押しでなんとしてでもバレル君を倒すぞ!」

ジム「とにかくぶつけられる前に一秒でも早くバレルに雪玉をぶつけろ!少しぐらいの犠牲を払っても構わない!」



無我夢中で四方発砲からバレルに雪玉を投げつけるが。

体を捻られてかわされ、ジャンプしてかわされ、先程のようにキャッチされて投げ返されたり…

その上そんな中でも葛西からの玉をキャッチして、攻撃を続けてくる!


4対1で戦っても全く有利に立てない…!

なんだこの瞬発性と体の動きは!

今までケンカで負けた事がないと聞いてはいたが、その事実を今身をもって実感した。


「チックショ…こんなにいっぺんに投げてんのに、なんで当たらないんだっ!」



ビッキーの投げた雪玉をしゃがんでかわした瞬間、バレルは地面を足の裏で強く後ろへ蹴り上げた。

その一瞬で積もっていた雪が大量に空気中に舞い上がり、真っ白になって視界が奪われる。


「キャッ!」


その隙に彼女の肩に軽く雪玉をぶつけ、
そして怒り狂って突進してきたボビーの顔に、手に持っていた雪玉を押し当てるようにぶつけてそのまま地面へ倒す。



ジム「クッソ!なんなんだ!お前!」

「言ったはずだ。そんなトロい玉は俺には当たらねぇ」

「こんの…」









リッキー「あ!空飛ぶ餃子!」

バレル「ッ…」


「おりゃ!」というリッキーの可愛らしい声と同時に、『あの』バレルの後頭部に白く冷たい雪が…














「「……………。」」








これには白熱した試合展開に盛り上がっていた観客席も、サポートしていた葛西も、ジムも…思わず口が開いたまま。


会場は静まり返って…


















バレル「殺す」


リッキー「ぎゃああああ!!!!」


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