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……………


結局状況の整理もつかないまま、すぐに次の日付に変わった。

天気は快晴なのに、朝から私の頭の中は容量オーバーでボーッとしてる。

その日の学校の授業なんてまともに受けられるはずもなくて、心ここにあらずといった感じ。

何度も色んな先生に「大丈夫?」と訊かれた。

時間は確実に過ぎて学校の授業も終わり、陽も落ちてきた。

周りの生徒は明日が休日という事もありテンションが上がっている。

でも私は何をする訳でもないのに針が進む度に妙に心がざわついて、家に帰ってもなんとなく落ち着かない。

今日のミュージックヘヴン…早く観たいのか観るのが怖いのか自分でもわからないな。



昨日と同じ時間帯に夕飯を済ませ、入浴を済ませ



そしてあっという間に9時の5分前。

こんな日に限って一日の流れがとても早く感じられた。



誰にも邪魔されないように、私はリビングとは別の個室へ移動する。

ここならテレビもあるし、誰も入ってこない。

明かりを最小にして、極力私がいる事を家族にばれないように。

そして七音君からのメールを、最後にもう一度だけ読み返してみた。











『〜♪』



テレビから映像が流れ、ついに番組が始まった。

七音君達に出会う前までは、耳も聞こえないし何も面白くないから音楽番組なんて観た事はほとんどなかったけど。

今では彼らの姿を観る為に、すっかり見慣れる程の番組になってしまった。





ゴクン。



ざわつく胸騒ぎを抑え、画面を直視すると…


ドロップスの次にweather lifeが5人、軽く一礼をして登場した。

今日はスーツ風の衣装にそれぞれのイメージカラーのネクタイを付けた大人っぽい雰囲気。

久しぶりに見るメンバーの姿。

こうやってテレビの向こう側から観ると、5人皆凄く格好良くて、まさに「雲の上の存在」といった感じだ。

観客からファンの熱気を感じる。

私、今までこんな人達の傍にいたんだと改めて実感すると鳥肌が立つ。

最後に七音君がカメラに向かって「ニッ」といつもみたいにやんちゃな笑顔を見せた。




「皆さん、こんばんは!司会の…」









出演者全員が揃った所で番組が本格的にスタート。

恐らく七音君達が歌うのは番組の後半だと思う。

トップバッターで歌うのは最近人気らしい女性だけの歌手グループだ。

8人の綺麗な女の人達が、色気のあるダンスを披露しながら小型マイクを付けて歌っている。


改めて思ったけど…芸能界はこんなに女性らしくて綺麗な人がたくさんいるんだな。

weather lifeの皆も、こういう同じ番組に出た事がキッカケで仲良くなる人もいるのかも。

そう思うとこんな地味な私がいつもまとわりついて、何だか申し訳ない気持ちになった。


1グループ、また1グループと次々に曲を披露する。

歌っている曲は聴こえないけど、どのグループも個性があって華やかで素敵。


そして次に出てきたグループを見た途端、手に思わず力が入る。






『ドロップス』






先日エレベーター前で偶然会ったリーダーの人が、司会の男性と仲良く話しているのだ。

確か名前は…カインさん。

この人がっ…私を騙して、weather lifeからCMを奪った。

女性ファンからエールを送られ、優しい笑顔で手を振っている。






―近くで見ると、耳が聞こえないようには全然見えないですね!―…







テレビに映るその姿に、私は激しい憤りを感じる。


こんな姿、偽物だ。


笑って声援に応える顔も、華麗に歌う姿も…


私達にあんな酷い事をしておいて、何事もなかったかのように人前に現れるなんて…


思い出す度に、今までに感じた事のない怒りと悲しみが同時に込み上げる。


なんで…そんな顔でいられるの?


おかしいよ…絶対。









ふと我に返るとドロップスの出番はとっくに終わっていて、CMも終了。

テレビ画面にweather lifeの5人が登場していた。

他の出演者も全員歌い終わっている。

どうやら彼らがこの番組のトリを飾るようだ。





「あれっ…?」


会話の途中。

何かに気がつきエマは目を擦る。

5人と司会者が話す右上のテロップには『weather life 人気メドレー曲と初公開となる新曲を披露!』と文字があるのだ。



メドレー?

それに新曲?



確かこの間、この番組の撮影に行った時…ここのスタッフはドロップスにばかり力を入れていて、他のグループは二の次という感じで明らかにアウェイな状態だった。

それなのにメドレーを貰えたの…?

それに新曲なんて聞いてない。

先日、お菓子のCMに使う為に作ってたあの曲?

