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……………


【次は第1イーストサイドビル前です】


電子掲示板を見て、電車から降りる準備を始めるエマ。

weather lifeの仲間になって、こんなに責任重大な仕事は初めて。

しかもやるのも私ひとりだけ。

簡単な仕事だって七音君は言ってたけど、慣れてない初めての私にとっては全然簡単じゃない。

やはり頭の中は不安でいっぱいだ。


雨宮君にメールをしようかと悩んだけど、彼の事だ。

今担当してる仕事をすっぽかしてまで、こちらへ飛んでくる可能性がある。

さすがにこれ以上迷惑はかけられないと思い、開きかけていた携帯電話を閉じた。

ここは自分ひとりでなんとかしなければ。



苦手な人ごみをなんとかかき分けて電車を降り、ビルへ足を向かわせる。

先日行ったばかりだったので、風景も場所もなんとか覚えていた。


この信号を渡って。

この歩道を進み、あ。この化粧品会社の看板には見覚えがある。

確かここを右に曲がって…


着いた。ここだ。







「………。」



辿り着いたビルは、この間来た時よりも高く大きく感じられた。



どうしよう…。

今更緊張してきた。


この間は仲間のスタッフさんがいっぱいいたのに…右も左も今日は周りに誰もいない。

目に入るのは名前も知らない大人の人達ばかり。


ごくんと息を飲み、七音君から預かったバッグをギュッと握り締めて恐る恐るビルの中へ入る。

こんなに挙動不審な人はいないだろうから…きっと目立ってるだろうな。


人にぶつかったり転びそうになりながら案内所へ近づき、なるべく男の人は避けて女性の案内人に話しかけた。



「あっ……あの…」

「はい。どのようなご用件ですか?」

「……っ…」


どうしようっ…何も聞こえない。

耳が聞こえない事を説明しようとしたが、頭の中が真っ白になって何も言葉が出なくなった。


「あのっ……え……と……っ…」

「…っ…」


エマの反応に何か気がついたのか、彼女は手元にあったメモ帳に文字を書き出す。



『エマ・ガーネット様ですか?』

「…っ…?…は、…はい…」

『美空様より事情は伺っております。担当の者を呼びますので少々お待ちください』



綺麗な文字でその言葉を見せてくれ、案内のお姉さんは内線でどこかへ電話をかけ始めた。


…よ…よかった。

七音君、ちゃんと私の事伝えててくれてたんだ。

とりあえず最初の難所を乗り越えて少しだけ安心する。

数分待つと、エレベーターから降りてきた別の若いお姉さんがこちらに駆け寄ってきた。


『エマさんですね。よかった、無事に来られたみたいで』


茶髪でポニーテールの活発そうな女性は、打ち込まれた携帯を見せてくれた。

一緒にいてくれる人も女の人だ。


『七音君から話は聞いてるわ。難しい事は何もないし私がサポートするから大丈夫よ。上に何人か集まってるから、私と一緒に来てもらえる?』



長身で白のスキニーパンツを穿きこなした姉御肌風のこの女性。

頼りがいのある笑顔を見せてくれて、内心ホッとする。

この人と一緒なら、なんとかやっていけそうな気がした。


「よろしく…お願い…します」

「うん!よろしくね」


一度大きく頭を下げ、お姉さんに手を引かれてエレベーターに乗せられた。


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