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……………
「雨宮さんがっ…雨宮さんが大変なんす!」
日晴が涙を流す迫真の演技で、訪れた理事長の服を掴んだ。
「雨宮は…帰ってきたのか?」
「はいっ…!ですが目が…とにかく早く来てください!」
「わ、わかった!今すぐ案内してくれ!」
彼に連れられ急いで一緒に扉の前まで。
「この部屋の中っす、理事長!」
中にいる美空と雪之原に来た事を伝えるように、わざと大きな声で言う。
「では、扉を開けます!」
「あぁっ」
ガチャン!!
ギギギギギ…
「見てください!雨宮さん、目が全く見えなエエエエエエッ!!?煤v
「ミヤくぅぅう!!!」
「リツ君っ!なんでこんな事にぃぃい」
ベッドの周りで号泣した(フリをしている)美空と雪之原の姿。
横たわっている雨宮は両目に眼帯をしているものの、
何故かその中から大量の血が溢れてシーツが真っ赤になり、それが床にまで飛び散っている光景が目の前に広がっていたのだ。
ほとんど殺人現場。
日晴(小声)「ちょ!ちょっと!!なんか俺が出て行った時と違うっすよ!なんでこんな血まみれなんすか!?」
美空「より重症っぽくした方がリアリティがあるってユキが言ってたから」
日晴「白内障でこんな出血するわけないじゃないっすか!逆に不自然っすよ!」
理事長「雨宮ァァアアアアアア!なんて可哀想な姿にっ!!!ウワァァァア!!!!!」
美空「バッチリ信じてるじゃん」
日晴「…………。」
理事長はベッドの傍まで駆け寄り、変わり果てた部下の姿に大声で泣き喚く。
これだと眠っている本人は起きてしまうんじゃないかと思われたが…
「スー…ムグッ…スー、スー…」
案の定、両目眼帯野郎は寝返りも打たずに熟睡している。
底が見えない深い眠りに、もう目を覚まさないんじゃないかと逆にそこが心配になりそうだけど。
しかしこれはチャンスだ。
気が動転している今のうちに、壷が何者かに割られた経緯を説明するしかない。
すぐさま美空が泣いている理事長に駆け寄る。
「それでライボルトさん。その…ちょっとだけお話があるのですが…」
プルルルル!
「……ッ…」
このタイミングで鳴り響いたのは、理事長の胸ポケットに入れていた携帯電話だ。
なんだよ、この肝心な時にっ…
「あぁ…ちょっと待て。はい、もしもし私だ」
鼻水をハンカチで荒く拭いて通話に応じ始め、一刻も早く事情を説明したい美空は彼のすぐ後ろで待機。
「ふむ。ふむ。
なっ…なんだとっ!?まさかそんな…!」
…あれ?なんだかオッサンの様子がおかしい。
耳を近づけてみるが、やはり電話で何を話しているかはよくわからない。
「なんてこった!嘘だろ!これは……なんてこった!!」
大げさなアメリカ人のリアクションみたいに(アメリカ人なんだけど)大声を出して床に跪く。
それなのに雨宮は未だ全く目を覚まさない。
大丈夫なのか、コイツ。
「あの…ライボルトさん…?」
電話を切った彼に美空は恐る恐る話しかけてみた。
理事長の背中はプルプルと震えていて…
「うあああああああああ!!
大切な部下が病に倒れた上、1000万円の大損をしてしまうとは!!!!」
「「…え?」」
打ち合わせもしていないのに美空、日晴、雪之原の声がハモった。
1000万円の…損?
「理事長!詳しく話を聞かせてくださいっす!」
「壷だよ、壷!私がオークションで落とした壷が、800円しか価値のない真っ赤な偽物だったんだ!
念の為に鑑定に出させたが、まさかこんな結果になるとは!!」
「「…っ………」」
は、800円…。
今入っている雪之原の召喚用の壷の方が…まだ高価だ。
「なんて日だ!オーマイガット!!雨宮ぁ…せめて!せめてお前だけでも…
雨宮!あまみやぁぁぁ!!!!!」
その泣きじゃくる姿に、既にダンディーな中年上司の面影はない。
ガシャン!ガシャン!ガシャン!(雨宮の寝ているベッドを激しく揺らす音)
それでも全く目を覚まさない。
まさか…
歩かせすぎておじいちゃんは死んでしまったんじゃないだろうか。
……………
美空「なんか…このオッサン、だんだん可哀想になってきた。どうする?ミヤ君起こす?」
日晴「そのうち目を覚ますんじゃないっすか…」
美空「これ(割れた壷の欠片)は…どうする?」
雪之原「捨てていいんじゃない〜?」
結局、世の中そんなもの。
カラン!と最後に雨宮の眼鏡が、理事長の起こす激しい振動で床に落ちた。
fin
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