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……………


「でさでさ、ソニアちゃんの体超エロくてさ!」

「ふむ。彼女はやはり男なら誰でもいい思考のレディだったんですね」

「え、何?お前、彼女となんかあったの?」

「まぁ。少々かじり合った程度の仲ですよ」

「んだよ、またオメーのお古かよ!テンション下がるんすけど、マジで!」


立っているベルとアレックスが相変わらず飽きずに女談義で盛り上がり、
それを聞いているのかいないのか、興味のなさそうにソファーで寝転がっているカイン。


「なぁ、カイン!オメーは最近女と遊んでねぇのか?簡単にヤラせてくれる女いたら誰か紹介してくれよ〜!あ、でも可愛い子限定な!」

「知らないね。風俗にでも行ってくれば?」

「風俗こそ色んな男とヤリまくってる使い回しだろ!?俺はもっと誰からも汚されてないピュアな天使と純愛を育みたいわけ!」

「それなら簡単にエッチさせてくれる女紹介しても意味ないじゃん」


アレックスの言葉に呆れて、面倒臭そうにペットボトルの水を飲むカイン。

相変わらずテレビや人前にいる時とプライベートの顔はまるで違う。

こんな冷めた表情の彼を見たら、ファンの女性達はどう思うだろうか。







プルルルル!




