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……………
「…スッゲェムカつくっす」
今回のミュージックヘヴンの放送は大きな問題も起こらず、無事に終了したらしい。
しかしweather lifeの空気は最悪。
カインによる美空への発言。
控え室に戻った日晴は、怒りをむき出しにしている。
「精一杯歌った美空さんに対して、あんな嫌みを!しかも周りには聞こえないように言う所が汚くて更に腹が立つっす!」
「まぁ、そぉだよね〜。あれは明らかにナオ君があの会場で怒る事を煽って言ってた言葉だったねぇ」
「それに自分達は遅刻してきた分際にもかかわらず謝りもしないし!スタッフも今ちょっと売れてるグループだからって贔屓しすぎっす!」
あー、ムカつく!と何度も怒りを爆発させながら、日晴はペットボトルの水をがぶ飲みする。
もちろん腹が立っているのは皆同じだ。
冷静な顔をしている雨宮もクラウディだって、本当は内心苛立って仕方がない。
そして何より、一番深い怒りが込み上げているのは誰でもない、美空本人だ。
これが芸能界。
時代の流れは…人生の半分も生きていない僕達にとっては、とても付いていけるものではない。
改めてこの世界の過酷さを身を以て実感した。
ガチャン。
「あのっ…」
そこで数回扉が叩かれる音が聞こえ、少しだけ開いた。
外からエマがひょっこり顔を出してきたのだ。
「お疲れ…さま…です…」
「あ、エマさん。お疲れっす。どうしたんすか?」
彼女の手には見慣れない物が握られていた。
まるでおとぎ話に出てきそうな丸型の大きなバスケット。
中にはお菓子が入っていて、その姿が小柄な女の子のエマにはとても似合っていた。
「司会者さんから…ゲスト…全員に……おすそ分け…だそう…です…」
「本当に?いや、嬉しいっす!」
さっきまで怒りを爆発させていたのに「おすそ分け」と聞いてすぐに日晴が飛びつく。
これもまぁ彼の単純な性格の良い所でもあるが。
とにかくピリピリとしていたメンバーの空気が、彼女の介入によって少しだけ和らいだようだ。
バスケットの中のお菓子は大きめのチョコレートパイ。
きちんと人数分入っており、エマが部屋の中に入ってそれをひとつずつ配る。
この番組関係者には自分達はあまりゲストとして丁重に扱われなかったが、こうやって皆平等に可愛がってくれる人もいるんだ。
今までは当たり前の事だったが、それがとてもありがたく感じられる。
『エマさん、今日の仕事大丈夫だったすか?』
「…え?あ…はい……大丈夫…で…した…」
『そうすか!よかった』
日晴とエマの会話を見る限り、彼女はドロップスとは関わらなかったようだ。
自分達のように嫌がらせを受けていないかと内心ヒヤヒヤしていたが安心した。
カゴの中にはweather lifeの人数分しかチョコレートパイが入っていなかった為、クラウディが自分の分を半分に割り彼女に差し出して、
皆で頂いたお菓子を食べる事にした。
とりあえず、今日は大きな問題が起こらなかっただけでもよかった。
カインに嫌みを言われるハプニングも起きたが、それもなんとか受け流す事も出来たし。
彼ら以外のグループに対しての対応は風当たりが強かったが、これに関してはもう今は我慢をするしかない。
現実、今のドロップスの人気は他アーティストより群を抜いている。
この人気が落ち着くまでの辛抱といった所か。
雨宮がパイをかじりながらそう考えていると…
コンコン!
再び扉を叩く音が聞こえた。
しかし今度は、なんとなく不穏にも取れる音。
聞いただけなのに、何故かそれぞれに悪寒が走る。
「失礼しまーす。あれ?食事中でした?」
許可もしていないのに勝手に扉を開けて部屋の中を覗いてきたのはなんと、ドロップスのリーダー、カインだ。
その後ろには、メンバーのベルやアレックスもいる。
「……ッ…」
マズい。
これは…
突然の彼らの楽屋訪問に、weather lifeの緊張感が一気に高まった。
「あぁ…すみません。お見苦しい所を見せてしまって」
「あ。それ司会者さんに貰ったヤツですか?こっちも貰いましたよ。なーんだ、俺達だけかと思ってた〜」
カインの人を馬鹿にしたような態度。
それを聞いて眉を微かにひそめる雨宮だが、反論する事なくお茶を口に含み腰を上げて3人の前に立った。
「本日はお疲れさまでした」
「お疲れさまです。いやね、俺達遅刻しちゃって他の共演者と全然絡んでなかったですから。先輩だし、まぁ一応挨拶しておいた方がいいかなと思いまして」
あ…。
この人達、今日最後に歌った人達だ。
最近よくテレビで観る…ドロップス…だっけ?