でもあの曲も結局、ドロップスに取られちゃったからダメになったって…スタッフさんに聞いたけど。


5分程司会者と話し、weather lifeのメンバーは席を立った。

多分、これから曲に入る。


何度目かわからないけど、もう一度だけ唾を飲み込んだ。




「それでは歌って頂きましょう。
weather lifeでスペシャルメドレー。そして新曲『君に送る歌』続けてどうぞ」






司会者の曲紹介画面の後、マイクを握った美空が映り

綺麗な声で歌い出した。


もちろん、その声はエマには届かない。

届かないけれど、歌詞テロップを見れば何の曲を歌っているか一瞬でわかる。





「………ッ…」





だってその曲達は…



1曲目は『七色の音』

私がweather lifeの試験に合格する為に初めて書いた詩。


2曲目は『輪』

私がweather lifeの皆に歓迎会をしてもらって…
初めて仲間という存在が出来て嬉しくてたまらなくて、感謝の意味を込めて作った詩。


3曲目は『ピュア』

皆で温泉に行って、私は改めて七音君が好きなんだと知った。
本人にはもちろん言えないけど、その正直に恋をした想いを恥ずかしながらも書き綴った詩。


そして4曲目は『サイレントレディ』

七音君が私を題材にして作ってくれた曲。
この歌詞を読んだ時の感動は今でも忘れられなくて。


とにかく画面を観ている限り、全て私に関係する曲ばかりだ。

他にももっとヒットしている曲はいくつもあるのに、それでもこの歌を選んでくれた。




「七音…く…ん…」



呼吸も忘れてしまいそうな程、私はテレビの画面に釘付けになってしまう。

なんにも聞こえないのに、音楽番組をこんなに集中して観るのは初めて。






そしてラストの5曲目。

これが新曲。

七音君はその曲を歌う直前で、小さく深呼吸したように見えた。











『君に送る歌』









初めて目にするタイトル。


雪之原君のピアノから始まる。


小さくリズムを取るクラウディ君のドラム。


それに乗せて日晴君のギター、雨宮君のペース。


焦点が次々に別の人に移り、ぼやけ、そして七音君の姿が映った。



彼はマイクを握り直し



そして歌い始める。





『君の力になりたいよ。どんな些細な事でもいいから』






「…っ!」




目を大きく見開いた。


思わず椅子から立ち上がり、親から怒られてしまいそうなくらいテレビ画面に近づいてしまう。


この…歌い出し…。


見覚えが…






『ずっと見つめていた。君の背中。

寂しくて苦しくて、何度も周りとぶつかって』


『どうして。私はこんなに無力なの。

暗闇にいる君。

私がいくら手を叩いても、君は気づいてくれないの』


『笑った顔がもう一度見たいから。

眩しくていつも憧れてた。大好きなその笑顔』


『どうすれば、また君に笑顔が戻るの―……

ー歌ってる君の姿が、ひとりぼっちの私を救ってくれたんだー…』





歌の色んな所に…私が事務所で考えた詩が入ってる?


えっ…?そんな…


確かあれは上手く書けなくて、むしゃくしゃして全部捨てたはず!



どうしてその言葉が…っ…!?







『僕は気がつかなかった。

君がどれだけ大切な存在だったのか』



「えっ…?」




先程と打って変わって

2番の歌詞は、まるで身に覚えがない。




『壊して壊して…僕が君を傷つけた。

失って…

君はどこにもいない。

一緒に帰った電車道。

行きつけのカフェ。

隣同士で作った歌。

今はひとりでしか歌えない』



「…………。」



ここまで歌詞を読んで…ようやく気づいた。


1番は私が考えた七音君への思いを綴った歌。

そして2番は…七音君から私へ…


行きつけのカフェ。

隣同士で作った歌。

きっと同じ場面が頭に思い浮かんでいる。




『今更気づいたんだよ。


ごめんね。ごめんね。


何度も何度も、疲れて倒れそうなくらい叫んだ。


失って初めて気づいた。


どんな綺麗な人でも


どんな魅力的な人でも


君の代わりはいない。


だからお願い


もう一度、僕を君の隣に座らせて』






「……ッ…////」



視線がテレビに釘付けになってしまう。

これが…私に宛てた七音君からの…メッセージ。







『僕にとって君は宝石のような存在。


内側に輝きを秘めたガーネット。



君しかいないんだ。



僕らの詩を描けるのは』





お願い、帰ってきて。




曲が終了し、観客がスタンディングオベーションになっている光景が見えた。

司会者も他の歌手のグループの人達も、weather lifeに拍手を送っている。

それを受けて、七音君や他のメンバーが最後に深く深く一礼をしていた。






「……七音…く…!」








ブーッ!ブーッ!




一時放心状態になっていた私は、携帯のバイブが鳴ったのに驚いて心臓が飛び跳ねそうになった。

番組が終了して5分後、すぐに七音君からメールが来たのだ。




FROM:七音君
件名:RE:RE:お願い
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落ち着いたらすぐそっちに行くね。
家で待ってて


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