コートを脱ぎ捨てたバレルは大量の雪玉を握って、逃げるリッキーに向かって走り始める。


そのままリッキーは会場を飛び出して、彼も全力でそれを追いかけてどこかへ行ってしまった…






「………。」


予想外の出来事に、葛西は目は閉じたままでも口はぽかんと広げたまま固まってしまっている。


「…え…えっと…ふはははは!これも作戦ですわ!そっちのチーム最強のリッキーはんを試合から引きずり下ろすには、この作戦しかなかったんや!やったぜ作戦大成功★」

ジム「嘘つけ、テメェ!アイツ正直今までそんな役に立ってなかっただろ!」


ムカつく親指を立てた葛西に向かって叫んだ瞬間、その隙を突いて飛んできた雪玉に慌ててジムは身を隠す。



「油断しとると負けますよ!まだこの僕が残っとるんですから」

「そうだったな。バレルを倒してすっかり勝った気でいたわ。ここからは1対1のリーダー対決ってわけだな」


そうだ。

まだ試合は終わっちゃいない。

決勝戦。最後の最後に始まるのは、やはりリーダー同士の一騎打ち。



「…………。」


緊迫した空気が再び会場に流れ始めた。

ここで雪玉をぶつけた方が、このイベントの頂点に立てる。

男たるもの、もうこんな状況になれば優勝賞金なんて頭にない。


戦っている男なら、絶対に勝ちたい。

ここまで来たら負けたくない。



ジムは緊張した空気の中、作った雪玉を握り締めた。

あの葛西という男とはまだ出会ったばかりで、俺だって奴の事を深くは知らない。



「やぁ〜…それにしてもどないしましょうかねぇ。こうやってずっとお互い隠れてるだけやったら、日が暮れてしまいますわ」


コイツの特徴は、頭の中で何を考えているのかが他人にはさっぱり理解出来ない所だ。

何を考えているのかわからない奴は周りに多かったが、彼はまた今までとは全く別の種類。



「なんや…ジムはん黙ってますな?何か作戦でも考えてはるんですかね。それじゃぁ…僕もなんか考えようかなぁ」


そう。コイツは喋りすぎるんだ。

腹の中では何を考えているのかわからないのに、やたらよく喋る。

それ自体が俺を油断させる作戦なのか、それとも思っている事をポンポン口に出してしまう単純な馬鹿なのか。




「僕の作戦は…そうやなぁ。とりあえず、ジムはんのはっずかしいオモロい話でもここでしましょか?」

「は…!?///な、なんだそれ!?」

「あ〜れぇ?こんな大勢の前で聞かれたくない話…やっぱりあんさんにもあるんですかねぇ(笑)」

「…ッ///」




お…落ち着け、俺!

奴が俺の何の秘密を知ってるというんだ!?

知られている事といえば、ナースの霊に取り憑かれて半日オカマ口調になっていた事くらいで…!

あーもう!こんな時に何くだらない過去を思い出してんだ、俺は!

奴のペースに乗せられるな!

今は勝つ作戦だけを…


「なんや反応のぉてオモロありまへんな。そなら、僕今からジムはんに全力突進しますよ。
あー、待って。お尻に雪がついたさかい、あと10秒待ってください」




はっ?

あと10秒したらこっちに突進して来るだと?

馬鹿かっ、何故それを口で言うんだ!?



「よーし。綺麗なった!どない?やよちゃん?」

「ビショビショに濡れておねしょしたみたいやわ」

「アッカ〜ン!尻にカイロ貼ってんの忘れてたわぁ。ほんじゃま、ジムはーん?いきますでぇ」



マジで来っ…

ハッ!気づけ、ジム!これは奴の巧妙な罠だ!

気を動転させる発言をして俺を慌てさせたり、急に尻が濡れたなど場の空気を和ませたり!

奴は俺の慌てた隙を狙ってるんだ。

自分が飛び出したフリをして再び俺の精神状態を煽り、俺が考えなしに飛び出して来るのを待っているんだ!


クッ…ナメやがって!

見てろ…俺だって…





「んっ…?」



何か勝利への糸口を掴もうと突発的にポケットに手を突っ込んだ所、何か固い物が指先に当たる感覚がした。

それを摘んで取り出すと、自分の手の中にあったのは一枚のコイン。

今朝コンビニで買ったコーヒーで、店員から受け取った100円玉だ。

お金を払った瞬間おつりを受け取る事を忘れて財布を仕舞ってしまい、後からそれを出すのが寒くて嫌になって咄嗟にジャケットのポケットに入れてしまった。



この100円玉…使えないか…?










*****


「だってお金かかりますやん。やよちゃんが出来るのに無駄な出費はしたくないですもん」


「僕は一分一秒でも早く事業を始めて荒稼ぎしたくてたまらんさかい、ここの幽霊はんにはとっとと天国へ帰って頂きましょ!」


*****







過去の葛西の台詞を思い出してみる。

そういえばこの試合の前も、優勝賞金が30万って聞いたからには参加せずにいられないとか言っていたな。

大人は確かに皆そうだが。

奴は一般人と比べてもかなり「お金」に対しての執着心が強い。

大の大人が100円ごときで引っかかるかと思ったが、アイツならわからないな…










葛西「さーん、にー…」










いや!時間もない中、悠長な事は考えていられない!

出来そうな作戦があるのなら、手当たり次第に実行しなければ…俺はきっと勝てない!





「いー……」








ピュンッ!!




突然、宙を舞った銀色の光。

数を数えていた葛西の視線が自然とその光に向かう。

その光は最高点に達した後、地上に向かって弧を描いて落ちていき…

















「金やぁあああああッ!!!<金><金>」












ドシャァアアッ!!!




まるで野球選手がベースに飛び込むように、葛西は盾の陰から飛び出してその光の落下地点へダイブした。


よっし!てかマジか!100円に食いついた、この眼鏡!


落ちていくコインに向かって一直線に滑り込む葛西。

それにイケると踏んだジムは、雪玉を持ったまま盾を飛び出して…



観客の視線が集中。



葛西は彼に背中を向け、その100円玉をキャッチ。


しかしそれと同時に、もう背後には弾丸シュートを決めようと高く飛び上がっているジムの姿が…!





ナイジェル「行け!ジム!」



ボビー「決めるんだぁー!!!」



「「うおおおおお!!!!」」




















ジョン「あ。ジムさん、チャック開いてますよ」

ジム「え、マジでぇ!?」















ボスン!!



突然忠告された声に気を取られ、弾丸シュートは不発に終わった。

100円玉に夢中で敵の存在にも気づいていない葛西の後ろに呆気なく落下。



「…お疲れ様でした」


倒れた状態のジムに、ジョンは握っていた雪玉をポイッと落とした。


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