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……………
「銃声、鳴らなくなりましたね」
リッキーの言葉にもサラは顔を上げない。
隠し部屋にいるふたり。
彼女はまだ彼の腕の中で震えていた。
「ナイジェッ…」
「あの人なら大丈夫ですよ。今頃あのロビンという男をとっ捕まえてタコ殴りにでもしてるんじゃないですか?」
今の状況に大袈裟に笑いかけてあげても、彼女の顔に笑顔は戻らない。
「リッキー」
「何ですか?」
消えそうな声に、耳をそっと口元に近づける。
「ごめんね…」
「どうして謝るんですか?」
彼女は自分の腕をしがみつくように掴まったまま。
時計の秒針さえない静かな部屋の中、言葉を口にした。
「私が…あんな人と見合いをしたから。私が最初から断っていれば…皆…こんな目に遭わずに済んだのに」
「何言ってるんですか?貴方は一族の掟を守ろうとしただけでしょう」
「だって…私が見合いなんてしなければ、こんな事にならなかったのは事実でしょ!?」
「それは…」
言葉が返せない。
励ましの台詞をかけてあげたいのに、口から何も出てきてくれない。
「サラ…」
「本当はね…こんな見合いなんて…したくなかった」
「………ッ」
一筋の透明な光。
彼女の目から涙が溢れ出していた。
一粒…二粒。
服をしわくちゃになりそうな程強く掴んできて、涙が頬を伝い、彼の服に染みる。
「こんな時に言ったって…もう遅いかもしれないけど。知らない男となんか結婚したくない…。バイクを辞めて会社を継ぐなんて…考えられない」
「サラ…」
「皆と離れたくなかったの!いくらお金持ちになって裕福な生活が送れるようになったって…リッキー達がいなきゃ結局意味ないのよ!」
彼女の目から涙が止まらない。
きっと昨日、普段と同じように仲間達と過ごしていたけれど
本当は誰かに止めて欲しかったんだ。
「行くな」って言って無理にでも引き止めて欲しかったんだ。
何故その時に、その気持ちに気づいてあげられなかったのだろう。
とにかく強く、消えてしまわないように彼女の体を両腕で抱き締めた。
「大丈夫です。皆きっと…そんな事わかっています」
彼女は嗚咽しながら胸の中に埋まる。
初めて見るこんなにも弱々しいサラの姿。
俺はいつも堂々としていてどんな逆風にも負けない、そんな強い彼女が好きだったのに…
この人は女性なのだと、改めて実感した。
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