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……………
バーベキューを始めてから3時間が経ち、食材や飲み物もほぼ底を尽きた。
お腹いっぱいになったビッキーやボビー達が川に足をつけて遊んだり、ジョンは日陰で仮眠を取っていたり。
思い思いに休日のバーベキューを楽しんでいる。
「いくよー、ジャスティス!トリャァッ……あれ?」
ボール遊びをしていたやんちゃチーム。
強くそれを投げようとした途端、ビッキーの気は別の方向へ取られてしまい力加減がめちゃくちゃに。
ジムに投げるはずだったボールはぽーい、と全く違う方へ弧を描いて飛んでいく。
「あっ、ビッキー!どこ投げて……ん?」
突然感じた悪い空気。
サラやローラもその異変に気がつき、そして他のメンバー達も。
そしてボールを追いかけようとしたジムも、その変化にようやく視線が向かった。
「うぇ〜い!ここ超イイじゃぁん!」
「ここにすんべ!」
綺麗だった河原の空気が排気ガスの匂いに染まる。
こちらのチームがバーベキューを楽しむ隣で、別のグループが2台のワゴンに乗ってやってきたのだ。
その大きな車からコンロや食材が取り出されている様子から、目的は我々と同じバーベキューのよう。
人数は男だけが15人程。
妙に派手な髪型や服装、話し方を見る限り、あまり良い印象ではない。
世に言う「不良」という奴だ。
「早速やんぜぇー」
〜♪
「ヒャッホーイ!」
「オラオラ、音小せぇぞ!テンション下がんだろーが!」
バックドアを開けた車の中から大音量の音楽をかけ始める。
しかも2台とも。
それは一定の距離が空いた一般の通行人も視線を向ける大きさ。
男達は歌ったり騒いだりとご機嫌に手荒く肉を焼く準備を始めた。
「チッ…うるせーな」
タバコを咥えるナイジェルの顔が険しくなるのはもちろん、他の人も何かしらチラチラと不良達に視線を送る。
こんな近くにいるんだから、こちらとしては耳が痛くなる音量だ。
「焼けたぞ!最高級ロース!オラオラ、食え〜!」
肉食な男達は周りの目など気にする事なく、音楽をかけたまま焼けた肉に群がる。
「うぉお!超うんめー!!」
「ウェッ!テメェこぼしてんじゃねぇよ!」
「川に流せよー。形あるもの自然に返すのが一番だろーが(笑)」
生ゴミをそのまま川へ流したり、その辺へ放置したり。
タバコもポイ捨て。
終いには誰が持ってきたのか噴き出しやロケット花火をやり始め、そのゴミも川へ放り投げる始末。
このままでは綺麗だった川が汚染され放題だ。
そのあまりのマナーの悪さが目につき、こちら側の視線が一層険しくなる。
「ほーらぁ!バーニング花火だぁっ!」
「ちょっとアンタ達!」
「あぁ?」
その行動に我慢出来ず、勇敢に川から出て声をかけたのはビッキーだった。
「ちょっとマナーがなってないんじゃないの!?さっきから大音量で音楽流したりゴミをその辺に捨てたり!ここはアンタ達だけの川じゃないのよ!」
珍しく正論を並べる彼女だが、不良達の反応は「はぁ?」と表情が言っている。
全く反省している気配はない。
「誰だ?このネーちゃん」
「私が誰かなんて関係ないでしょ!ほら、見なさいよ!アンタ達がうるさく騒ぎ立てるから、皆迷惑してるじゃない!」
