24
……………
次の日。
昨日と同じように、授業終了後の夕方に全員が事務所へ集まってきた。
今日も見る限りエマの姿はない。
メンバーが集まった理由は、大方昨日中途半端に終わった音合わせの続きの為だ。
正直、今日も息が合わずに終わるんじゃないかと思ってやってきたメンバーもいる。
「お疲れさまっす」
「お疲れぇ」
日晴と雪之原が到着し、これで事務所に全員が揃った。
号令がなくても、普段通り音合わせを行おうと隣の部屋にそれぞれが向かおうとするが
5人のweather lifeのメンバー。
その中に、昨日とは明らかに顔つきの違う男がいた。
「ミヤ君」
「…っ」
ブレザーを脱いでハンガーにかけていた所で、雨宮は背後から誰かに声をかけられる。
彼の事を「ミヤ君」と呼ぶ人物は、メンバーの中でひとりしかいない。
「七音、なんだ?」
「再来月。またミュージックヘヴンへの出演依頼の話があったじゃん?」
「あ?あぁ…それがどうした?」
「歌う曲は?」
「前回と同じ『Going my way』の予定だ」
「…………。」
答えてあげたにもかかわらず、特に返事をしない美空。
何かを真剣に考えている表情で、珍しい顔に妙に違和感を覚える。
すると数秒後に顔を上げたかと思えば、突然突拍子もない提案をしてきたのだ。
「それじゃなくて、メドレーで歌いたいんだけど」
「は?」
驚いたその声に、何事かとメンバー全員が振り返る。
「な、何を言い出すんだ?メドレー枠はまた共演するドロップスに決まったとこの間伝えただろう?」
「局や関係者には僕からお願いする。だから…」
「しかしそんな事…」
「頼むよ、ミヤ君!」
美空と雨宮が何やら言い合っている様子。
またケンカかと周りに集まろうとしたら
「僕…ここで歌わないと、この先一生変われない気がするんだ!」
「ッ…」
先日とは少し様子が違う。
少なくともケンカではない。
「七音、何を考えて…」
トン。
困惑する雨宮の肩を、美空じゃない何者かが後ろから叩いた。
振り返ると、そこには背の高いクラウディの姿が。
この緊張感の中、何も言わず目をアーチ状にして笑っている。
「クラウディ…」
言葉はなくても、彼の考えがなんとなく読み取れる。
恐らく言う事を聞いてやれと。
そしてもう一度、目の前の男の顔を見ると…
美空の顔は昨日までとはまるで別人に変わっていた。
自分勝手
どうすればいいかわからない
落ち込んで投げやりに。
そんな言葉など一切感じられない、堂々とした出で立ちで。
彼の真っ直ぐな瞳に、驚いている自分の顔が映っていた。
一体何があったのかはわからないが、その姿は僕が七音にずっと求め続けていた「リーダーとしての姿」に似ている。
「…………。」
クラウディや他の仲間が見つめる中、頭の中を整理しているのか黙り込む雨宮。
今までとこれから。
何が正しい答えなのかを必死に見極めようとしている。
そして、その口がゆっくりと動き出した。
「…わかった。お前の思うようにやれ」
「本当!?」
「あぁ」
自分はお前の指示に従うと宣言したんだ。
ここで拒否をすると、自分の言葉に嘘をついた事になる。
それに、今日のコイツの顔つきはなんだか違う。
「周りからの評価」そんな鎖に縛られていた息苦しい体から、ようやく解放されたように。
雪之原や日晴も、もちろんその雨宮の答えに反対するわけがなく。
何も言わずに頷いた。
自分は…まだ見捨てられていない。
こんな自分でも、まだ付いて来てくれる仲間がいる。
彼らの姿に胸の中が猛烈に熱くなった。
「ありがとうっ、皆。僕、今日はちょっと出るから!」
今すぐ行動を起こさないと気が済まない美空は、すぐに鞄を手に取った。
正直、音合わせなんかやっている場合じゃない。
もっと自分にはやらなければならない事がある…!
「じゃ!バイバッ…痛っ!!」
椅子の角に足をぶつけて痛がりながらも、そのまま慌ただしく部屋を飛び出す。
その落ち着きのなさや破天荒さは、今までの美空とは全然変わらない気がして、クラウディが思わず笑った。
「はは。何があったんすかねぇ、美空さん」
「さぁな」
「あははぁ。僕はてっきりリツ君の事だから『無駄だ。非現実的な理想を語る暇があればボイトレをしろ(堅)』とか言うと思ったのにぃ〜」
「僕はそんな話し方はしない」
「クスッ」
「あ!今クラウディさん笑ったっすよ!!」
ようやく緊張感の漂っていた事務所の部屋に、和やかな空気が戻る。
雨宮はテーブルに置いていた楽譜を手に取って呟いた。
「何があったって、アイツは僕達のリーダーである事に変わらない。七音がいなければ、この『weather life』というグループも存在しなかったんだからな」
「雨宮さん…」
「だったら我々は付いて行くだけだ。たとえどんな馬鹿で計画性がないリーダーでもな。今はアイツが思うようにさせてやろう」
そう言い残し、先頭に立って音合わせ室へ向かう。
今日の練習はボーカル抜きだ。
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