30


……………


生放送が終わり、片付けでスタッフ達は大忙しだ。

右へ左へスタジオ内をたくさんの人間が走り回っている。

もちろん彼らも遊んでばかりはいられない。

普段、番組撮影後は反省会を行っているweather lifeだが、それさえ後回しにして片付け作業に全員で加担していた。



「あ、それはアッチの赤い箱に…」

「美空さん、行かなくていいんすか?」

「…っ」


スタッフと一緒に音楽機材の仕訳作業に夢中になっていると、後ろから聞き慣れた声に話しかけられた。

ヒーちゃんだ。

他のメンバーも後ろに立っている。


「行くって?」

「決まってるっしょ!エマさんの所っすよ!きっと放送も観てくれてるでしょうし、仲直りするなら今しかないっすよ!」

「っ…でも」


力強い彼の言葉だが、まだバラバラになった機材がこんなにも残っている。

すると次に声をかけてきたのは、なんとも緊張感のない話し方の雪之原だ。


「片付けに専念してるナオ君なんて気持ち悪いよぉ(笑)そんなものほっぽりだして、私情につっ走るのがいつものナオ君じゃーん」


すると、手に持っていた機材もするりと誰かに奪われてしまった。


「あっ、ディ!」


もちろん背の高い彼が更に手を上げてしまうと、それはもうジャンプしたって届かない。


「はは!ほら、あとはクラウディさんがやってくれるって!」

「…っ」



どうしようもなく困惑していると、今まで黙っていた雨宮が前に出てきた。

その顔は他のヘラヘラ笑っているメンバーと違い、「
業務中」のいつもの真面目な表情。

彼はクスリとも笑わずに口を開いた。


「これからのweather lifeについてどうするかの判断はお前に委ねると言ったが…

今日のステージがその答えだったようだな」


「ミヤ君…」







「…早く行け。歌い続けると決めた以上、エマがいないと話にならないからな」

「………っ…」





雨宮の言葉を真摯に受け止める。


ありがとう。

ミヤ君。

ありがとう。

ヒーちゃん。ユキ。ディ。


ここからが、また新しい「weather life」のスタートになる。


そう信じて美空は深く頷いた。



「ありがと、皆。行ってくる!」





走り出した美空は希望に満ち溢れていて、全速力でスタジオを飛び出して行った。

とんでもない足の速さは変わらないっすね、と見ていた日晴が笑っている。






「あはは。それにしてもリツ君ったら、ナオ君に譲ってあげてよかったのぉ?」

「…譲る?何の話だ」


日晴やクラウディがその場を立ち去って持ち場に戻る中、

からかい口調で雨宮にちょっかいを出してきたのは隣に残った雪之原だ。


「だからぁ、エマっちをナオ君にあげてよかったのかって話〜」

「………。」

「あれ?だんまりなのぉ?今回の件、リツ君だって色々頑張ってたじゃ…」

「馬鹿な事を言うな」


思った以上の低く恐い声に、あの能天気な雪之原が目を丸くする。

変わらず少しも笑わない堅い表情で、雨宮はようやく彼に瞳を向けた。



「アイツの一存で彼女をクビにされては元も子もない。それだけの話だ。

譲るとは一言も言ってないだろう」


「え…。なにそれ?」



雪之原の質問に返事をする事なく、彼は別スタッフの元へ歩き出した。

冗談など一切ない、真面目すぎる後ろ姿。

普段の雨宮 律だ。




「あー…なんかリツ君、マジモードに入っちゃってるっぽいねぇ」


ぽつんとひとり取り残されると、堪えきれなくて思わず口元が緩んでしまう。


だって…そうでしょ?






「…あはは。面白くなってきたぁ♪」


- 656 -

*PREV  NEXT#


ページ: