……………


〜♪


「あ、お姉ちゃん!ミュージックヘヴン始まったよ!」

「きゃー!ドロップス出てるぅ!ちゃんと録画出来てる!?」



聞き慣れたBGMに反応してテレビに飛びつく。

どこかの家庭で女子高生姉妹のそんなやり取りがあっていたりして。


テレビの画面には顔馴染みの司会のタレントさんがマイクを持って登場。

そしてドロップスをはじめ、たくさんのゲストが名前を呼ばれて会場入り。


金曜日、夜の9時。


ついに生放送の人気音楽番組「ミュージックヘヴン」が始まったのだ。

本日のゲストは5組。

4番目に歌うのがweather life。

そしてトリを飾るのがドロップスという順番だ。


番組終盤の出番となるため、weather lifeは初めは席が後ろ側に配置されているが、ドロップスはスタート時点から次に歌うゲストのすぐ隣。

常にカメラの前に座る配置となっている。


「好きな野菜は何?」

「なんですか、音楽番組でその唐突な質問(笑)」


番組が始まってからはテレビの前で見せる顔として、それぞれにこやかな表情だ。

雪之原とドロップスメンバーのベルや、雨宮とカインが会話を交わすシーンも見られた。




先程挨拶に行った時の顔とはまるで違う。


他人に警戒心を持たせない、天使のような優しい笑顔。










次々とゲストアーティストが自慢の曲を披露していく。

ポップな曲、切ないバラード。

踊りを加えた楽しい歌など、観ている側としてはとても楽しいし、負けられないと刺激にもなる。

どのグループも自分達らしい歌を歌っている時はイキイキと輝いて見える。

これだけを見ていると、自分達が置かれてしまった状況などすっかり忘れそうになってしまうのに。


「…………。」


横目でドロップスのメンバーを見つめる。

現実は、思うようにはうまくいかない。





男性ユニットの曲が終了し、次はついにweather lifeの番だ。

司会と現在ハマっているマイブームを少し話した所で時間になり、席を立つ。


この空気は…正直もう慣れている。

何度も音楽番組に出演させてもらい、培ってきた経験。

お客さんの反応を見ながら、メンバーは曲が流れる前に入念に音程確認をしたり、深呼吸をしたりする。






「それでは歌って頂きます。weather lifeで最新曲『Going my way』」










〜♪







ハイテンションな前奏が流れ出し、マイクを握って歌い出せば、いつもの「美空 七音」だ。

生まれ持った絶対音感。

天才的な歌唱力を武器に、会場に自分の声を響かせる。


それに加えてクラウディのドラム、日晴のギター、雨宮のベース、雪之原のキーボード。

それぞれが美空の声に合わせメロディを奏でて、音楽となって聴いている人の耳に届く。

もちろんパフォーマンスだって日晴のギターソロで魅せる。


リハーサルの時間だって十分に取れなかったのに、自然と体が動き声が出て。




「Going my way…」




ようやく曲を歌い終えた。


全てを出し切った表情。


息が上がったままの状態で、美空は深くカメラにお辞儀をした。














「はい、CM入ります!お疲れ様でした!」

「お疲れ様です」



全力で歌い切り、ようやくここで自分達の出番も終了。

あとはドロップスが歌い終わり、エンディングでカメラに手を振ってテレビの前の視聴者とお別れするだけ。

とりあえず大きな問題も起こらずに一安心だ。


楽器をスタッフに渡した所で、エマが小走りでこちらに向かってきた。

手には5枚のタオルが。


「ありがとぉ、エマっち」

「ありがとう」

「…あのっ……き…聴こえな…いけど……凄く…かっこ…良かった…です…」

「本当っすか?やっぱ俺のギターがイケてたんすね!」

「響介、調子に乗るな」


豪快に笑う日晴に、雨宮が冷静な突っ込みを入れる。


そしてエマが他のスタッフの手伝いをするため裏方へ戻り、自分達も席に戻ろうとしている所だった。









「お疲れ様でーす」



受け取ったタオルで汗を拭っていると、ある人物がこちらへ走ってきたのだ。

和んでいた全員の空気が突然張り詰める。


それは水色の髪が印象のドロップスのリーダー。

カイン・コースターだ。


次に自分達の出番が入るため、会場の状態を確認しにこちら側へ来たらしい。




「あぁ…お疲れ様です」

「はは。圧巻だったですねぇ。さすが先輩って感じ」


会釈をする雨宮に軽い口調で答えるカイン。

本当にそう思っているのか?

疑いそうになる程、彼の物言いには緊張感が感じられない。

とにかく自分から声をかけてきたという事は、我々にそこまで敵意はないという事なのだろうか。


「美空さんの歌声も凄かったですよ〜。パワーがあって!」

「え…」










ぽん。






肩に手を乗せ、ふと顔を耳元に近づける。



今さっきまで楽天的な笑い方に見えたのに



彼の表情は突然歪み、そして鼻で笑った。












「まぁ。オリコン9位にしては…ですけど」

「…ッ」









ピクッと美空の眉が動く。

カインはその後また元の爽やかな笑みを見せ、乗せていた手で数回その肩を叩いて走り出す。


「マイクの調子、大丈夫ですか〜?」

なんて、何事もなかったようにスタッフに訊きながら。








「あのヤロッ…」



なんだ、今の態度は…!

あの言い方は許せないっ…

さすがに美空も我慢出来ず、大声で怒鳴ろうとした瞬間…


「ムゴッ!」


後ろからクラウディに口を塞がれて阻止された。



「ディ!何すんっ…」

「七音」


低音の声。

雨宮だ。

彼の顔を見て、今日のあの一言が頭の中に蘇った。








―…いいか?これだけは言っておく。
本番中、どんなに理不尽な事があっても絶対に態度に出すな。…






「………ッ…」




ムカつく。


周りに聞こえないよう、わざと耳元で言ってきた。

誰にも聞こえていない。

恐らく聞こえたのは、僕達weather lifeのメンバーだけ。

スタッフにはあんなに良い顔見せておいて。

まるで僕がひとりでキレるのを待っているようだ。

このまま怒りを爆発させてしまうと、ミヤ君が言っていた通りその姿が全国に広まる。


そうなってしまうと、それこそ奴の思う壷だ。




「チッ…」


小さく舌打ち。美空はタオルで額の汗を拭いた後に席へ戻った。


よかった。

この場はなんとか抑えられたようだ。



「ありがとう、助かった。クラウディ」


どういたしまして、と彼は笑っているが、クラウディの表情もどことなく元気がない。

心配そうに美空を見ていた。


それにしてもあのグループは…完全に僕達を舐めてかかっている。


先程の楽屋での態度と同じ。

「先輩」と口では言っていても、尊敬や相手を敬う気持ちはまるで感じられない。


むしろ我々にだけ集中して敵意を向けているように見えなくもないが…

何か理由があるのか?

とにかくこのままだと、トラブルが発生するのも時間の問題だ。

それだけは、なんとか阻止しなければならない。









「あらら。思ったより案外我慢も出来るのね」

「ん?どうしたんですか?カインさん」

「いや、何でもないですよ」


大人しく席に戻る美空を見て、残念そうにカインは首を傾げた。


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