ナイジェルはもちろん、あの温厚なリッキーやジョンでさえも眉間にシワを寄せてこちらを見ている。
自分達だけで楽しんでいた時よりも空気が悪くなっているのは一目瞭然だ。
「はっ。オメーらだって俺達が来る前まで散々ドンチャカ騒いでたんだろーが」
唇や耳にいくつものピアスが開いた柄の悪い大柄な不良は、そんな彼らを見てクスクスと笑い始めた。
「私達はちゃんとマナーの範囲内でバーベキューを楽しんでたの!アンタ達みたいに周りの迷惑になる事は…」
「あー、うるせうるせ。んなチワワみてぇにキャンキャン騒いでっと、その可愛いお顔がどうなっちゃうかわかってんのぉ?」
「…ッ」
舌を突き出し、首を曲げながらビッキーの顔の近くまでしゃがむ男。
ニヤニヤと笑ってその顎を掴もうとした瞬間…
「ちょっと、ストップ!女相手にやめてよ、君達!」
その間には、すかさずジムが入る。
「え?何アンタ?お兄さん?」
「…ッ!(ムカッ)彼氏だよ!彼氏!」
「彼氏??何それ美味しいの?」
「はぁ!?」
「とにかく…!」
グイッとジムの頭を手で簡単に押し退け、男は再び舌をべロッと出した。
「俺達の楽しいお遊びタイムを邪魔すんのなら…オメェら全員、タダじゃ済まさねぇぞ」
周りの男達もニヤニヤと笑い、先頭の男は挑発するようにいくつも開いたピアスやいかつい刺青を指でなぞる。
指をゴキゴキと鳴らし始め、吸っていたタバコを再び川へ投げ捨てる者も。
間違いなくこのままだとケンカになる。
「お〜?よく見りゃ可愛い女の子達が他にもいるじゃんよぉ。その子達だけ残して野郎共が帰れば、まぁ今回は許してやってもいいんだけど?」
ボビー「ナイジェル君。銃で撃ち殺したまえ」
ナイジェル「わかった」
ジョン「…え。わかったんですか」
女だけ残して男は帰れ?
冗談じゃない。
男達は引く素振りなど見せずに不良グループを強く睨みつけた。
「どーやら大人しく帰る気はなさそうだな…」
上着を脱ぎ捨て、本格的に戦闘態勢に入る。
人を馬鹿にする目つきで笑う顔は、普通の人間が見せる顔ではない。
「テメェラァァッ!俺達に逆らったらどーなるか…このお兄さん方に身を持って教えてやんな!!」
「ダラァァァァ!!煤v
不良グループが数人がかりで男達に殴りかかってきた!
ナイジェルやリッキーもすぐに戦闘モードに入り、ジョンも目つきが変わる。
ロビンママ「きゃぁああ!ママもきっとここに残って、この若い男の子達に純潔を奪われちゃ…!」
不良「んな汚れた純潔いるか!テメェは男共と一緒に家に帰れ!」
「サラ!ずっと寝てないで起きてください!」
「むにゃむにゃ…んんぅ…むかーしむかし…ある所にぃ…」
「どんな夢見てんですか、こんな時に!」
泥酔して眠っているサラを庇いながら、素手で応戦するリッキー。
彼の敵の攻撃をかわして隙を突く技術は、既にジムとの剣道の件で実証済みだ。
あとは竹刀さえあれば、こんなに手間を煩わせる事もないのだが。
「サラ!ねぇっ…起きっ…」
「優男が!んなひょろっこい体で俺らに勝てるわけねーだろーが!!」
不良男はフラリとリッキーのキックをかわし、
一直線に眠っているサラの所へ…
「サラ!危っ…」
「…おじぃさんと…ぉ…おばあさん…のぉ…」
「え…」
「酒が足りないっつってんだろ!!煤v
ガシャン!!
