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……………
高層ビルが立ち並ぶ中心街。
そこに一際背の高い建物があり、慌ただしく人が出たり入ったりを繰り返している。
【ハイマリンコンツェルン】
多くの芸能人やアーティストを輩出する一流の芸能事務所だ。
テレビやラジオに出ている人間も、ここに多く所属している。
そしてこの会社が今最もプッシュしているアーティストが、入口に大きく飾られているポスターのグループ。
「ドロップス」なのだ。
このグループの出現に伴い、芸能界に憧れてこの門をくぐる人間も最近増えてきているほど。
入口だけでなく、そこかしこにポスターが貼られたり等身大パネルが置かれていたり。
新星のごとく現れ、瞬く間にその世界のトップにまで登りつめた超スーパーグループ。
今はもはや、その名前を知らない者はいない。
「「キャァーッ!!」」
今日も出待ちのファンに囲まれ、高級車から降りてきた3人は笑顔で手を振った。
中心にいるのがドロップスのボーカル兼ギターのカイン・コースターだ。
水色の髪と同じく水色と黄色のオッドアイの瞳を持った、中性的な甘いルックスを兼ね備える絶対的エース。
歌唱力もあり、その色気のある歌声で常に女性ファンを魅了している。
左側にいるのはベースのベル・ラスト。
ホストを連想させる優雅な立ち振る舞いの男性。
女性の喜びそうな台詞やサービスに定評があり、ナルシストキャラでもある。
切れ長の目と、ひとつに結った銀色の長髪が特徴的。
そして右側はドラムのアレックス・スコルフ。
長身、筋肉質な体つきで、真っ赤な髪の中に黒のメッシュを入れたオールバックが特徴のワイルドな青年。
耳の他、唇や目尻などにもピアスを付けたり、腕に刺青があったりと、見た目が派手な野獣系として人気を集めている。
「きゃー!カイン!!!」
「ベル様ぁああああ!!!」
「アレックス、最高ッ!」
周りからの黄色い声援を浴びながら、ガードマンに囲まれてビルの中へ入る3人。
エレベーターでその建物の上部まで上がり、ようやくゆっくり出来るドロップス専用の自室へ辿り着いた。
「ふぅー、疲れたー」
カインは部屋に入るなり、すぐにど真ん中にある大きなソファーに寝転がった。
「それにしても、今日はまた一段と下にたくさんいたな。俺達の姿なんて一瞬しか見られねぇのにご苦労なこった」
「レディが私達の姿を一目でも見る為に何時間も待ってくれてるんだよ。アレックスはもう少し感謝する心を持ちなさい」
「レディ…ねぇ。今日は人数多い割にブスが多かったから、やっぱ素直に感謝出来ねーな」
「君は相変わらず贅沢だねぇ」
「コロコロ色んな女に手を出すお前よりはマシだっての」
笑い合うアレックスとベル。
このふたりは雰囲気こそ真逆だが、妙に性格が合うらしく仲が良い。
「なぁ、それよりあの話はどーなった?」
「あの話とは何ですか?」
「美人アイドルグループ、『エイトフェアリーズ』との合コンの話だよ!
お前、ジェシカちゃんと仲良くて今度俺も誘ってくれるっつったじゃん!俺それ超〜楽しみにしてんだけど!」
「あぁ…話はつけていますよ。来月予定が空けば開催する予定です」
「おぉ!さっすが百戦錬磨の色男、ベル様ぁ!愛してるぜ!」
ハグしようとするが「男と抱き合う趣味はありません」ときっぱり断られてしまう。
テレビの前では見せない顔、話せない会話。
いつも誰かに見張られてる彼らにとっては、ここが本性を堂々と見せられる唯一の場所なのだ。
と言っても、このふたりの話題は専らいつも「女」の話ばかりなのだが。
壁に寄りかかり長い足を交差させたベルは、前髪をいじりながらソファーに寝転がっているカインにも目を向けた。
「カイン。今度の食事会には貴方の席も一応準備しておりますが…どうしますか?」
「俺はパス」
「ふふ。そう言うかと思いましたよ。君はそんなに良い容姿を持っているのに異性に興味がないなんて…実に勿体ないですねぇ」
「あ?もしかして、あのイケメンアイドル、カイン君は女じゃなくて男が好きなの〜?それじゃ俺とハグハグしちゃ…」
「もっとパス。俺は人間自体に興味がない人間なの」
やる気のない声を出して、ようやく起き上がったその男。
その顔はどこか生気が感じられない。
「俺が興味あるのは今の俺だけ。世の中の中心にいる…誰もが羨むこの地位。脚光を浴びメディアに注目され、人気がある事だけが今の俺にとって生きている全て。
それ以外の『男だの女だの』…くだらない茶番には興味がないだけだから」
色の分かれた冷め切った瞳でベルとアレックスを見つめる。
テレビやメディア関係者の前では、明るく人懐っこいキャラクターを演じている彼。
しかし今のカインに、その面影はまるでない。
この部屋に入ると彼はいつもこの調子。
この顔がイケメンアイドルと呼ばれる「カイン・コースター」の本当の顔なのだ。
「ふふ。貴方は私よりナルシストですね」
「誰だってそうだろう。結局最後は人間誰だって、自分が一番大事で自分が一番可愛いんだ」
立ち上がり夜で暗くなってきた大きな窓ガラスが鏡代わりになり、その整った顔を見つめる。
「誰にも邪魔させない。どの芸能人にも。weather lifeにも。俺達が常にトップでいる事が全てだから」
「大丈夫だってぇ。今の俺達の人気凄いじゃん!適当にあの人が持ってきた歌を歌って甘い台詞でも囁いてりゃ、世の中の女達は放っておいても……っ…」
『weather lifeニューシングル
【Going my way】
火曜ドラマ主題歌決定!パワー溢れる歌詞と流れるようなリズムで…』
「……………。」
つけていたテレビにたまたま映ったのは、あの美空七音だ。
アイツが歌っている姿。
その瞬間、アレックスの眉がピクッと動き、すかさず立っていたベルに言う。
「ベル、チャンネル変えろ」
「はいはっ…」
ブチッ!
「ッ!」
ベルがリモコンを握る前に画面は突然真っ黒になった。
テレビの横に立っているカイン。
その手には、強引に引き抜いたコンセントの線が握られていた。
「………。」
「カイン…」
床にそのコンセントを捨て、彼は首を傾げて笑みを浮かべる。
「こうしちゃう方が、早いでしょ?」
それはメディアの前で見せる人懐っこい笑顔。
しかしその綺麗な笑顔の奥には、真っ暗で悪意に満ちた感情が渦巻いている。
世の中の人間は…誰もそれにまだ気づいていない。
「ったく。お前って奴は…」
「オーナーの部屋に行こう。また新しい材料が入ったらしい」
「『材料』か。あの人も嫌な言い方するな」
「別に、俺達にとってはそんな事どうでもいいよ。売れる曲を提供してくれりゃ、それが別にどうなろうと知った事じゃない」
「ふふ。相変わらず、お仕事熱心ですね」
「俺はいつだって熱心に決まってるでしょ。じゃぁ行こうか」
明かりを消し、3人には広すぎる部屋を出る。
向かう場所は、このビルの「オーナー」と呼ばれる人物の元だ。
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