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……………


「「カンパーイ!!」」


ここはとある焼肉料理店。

仕事を終えた大人達が行き交う街中、その店で盛大に乾杯を交わしたのは若い学生の集団だった。


「ぷはぁ!美味い!」

「キョウ君それジュースなのにオジサン臭い〜」


まだ高校生という事もありコップの中身はお茶や水、オレンジジュースなど、まだまだ大人とは程遠い飲み物ばかり。

それをまるでビールのように飲み干し、日晴は手で口元を拭った。



「響介。調子に乗ってくれぐれも羽目を外しすぎないように」

「えー、だってこんな嬉しい事があったのに!ちょっとくらい構わないっしょ?」

「そのような気の緩みが次の失敗に繋がり兼ねない。どこで誰が見ているかわからんから言動を慎め」

「ったく、雨宮さんてば飯の時でさえお堅いんすから!ここ個室だから誰にも見られませんよ!」


そう。

日晴の言う通り、weather lifeに久しぶりの朗報が入ったのだ。

先日出した新曲がドラマの主題歌として使われる事になった。

その影響もありCDの売れ行きは好調。

ドロップスには届かないものの、それに続く程のヒット曲となったのだ。

ここ最近は暗い話題が多く、メンバーのモチベーションは下がり気味だったものの、歌手活動に一筋の光が差し込み、以前の明るさを少しだけだが取り戻す事が出来たらしい。


相変わらず美空は不機嫌なままなのだが。

昔は自分達の曲がドラマに使われるなんて「当たり前」だったのだから、それを喜ばなければいけない自分が惨めで、未だ受け入れ切れないのだろう。




「お待たせしました。特選牛コースAになります」

「わぁ、美味しそぉ」


店員が運んできたのは皿に並べられたカルビやハラミ、豚トロなど、食欲をそそる肉の数々。

受け取った雪之原が次々と並べ、早速店員がテーブルの中央に設置してあるコンロに火を起こす。

数分も経たない内に、顔に熱気が伝わってきた。



「さっ!焼きましょ、焼きましょ!」


肉食系男子(単純に肉料理が大好き)な日晴はトングを握り、器用にそれを網に敷き始める。

「お祝い」という事もあり、普段より高めの肉が焼かれる光景は、食べ盛りの男子高校生にとっては最も胸が高鳴る瞬間。

中は若干生で表面が茶色く焼かれた肉を、用意された3つの内の好きなタレに潜らせ一口。

日晴なんかはその後すぐに大盛ライスをかき込む。



「美味…しい…」

「でしょ!エマさんもこの店の肉の旨さがわかるんすね!」


焼き肉を一枚食べた感想を素直に口に出すエマ。

家で食べるお肉なんかとは全然違う。

本で読んだ「口に入れた瞬間、とろける肉」とはまさにこの事なんだ。

美味しい。

今まで食べたお肉の中で一番高級感を感じる。


ふと横を見ると、隣に座っていた雨宮君がこちらを見ていた。



『美味いか?』


その携帯の文字にコクンと頷くと、優しく笑って『連れて来てよかった』と返してくれた。

周りを見ると、皆笑いながら楽しそうに肉を頬張っている。

日晴君と雪之原君で特上カルビを取り合う。

それをまるでお父さんのような目で見つめ、「まだあるから心配しないで」と言わんばかりに、同じカルビをたくさん焼いてあげるクラウディ君。

一番端に座ってる七音君はまだ無口のままみたいだけど、それでもお腹は空いていたらしくちゃんと食べてくれている。








「…う…れ…しい」

「え?」


隣の自分にしか聞こえない声の大きさで、エマは突然呟いた。

「どうした?」と見ている雨宮に対し、頬を若干染めながら彼女は素直に答える。


「わた…し…心配…だったん…です。
みん…な…がッ…このまま…悲しい…顔のまま……解散…して…しまうんじゃないかって…」


「ッ…」



雨宮の言葉が詰まる。

箸を茶碗の上に置き、目を虚ろにする彼女。

それはホッとした安堵の表情で。


「…みんなが…バラバラになっちゃう…事が……一番…怖かった。私…やっと…自分の…居…場所が…見つかったのに…」

「エマ…」



ふと雨宮の脳裏に、ゴミ箱に大量に捨てられた詩のルーズリーフが思い出される。

彼女が恐れ、必死に新しい言葉を考えている理由はここにあったのだ。

僕らが万が一解散してしまった所で、彼女が損をしてしまう事など何もない。

むしろこの目まぐるしく忙しい生活から解放される。


なのにそれを一番恐れていたのは、まぎれもない彼女自身だった。


内心、辛くて辞めたくなる時もあったんじゃないかと思っていたが。


エマはそれほどまで、このバンドを好きでいてくれたのか。


それを考えると、ますます切なく苦しい気持ちで胸が締め付けられる。




「それにっ…」





言葉を続けるエマに、再び視線が向かった。




「み、んな…の…歌って…る姿…見られなく…なるのは…悲しい…から…」


「……ッ…」




何も返せない。


雨宮の視線が反対側の、エマの視線の先へと向かう。


「皆」と言いながらも、彼女の目はひとりの男しか見ていなかった。




…七音。



テーブルの隅で不機嫌な顔をしている男。

肉を食べ続ける彼の姿を、雨宮も箸を握ったまま黙って見つめた。




「ごめん…なさい。変な事…いきなり…話して…。雨宮…君なら…わかって…くれそうな…気がした…から…」


照れ笑いを見せ、続けてタンを頬張るエマ。

ご飯を食べる一口だって、口のサイズに合わせてとても小さい。


「…………。」

「雨宮…君?どうしたの…?」

「なんでもない」


携帯に文字を打つ事も忘れ、彼はご飯を口の中へ放り込んだ。

なんだかいきなり食べる量が多くなったような…。

どうしたんだろ。




「クラウディさん、特上カルビ追加よろしくっす〜!!」

「僕、かき氷〜!」

「雪之原さん、かき氷焼くんすか!?」

「馬鹿じゃないのぉ、デザートに決まってるじゃん」



こうして焼肉店での騒がしい祝賀会は夜遅くまで続いた。

食べても食べても食べ足りないくらい。

何はともあれ久しぶりのおめでたい日。

この調子でweather lifeの人気が回復する事をメンバーそれぞれが願っていた。

もちろん、それは口では誰も言わないけれど。


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