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……………
雑誌を開くと「ドロップス」
テレビをつければ「ドロップス」
あれ?このCM、この間までは僕達を使ってくれてたやつじゃん。
人気が入れ替わったと同時に乗り換えやがったな。
「なんだっての。あんな奴らのどこが良いんだ」
口では嫌味口調に文句タラタラでも、心の気分は谷底に落下する勢いで落ち込んでいく。
早く良曲を作らなければと机に向かうも、追い込まれる程これといった詩やメロディーが浮かんでこない。
ますます腹立たしくなって地下の自室を抜け、皆の集まるいつも部屋に向かう。
なんか、ひとりでいると無性に腹が立ってくるし。
ガチャン。
そこには、ひとりテーブルに資料を並べて仕分け作業をしていたエマの姿があった。
「あ…。七音…君…。お疲れ…さま…」
「あぁ…お疲れ…」
最近の七音君は、なんとなく機嫌が悪い。
今の挨拶だって声さえ聞こえないものの、不機嫌な声だって表情を見ていればわかる。
むしろ、普段の彼なら耳の聞こえない私の為に携帯で文字にして挨拶してくれる事が普通だったのだから。
斜め前の椅子に座った彼は、手に持ってきたたくさんの楽譜を広げる。
新曲…考えてるのかな。
最近、weather lifeの人気が少し伸び悩んでいるらしい。
なんでも、もっと人気のあるグループが現れたとか。
耳の聞こえない私にとっては、世間で流行っている音楽事情なんてよくわからないけど。
とりあえず…七音君が落ち込んでいる事には変わりないし。
私に何かしてあげられる事があればいいけど。
クラウディ君にお願いされた資料の仕分け作業を再び再開する。
「………。」
「………。」
流れる無音の時間。
私はひたすらに紙の数を数えている。
するとふとテーブルの向こう側から、開いた携帯がこちらに向かって置かれた。
そこには七音君が自分の携帯に打ち込んだ、私へのメッセージが。
『エマちゃん、何か良い詩ないの?最近君もあんまり詩書いてないよね』
「…ッ」
ドキン、と心臓が大きく動き手が止まる。
弱い所を突然針で突かれるような感覚。
「ご…ごめんなさい…」
そっか…
思えば私も近頃ピンとくる詩が思い浮かばなくて、こういう事務的なお手伝いばかりしている気がする。
七音君は私の「詩を書く才能」を見出して、ここへ連れて来てくれた。
それが私の本来の仕事。
「良い詩」を書かなければ、私がここにいる意味がないのだ。
七音君がこんなに落ち込んだり、weather lifeの人気に影がさしてしまった事は…
私にも一部責任があるのかもしれない。
「彼女にも常にネタがある訳ないだろ」
「ッ…」
美空が携帯を手元に戻そうとすると、急に後ろから何者かに話しかけられた。
首を回して見上げると、そこに立っていたのは眉間にシワを寄せた雨宮。
どうやら、この文字を背後から読まれたらしい。
「ミヤ君。だって…」
「だってじゃない。曲が作れないからといって他人に当たるのはやめろ」
厳しい目つきで注意をされ、美空はますます機嫌悪く眉をひそめる。
そして表情はそのままに椅子から荒く立ち上がった。
「外をちょっとフラついてくる」
逃げるように目の前の楽譜をまとめて、七音君は部屋を出て行ってしまった。
雨宮君、あの人に何と言ったんだろう…
『七音の言った事は、気にしなくていい』
すぐにそう打ち込まれた携帯を見せてくれた。
もしかして雨宮君、私を庇ってくれたのかな。
傷ついていた心がその言葉で多少癒されるも、やはりその反面で七音君の事が心配になる。
どこに行っちゃったんだろう。
七音君…本当は不安でいっぱいなんだろうな。
私も早くなんとか、彼を安心させる良い詩を書かなきゃいけない。
雨宮の見えないテーブルの下で、エマは自分のスカートを力強く握り締めた。
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