そこで少し続いた沈黙を破ったのは、部屋の隅に置いてある内線電話。

「私が取りますよ」と名乗り出たのはベルだ。

彼は電話に近づき、鳴りやまない電話の受話器を取る。



「もしもし、ベルです。はい、はい…え?」


漏らした声にそれぞれ振り返った。

ベルは「少し待ってください」と通話を保留にした後に、驚くべき内容を伝えてきた。



「どーした?」

「一階に美空七音が来ているらしいですよ」



「…ッ」



美空七音。



その言葉を聞いた瞬間、カインは突然目の色が変わった。


「はぁ?美空が?なんで?」

「私達に何か話があるみたいで。どうします?」

「そんなもん追い返し…」


「入れてあげなよ」



アレックスの言葉を塞ぎ、割って入ってきたカインの声。

ふたりは驚いて顔を見るが、ソファーに座り直した彼の表情はまた不気味に二ヤッと笑っている。



「いいんですね?」

「別に。構わないよ」




「通してください」というベルの指示で、その数分後に扉を叩く音が聞こえた。

恐らく彼だ。




「どうぞ」

「失礼します」








ガチャン




ドロップスの部屋に入ってきたのは美空ひとりだけ。

見る限り、雨宮や他のメンバーの姿はなかった。

この部屋にweather lifeの人間が入ってきたのは初めてだ。

不穏な空気の中、生意気な口調で椅子にふんぞり返ったアレックスが問いただす。


「あのweather lifeの美空七音様が直々にこんな所までいらっしゃるとは。何かご用ですか??」

「…再来月の『ミュージックヘヴン』の件ですが」

「あぁ。俺達がメドレーを歌うアレ?」

「そのメドレー枠を、今回だけ僕達に譲ってくれませんか?」



「…ッ」



張り詰めた空気の中、思ってもいなかった要件にアレックスとベルが目を見開く。


「はぁ?なんでお前らなんかに」

「今回だけで構いません。アナタ方の許可が貰えればOKすると局からも話を頂いています。お願いします」

「ふざけんなよ。何考えてんの?マジで」

「迷惑なのは重々承知です!しかし、今回はどうしてもメドレーで歌いたいんです!お願いします!一度だけで構いませんから!」




頭を何度も下げる美空。

その異様な光景にアレックスとベルは顔を見合わせるが、カインだけは無表情のまま彼を見つめるだけで返事は返さない。

ベルはそんなリーダーに判断を委ねる。


「ですって、カイン。どうされますか?」

「…………。」


彼はそのままの目つきでベルを見た後、メリハリのない声でその質問に答えを返した。


「いいんじゃない」

「ふふっ。そうですか。七音さん、よかったですね。許可が下りましたよ。ただし視聴者から苦情がきても、こちらは一切責任を負いませんからね」

「…………。」



あの美空が自分達に頭を下げている事が誇らしくなったのか、ベルは片目を隠した長い前髪を触りながらクスクスと笑った。





屈辱だ。

こんなにも屈辱的な出来事が今まであっただろうか。

一時期は「絶対王者」「音楽界に現れた天才」と呼ばれていた自分がこんなにも情けなく頭を下げ、

こんなその辺から出てきたばかりの新人に馬鹿にされるとは。



頭を下げながら必死に…あの時のエマちゃんの顔を思い出す。


凄く後悔してる。

彼女を傷つけた事。


エマちゃんだけじゃない。

僕のせいでミヤ君にもユキにも、ヒーちゃんにもディにも。

もちろんスタッフ関係者全員にも。

周りに散々迷惑をかけた。

振り回して辛い思いをさせて、何度も何度も困らせた。


耐えなければ。


ここを乗り越えれば…まだ自分は救われる気がした。










「…ありがとう…ございます…っ…」








喉の奥から絞り出すような声で、美空は頭を下げ続けた。


顔を上げると、赤髪と銀髪は満足気にニヤニヤ笑っている。

あのボーカルは…何も言わずにこっちを見ているだけ。


ドロップスの許可も貰えた。

もうこんな所に用はない。


「では、失礼します」と頭をもう一度下げ、部屋を出ようとノブを手にかけたその瞬間…
























「ところでさ。エマちゃん、大丈夫だった?」



「ッ…」






後ろから耳に入ってきた言葉に、思わず手の動きが止まる。

妙に耳に触る甘い高音。

あのカインの声だ。




「え、誰?エマちゃんって」

「いたじゃん。俺達がこの人達の楽屋に行った時に女の子がひとり」

「…あぁ!そいえばいたな!あの紫の髪の!てっきりファンかと思ってたけど。それがどうしたんだ?」

「んー?この間バッタリ会ったからちょっとお話しただけ」



「…………ッ…」


アレックスとカインの会話から背を向けたままの美空。


「あの子偉いんだよ。耳が聞こえないのにweather lifeに無理やり外に出されて仕事してたの。
可愛かったから俺がちょっとだけからかってやったんだよね」

「からかったって?あ、まさかこの間言ってた嘘教えたってヤツ!?ははは!お前、女の子騙すとか最低だな!傑作だわ!」



お腹を抱えたアレックスの大きな笑い声が聞こえる。

ちょっとからかってやった…?

お前のエマちゃんに対する行為は…その程度だったのか。



「はっははは!何?お前らはあんなペチャパイの地味な女児が好みなワケ!?」

「ふふ、アレックスやめなさい。女性の好みは人それぞれでしょう」

「だってさぁ。あの天下のweather life様だぜ?もっと良い女がわんさか寄り付いてくるはずなのに、俺ならあんな…」









「うるさい、黙れッ!!煤v

「…ッ」







突然怒鳴り声を上げた美空に、アレックスも思わず口を閉じる。

ふと我に返り、美空は床に視線を落とした。



「…すいません。彼女の件は…僕に責任があるので…

失礼します」






ガチャン!




彼は逃げるように部屋を出て行った。

再び3人だけになった広い部屋の中。

アレックスは立ち去るその姿を見て、眉間にシワを寄せながら小さく舌打ちをする。


「チッ。胸くそ悪いな」

「まぁまぁ。所詮彼らがこの世界にいられるのも今のうちだけですよ。ねぇ、カイ……ッ?」


血気盛んなアレックスを沈め、ベルがカインに目を向けると…




「フッ…フフフ…」


「カイン?」










「アッハハハハハハハハハハハ!!!!!」







彼はいきなりビックリする程の大音量で笑い出した。

今までの可愛らしい爽やかな印象とは程遠い、大口を開き、足をバタつかせて笑う奇妙な彼の姿。

突然の異常事態に、何事かとふたりはフリーズしてしまう。

一通り大声で笑った後、彼は過呼吸のような息継ぎを抑えて目頭に溜まった涙を指で拭った。



「はは!ねぇ、見た!?見た!?あの美空が俺達に向かって頭を下げて物乞いしてきた!
俺達にムカついても何も言い返せなかった!あの!あの『美空七音』が!!!」


ソファーから立ち上がり、彼の姿を思い出したのか背中を仰け反らせてまた笑う。

傍から見ると、精神異常者に見られてもおかしくない笑い方だ。



「はは…は。あの美空でさえ口出しが出来ない。もう俺達の上に立つ奴らはいないんだ。凄く気分が良い。笑いが止まらないよ!!!!」

「カイン…」


「もっと…もっと…テレビにも出て…ラジオにも出て、新曲も次々出さなきゃ…
あそうだ。アイツらから奪い取ったCMも出番もっと増やしてもらおうよ!

オーナーの所、行こう。もっともっと、材料をかき集めなくちゃ」


狂気のトップアイドルの姿。

オッドアイの瞳で笑うカインは仲間のアレックスやベルから見ても奇妙で異質で。恐ろしいと感じる。

そんな彼らをよそに、男はひとりで扉の前まで歩き出した。


彼は去り際に再び、首を傾げて怪しい笑みを浮かべる。







「ホラ。早く来なきゃ君達も置いていくよ?」



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