……………


ピチョン!


少し離れた場所で名前もわからない魚が水飛沫を上げて跳ねた。

取ってきた串刺しをかじりながら、バレルはただ静かな川を眺めている。

もうひとつは食べ終わった後のものなのか。

彼の隣に別の紙皿が置かれており、そこには既に15本程串だけが並べられていた。



「バレルさん?」

「…………。」


そこで彼に近づいてきたひとりの女性。

足音は聞こえていたらしく、特に驚いた様子もなく彼は横に来たローラに瞳だけを向けた。


「皆さんと食べなくていいんですか?」

「うぜぇだけだ」


男の人達は皆で物真似大会とか始めてる。


「おーい!バレルも来い!ボビーのマイケルジャクソンの物真似、超似てるぞ!」

「………。」


酔いがまわってゲラゲラと笑うしょうもない大人の男達に、彼がもちろん返事をするわけもない。

まぁ、あの中にバレルさんが混ざってるのも不自然かな。




「お肉、新しいのを持ってきました」


彼女の手にはひとつの紙皿が。

タレに浸けられた牛肉の串焼きが10本置かれている。

普段からあの食欲を見ている彼女にとって、まだまだその食べ終わった本数では彼の胃袋を満たしていない事が一目でわかったのだ。


「あの、一緒に食べませんか?」

「………。」


お皿を差し出すローラに特に反応を示さず、バレルは再び川を眺めた。


「…勝手にしろ」

「ふふ、ありがとうございます」








……………






「見たまえ!僕の華麗なジャクソンダンスを!」

「おお!スゲェ!なんでこんなゴツゴツした岩場でムーンウォークが出来るんだ!?」


持参した食材も残り少なくなってきており、メンバー達は腹も満たされたのか。

ボビーやナイジェル達はしょうもない話題や芸の見せ合いで盛り上がっている。


ビッキーは受け取った携帯電話をイジっていると、ふと視線の先の光景に気づいてリッキーの腕を引っ張った。


「あ、リッキー見て見て!ローラさん、バレル君と一緒に食べてるよ!」

「本当ですね」


目線の先に見えるのは、男女が座って串焼きを頬張っている背中。

お互いの間には人ふたり分程スペースが空いているものの、そこからお互い離れる様子もない。

ローラがバレルに顔を向けて笑いかけても、彼の首は動かない。

しかしきちんと話は聞いているようだ。ローラもクスッと笑っている。


「やっぱり、あーやって見てると結構お似合いって感じするよね。
最初はローラさんあんなタイプが好きなんだってビックリしたけど(笑)現代版の美女と野獣って感じ!」

「野獣かぁ。きっと俺が言ったら殴られますね」なんて笑い、リッキーは野菜を口に入れる。



なんだかんだ言いながら、バレル自身も彼女には心を開いていると思う。

黙って隣に座らせてあげるなんて、それだけ心を許す存在になっているんだろうな。


相変わらず言葉は乱暴だし目つきは悪いけど、ローラさんと出会ってから少しずつ周りへの対応は変わってきた。

あの事故以来最初に会った時には周りの人間も俺でさえ信じられずに、ただただ自分を壊し続けてひとりで苦しんでいたバレル。

多分、内側はいつ精神が崩壊してもおかしくない状態だったのに。

だけど今はこうやって俺達との集まりにも来てくれるし、少しずつだけど言葉も返してくれるようになってきた。

それはきっと、自分を信じてずっと寄り添ってくれるローラさんの存在が出来たから。


今のバレルにとって、あの女性はなくてはならない人。


言葉では絶対に言わないだろうけど、きっとそうなんだって一目でわかるよ。


俺は昔も今も、君の友達だって思ってるから。


ね。バレル。


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