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ガチャン。
「七音…く…ん…大丈夫?」
向こうが静かになった事を確認してクラウディが隠れていた部屋の扉を開け、エマも一緒に覗いてきた。
「あぁ…なんとか追い返せた」
「でもあの調子じゃ、また後ですぐに来ちゃうよぉ。どうするのさぁ」
顎の汗を拭って椅子に座った美空に、立ったままの雪之原。
この事実が露見すれば、クビどころか打ち首になってもおかしくない。
再び理事長が戻ってくる前に次なる対策を考えなければ。
自慢の悪知恵をフル回転させて次の手段を考える。
ぽん!
そこで美空よりも早くアクションを起こしたのは、音合わせ室から出てきたクラウディ。
今いる顔ぶれの中で一番信頼出来る男が、手の平にもう片方のグーを乗せるポーズをしているのだ。
これはもしかして…
「ディ!何か閃いたの!?」
コクリと頷く目線の高い彼。
全員がクラウディの周りに集まると、彼は背中から何かを取り出した。
「えっ…?」
それはさっき割ってしまった壷とはまた別の黒い壷。
何を思ったのか、それを1000万円の壷が入っていた木箱に入れ始める。
「ちょっとクラウディさん!まさかそれで誤魔化すつもりっすか?理事長の壷と色も形も違うから、それじゃすぐバレちゃうっす…」
「あ……そっか…」
「へ?」
日晴の言葉が聞こえていないエマは何やら納得の声を漏らした。
壷を割っただけで何も知らない日晴より、詳しい事情を知っている彼女の方が今は信用性がある。
すかさず美空は自分の携帯を打った。
『なんでそう思うの?』
「だっ…て……理事長…さん、その…壷と…今日が…初対面って……雨宮君が…言ってた」
なるほど。
つまり理事長はオークションで落としたと言っても、その実物を目で見ているわけじゃない。
だとすると、理事長が骨董品鑑定士と同じ程の目利きがない限り、全く別の壷を「1000万の品です」と渡しても気づかれないはずだ。
それでもまだ不信感を拭えない日晴はクラウディの顔を見る。
「でもそれで誤魔化せるんすか?大体それ何?どっから持ってきたんすか?」
「あ、それ僕の召還用の壷じゃぁん」
「何?召還?」
緊急事態にもかかわらず、呑気な声を出したのは黙って見ていた雪之原だ。
彼はその黒い壷の近くに歩み寄って「久しぶりぃ」と覗き込む。
「え?これ雪之原さんのなんすか?」
「そおだよぉ。僕のおじいちゃんが家宝として持ってたものぉ。
ずっと『これは歴史に名を残す、かの有名ななんとか〜』とか親族に言い続けてた物でねぇ。
自信満々に出張!どこでも行く鑑定団に持ってったんだけど、実際の金額は820円だったんだぁ」
日晴「は…はっぴゃくにじゅう…」
「そぉ。おじいちゃん、『ジャカジャン!』の瞬間にショックでボード上げたまま逝っちゃってねぇ。んで、今は僕の召還用の壷になってんのぉ」
美空「だから何を召還すんの?」
泣けばいいのか笑えばいいのかよくわからないエピソードはともかく、今は代わりになりそうな壷はこれしかない。
クラウディは木箱の蓋を取り、1000万円(実際の金額:820円)の壷を封印する。
あとは理事長の目がポンコツである事を祈るのみだ。
美空「よし!今はこの壷でなんとか誤魔化すしかないよ!皆!理事長が来ても何もなかったフリで頼んだからね!」
雪之原「そうだねぇ。頑張ってぇ」
ガチャン。
扉が開く音っ…?
理事長の奴、思ったよりも早く戻ってきたみたいD…
「…?お前達、こんな所に集まって何してるんだ?」
「「……………。」」
全員の顔がきょとんとしている。
帰ってきたのは理事長のオッサンではない。
オッサンを飛び越えておじいちゃんだ!(精神年齢が)
「ゲゲッ!雨宮さっ…!?」
「なんだ、その反応は」
今帰ってきたのは、1000万円の壷をこの場所へ運んだ張本人。
雨宮だ。
マズい!
コイツは恐らく本物の壷を見ている!
咄嗟に美空が壷の方向へ目を向けると、上手くクラウディが背中側へブツを隠していた。
ディ…!ナイス!
美空は再び雨宮の方向へ瞳を戻す。
「いやぁ。皆でミヤ君を出迎えてやろうと思って。…か、会議だったんでしょ?思ったより帰ってくるの早かったね」
「あぁ。顔合わせをするはずだった相手側が腹痛を訴えたらしくてな。急遽延期になったから、何もせずに帰ってきた」
「へ…へぇ。最近お腹壊す人…多いんだね…」
「……。」
「……。」
雨宮「お前達…そこを退いてくれないか?」
「「え?」」
「いや…中に入れないんだが…」
扉から部屋の中へ入れないように、入口で男達が並んでガードしている。
全く退ける気配がなく、これでは中の様子も見れない。
「あ。そういえば理事長から壷を預かっていたんだ。そろそろ取りに来る時間なんだが…」
「ミヤ君!!煤v
「…!?」
腕時計を確認した瞬間、目の前で上げられた美空の大声。
雨宮は驚いてビクン!と反応してしまい、眼鏡がズレてしまった。
「な、なんだ?」
「どうしたの!?顔中に赤い発疹が出来てるよ!」
「はぁ?いきなり何を言い出すんだ!?(顔を触りながら)何も出来てないだろ!?」
「きっと痛みで神経が麻痺してるんだよ!」
「嘘をつくな!お前、今さっきまで普通に会話してただろ!?」
怒った雨宮は、彼らを押し退けて無理やり部屋に入ろうとするが…
日晴「う…うわぁ!これは酷いっす!」
雪之原「やだぁ!う、移るぅ!(逃)」
クラウディ「(無言でマスクを装着)」
エマ「……?(耳が聞こえないので、ひとりだけぽかんとしてる)」
「…はっ……え…?」
合図があったかのように、一斉に他のメンバーがアクションを起こし始めた。
今日の朝まで…いや、先程トイレに行った時まで何もなかったのに、人間そんないきなり発疹が出るはずない。
出るはずがな……い…。
日晴「ギャァァァ!!Gウイルスがぁあ!」
雪之原「リツ君、こっち来ないでぇ!」
クラウディ「ゼェー…ゼェー…(呼吸が苦しそうなフリ)」
エマ「クラウディ…くっ…!?だ…大丈…夫!?(これは本当に心配している)」
雨宮「…………。」
なんだが…
ここまでされると…自分に自信がなくなってきた。
「ほ…本当か?七音…」
「本当だって!今すぐ病院に行っておいで!」
「…わかった。とりあえず、皮膚科に行ってくる」
頬を何度も触り首を傾げ、不安な顔で雨宮は部屋に入る事なくその場を立ち去った。
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