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『今週のCD売上ランキング、オリコン第9位は…
初登場!weather life、14枚目のシングル!「Going my way」』
「んぅ…」
ある日の昼下がり。
事務所でテレビを観ていた美空が、不機嫌そうにテーブルに肘をついた。
『こちらのシングルは、weather life初のラップを盛り込んだ楽曲となっており…』
「お、今週のオリコンチャートっすか?」
テレビの音につられてやってきたのは、ふたり組の男。
仲良しやんちゃコンビの日晴響介と雪之原奏だ。
「あぁ…ヒーちゃん。ユキ…」
「何すか、その死にかけのテンション低い声。あぁ…やっぱ今回もあんま伸びなかったんすね」
weather lifeのリーダー・美空七音。
彼がイライラしたり不機嫌になる時は、大まかふたつの理由に分けられる。
ひとつ目は外でナンパした好みの女の子から相手にされなかった時。
そしてもうひとつは音楽のスランプに陥っている時だ。
どちらかと言うと、後者の方が精神的にダメージは大きい。
そして何を隠そう今は、その理由ふたつ目「音楽スランプ」時期なのだ。
この時だけはどれだけ頭を捻っても良いメロディーが生まれてこない、彼曰く「最悪の時期」
「9位ねぇ〜。まぁ10位内に入れただけよかったんじゃないのぉ」
「この間のシングルも最高順位が7位だったんだよ、ユキ!前まではさ…1位なんて楽勝に取れてたのにさ。最近は5位以内にも入らないし」
なだめようとする雪之原にも、頬を膨らませてブスッとふてくされる美空。
まるでその見た目は、我が儘が通用せずにぷんぷん怒っている子どものようだ。
今は美空の曲作りもなかなかピンとしたものが出来ず、最近リリースする曲についても歌っている本人達ですらあまり納得がいっていないものが多い。
当たり前の結果と言われれば仕方がない。
「まぁまぁ。スランプなんて誰にでもある事っすよ!
あんまり気にしないで自分のペースでやってたら、美空さんならまた前みたいに最高の曲を作れるようになるっす!」
「そうなればいいけどさぁ…。あ」
口を尖らせブツブツと小声で独り言を呟いていると、ふと3人の目線が再びテレビ画面へ向かう。
『そして今週のCD売上ランキング、オリコン第1位は…
先週より2週続けて堂々のトップにランクイン!ドロップス、5枚目のシングル!「ノア」!』
その画面に映ったのは、最近デビューしたらしいweather lifeとはまた別のバンドグループ。
『デビュー当時よりそのルックスと心に響くメロディーから、絶大な人気を我が物にしてきた注目の男性バンド「ドロップス」!
今日はその3人の魅力をとことん追求していきます!』
「最近、よくテレビで観るっすね。この人達」
「そぉだねぇ。確か全部のシングル、オリコンランキング1位だよねぇ。人気も凄いみたいだしぃ」
最近、巷でよく目にする新しいバンドグループ
『ドロップス』
男性3人で構成されており、雪之原や日晴の言う通り、デビュー当初から人気が爆発したグループだ。
weather lifeの人気に影がさし始めたのも、丁度このグループが現れた頃から。
ドロップスが曲を出し始めて以降、メディアはこのグループばかりをピックアップ。
他のグループは蚊帳の外扱いとなり、1位が取れなくなったどころか出演番組の数さえ減少。
そこで重なった美空のスランプ。
思うように良曲が作れず、作れたとしてもメディアで取り上げられずドロップスに先を越されて。
なかなか思うような結果が残せず、また美空が落ち込んで…
まさに負のループだ。
インタビュアー『いやぁ!それにしても格好良いですね!』
美空「ったく、こんなチャラそうな男達のどこが格好良いんだっての」
日晴「美空さんも十分見た目チャラそうっすよ(笑)」
うるさい!と腹をど突かれ、日晴が床にうずくまる。
とにかく今は虫の居所が悪いようだ。
「はははー。キョウ君、弱〜い」
「わっ…笑ってないで助けてくださいよ!」
「あぁ。ここにいたか」
扉を開けて現れたのは、眼鏡をかけた知的な青年。
weather lifeのベース、雨宮律だ。
先程まで外へ仕事に出ていたようだが、予定よりも早めにこの事務所へ帰ってきていたらしい。
手にはなにやら1枚の紙を持っている。
「あ、雨宮さん。お疲れっす」
「リツ君、お疲れぇ」
「あぁ、お疲れ。七音、まだお前落ち込んでいるのか。寝てばかりいないでいい加減働け」
ポスッと丸めた紙で頭を叩かれ、美空はようやくテーブルから起き上がる。
「ミヤ君はいいの!?あんな芸能界の苦労もなんにも知らない新人にファンを取られても!」
美空が指差した先は、もちろんドロップスの特集番組だ。
それを見て雨宮は大きなため息をつく。
「またその話か。こればかりは仕方がないと言っただろう。事実、我々には最近大したヒット曲がない。今は我慢の時だ。地道にやっていこう」
「もう!なんで皆そんな落ち着いてるのさぁ!」
叫び、そしてまた元気パワーがなくなったのか、美空は机に突っ伏す。
自分が一番を取れなくて、駄々をこねる子どもと同じ。
この性格はバンド結成当初から変わらないので、メンバーの扱いも慣れたもの。
「で…?リツ君、その紙なぁに?」
「あぁ。来月、歌番組への出演が決まった。その報告だ」
ペラッと丸めていた紙を広げると「ミュージックヘヴン」というタイトルと、その大まかな出演時間が記入されている。
毎週金曜日の夜9時に放送されている生の歌番組だ。
放送内容としては、1時間の間に何組かアーティストをゲストとして呼び、司会と話したり歌を披露したりする流れ。
weather lifeも何度か出演させてもらっており、幅広い世代から支持を集める人気番組として知られている。
ガチャン!
雨宮がその紙を見せると、美空は体に電池が入ったように突然立ち上がった。
「それってさ…コイツらも出るの?」
「『コイツら』と言うな。ちゃんと『ドロップス』というグループ名があるだろう」
「出るの?出ないの?」
「全く。あぁ、お前の予想通り、僕達の次に出る予定だ」
それを聞いて、日晴が「マジッすか?」と前に出る。
何を隠そう、このドロップスとの共演はテレビでもラジオでも今まで一度もない。
お互い顔を見合わせる機会もなかった為、今回初めて彼らと接触する事になるのだ。
その瞬間、普段はだらしない美空が珍しく緊張の表情を見せた。
「とにかく。そういう事だから忘れるなよ」
雨宮はそう言い残し「次の仕事がある」と伝えてテーブルにその紙を置いて去っていった。
「美空さん…」
「…ッ。なんもない。この紙、僕が貰うよ」
初めてとなるドロップスとの共演。
一体どんな奴らなのか。
テレビで流れ続けている彼らの特集番組に軽く目を向けた後、紙を小さく畳んでジーンズのポケットに仕舞った。
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