ふとエマがドロップスから視線を逸らすと、weather lifeメンバーの顔つきが皆変わっている気がした。
どうしちゃったんだろう。
この人達、何を話してるのかな?
明らかな嫌み発言を物ともせず、雨宮は軽く頭を下げていた。
「そうですか。わざわざありがとうございます」
「あー、アナタ本番前に挨拶に来てくれた人だよね?たったひとりで!」
「はい。あの時は他メンバーが不在だったので、揃っての挨拶は後日と伝えたはずですが」
「でも今のんびり皆でお菓子食べてたっすよね?今、来てくれてもよかったんじゃないの?俺達みたいに『メンバー全員』でさ」
タメ口で話してくるのは、ドラムを担当しているアレックスだ。
180センチ以上の高身長。威圧的な刺青だらけの男。
とてもじゃないが先輩グループへの台詞ではない。
おさまりかけていたメンバーの怒りが再び込み上げ始め、表情が徐々に厳しいものになる。
「ドロップスの皆さんは今が一番忙しい時期ですので。予定を変更して無理に押しかけるなど迷惑かと考えたので、お伝えしました通り後日お伺いする事としておりました」
さすが雨宮は完璧な切り返し。
完全に舐め切っている向こうに対して、一歩も引けを取らない堂々とした対応だ。
「ふーん。まぁ、いいですよ。それよりなんか今日はすみませんでしたね。出番をほとんど俺達に譲ってくれてたみたいで」
「……ッ…」
「あれ?違ったんですか?俺はてっきり優しい先輩達がこっちの出番を増やしてくれる為に、わざと身を引いてくれたとばかり思ってましたよ」
「なんっすか、その言い…」
そのカインの言葉に頭に血が上って日晴が立ち上がろうとすると、
ガッ!とクラウディに腕を掴まれる。
そんな彼の姿を冷やかな目で見つめ…
「あ、なんだ。こっちの方が感情的になりやすいんなら、こっちに言えばよかった」
「…ッ」
その言葉に思わず美空の瞳孔が開く。
やはりこの男は、初めから僕らのメンバーがあの本番の会場で激怒する事を期待してあの台詞を言ったらしい。
「まぁ、持ち上げられたら振り落とされる時が一番怖いですよね。俺達も気をつけますね」
「テメェ!さっきから聞いてりゃ…」
「七音!!煤v
我慢の限界。
ついに怒りを露わにした瞬間、立っていた雨宮が美空に向かって怒鳴った。
ビリビリと電気が飛び散っているような緊張感。
怒りの感情に満ちている美空に、他のメンバー達も険悪な空気。
雨宮が怒鳴った事も顔を見ればわかり、エマは思わず怖くなって体を縮こませた。
「………ッ…」
雨宮が周りを見ると、今の自分の声を聞きつけて近くにいた野次馬達が廊下の向こう側から見ている様子が窺えた。
このままでは大事になりかねない。
「おー、怖いなー」
面白がってニヤッと笑うカインを雨宮は強く睨み付けた。
言葉には出さないものの、仲間を馬鹿にして侮辱するコイツには計り知れない怒りを感じる。
「ここだと騒ぎになります。本日の所はお引き取りください」
「わかりましたよ。じゃ、また共演する機会があったらよろしくお願いしますね。先輩♪」
「…………。」
ガチャン
ドロップスを追い出し、雨宮はゆっくりと扉を閉めた。
エマの体は硬直して縮こまったまま。
今のっ…な…なんだったのかな…
皆…
あの雨宮君も凄く怖い顔をしてる。
いつも私の前では、皆優しい顔をしてくれていた。
私が失敗をしても優しくフォローしてくれたし、何か問題が起こっても心配をかけまいと
とにかく笑ってくれていた。
そんな彼らの顔が…今日は凄く怖い。
『エマ』
「…ッ…」
扉側から歩いてきた雨宮君が、私に文字で話しかけてきた。
『怖がらせてすまない。君はこの件とは無関係だ』
雨宮君……凄く…辛そうな顔…
何が…あったの?
訊きたくても、その言葉が出てこない。
『5人だけで話がしたい。悪いが他のスタッフの所へ戻ってもらっていいか?』
見せられた携帯の文字に断る事も出来ず、コクリと僅かに頷く。
何か深刻な問題が起きている事は、耳が聞こえなくてもわかる。
私がそれを邪魔するわけにはいかない。
深い内容もわからず、エマは言われた通り控え室を出た。
空になったバスケットを抱えて。
七音君も…あんなに怖い顔してた…
今はただでさえ落ち込んでいるというのに。
可哀想…。
ねぇ…
weather lifeに一体何が起こったの?
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