不良A「うぐぁっ!」
リッキー「ちょっとサラ!?それどんな昔話なんですか!」
寝ぼけたまま男の胸ぐらを掴んで殴りかかる彼女は、最早このチームの中で最強。
男よりも普通に強い。
ジョンもサラ同様の幼い頃から鍛えていた護身術で応戦したり、ボビーは見た事もない動きで相手を翻弄。
ジムは暴力は良くないと説得しようとした所、腹にグーパンを食らい気絶。
そのお返しにビッキーが平手打ちをして、その不良に大ダメージを与える。
あちらこちらでケンカが勃発し、楽しかったはずのバーベキューはあっという間に戦場と化した。
「お兄ちゃん!大丈夫!?」
倒れた兄に慌てて駆け寄ったのは妹のローラだ。
ビッキーはそっちのけで不良達に鉄拳を食らわせている。
「しっかりして」
「ふぐぐぅ…星っ…お星様が…見える…」
「ほんとに大丈夫?お腹殴られたのにお星様が見えるの!?」
「おぅおぅ、ここにも可愛いお嬢ちゃんがいるじゃんよぉ」
「…っ!」
突然背後から聞こえてきた不気味な声。
ローラが恐る恐る振り返ると、そこには背の高い男が立っていた。
オールバックの茶髪に黒のスーツ。
首筋に赤竜デザインの独特の刺青が入っている、まるでヤクザのような風貌。
他の人達とは明らかに雰囲気が違うが、間違いなく相手側グループの一員だ。
「ダメだよぉ。こんな柄の悪い男が集まる場所に君みたいな女の子がいちゃぁ」
「ヤッ!」
強引に後ろから腕を掴まれ、引っ張られるように立ち上がってしまう。
「いたっ…痛い!」
「良い匂いだねぇ、俺らの組の汚い女達とは違う。清純な香りだ」
首筋に顔を近づけられ、そのまま鎖骨、耳の裏側まで。
思わず全身に鳥肌が立つ。
何、この人…!
怖い!!
慌てて振り解こうとすると、握られた腕に爪がのめり込んで激痛が走る。
男は不気味に笑い、舌を出して首を舐めようとした
次の瞬間だった。
「…ッ!煤v
細い手を掴んでいた手首を、別の誰かが突然掴み
潰すように強く握られ、激しい痛みに思わず不良の手はローラの体から離れた。
「ガッ!」
その一瞬の隙に男の首側の襟を掴み、後ろへ引っ張り出す。
身長180センチを超えるであろう大男がこんなあっさりと…
男の手から逃れて振り返ったローラは、咄嗟にその名前を叫んだ。
「バレルさん!」
「…………。」
彼は普段と変わらない鋭い目つきで不良を睨みつける。
「イッテェ。チッ、赤くなっちまったじゃねーか」
「目障りだ。消えろ」
「んだと、テメェ!王子様気取ってんじゃ…
…っ!」
顔を上げてバレルの顔を見た途端
「……………。」
右目下の傷。
左耳のとぐろを巻いた蛇ピアス。
男はまるで時が止まったかのように、言葉と動きが同時に止まる。
「バレルさん、危なっ…」
「チッ」
すると何を思ったのか
スーツの男はバレルの手を荒く振り払った。
「おい、引き上げっぞ」
「…………。」
「えっ?」
突然の展開に、目の前で見ていた彼女は思わず声が漏れる。
その男が指示を出すと、他の場所で暴れていた別の不良達の手も止まり始めたのだ。
どうやらこの男が、このグループのリーダーだったようだが。
一体どうしたんだろう。
ろくに仕返しもせずに、すぐに男は自分達の車へ戻り始めた。
それもこれも、この人がバレルさんの顔を見た瞬間から。
「どーしたんだ、アイツら?」
「ふははは!僕の真の実力に恐れをなして逃げやがったな!」
「それは違うと思うけど」
部下と思われる不良達はバーベキューセットを片付け、ゴミはその場に残したまま車に積み込む。
こちらをチラチラ見つつ、何度も舌打ちをしながら。
全員が2台の車に乗り込み、排気ガスを撒き散らして走り出す。
河原はようやく元の静けさを取り戻した。
ナイジェル「ふぅ…なんだったんだ。いきなり帰りやがって」
ビッキー「いやぁぁあん!リッキー!怖かったぁ!」
ジョン「君の恋人…顔が川に浸かったまま気絶してますよ。大丈夫なんですか…?」
「バレルさん、ありがとうございます」
「………。」
危機一髪の所で助けられたローラは丁寧に頭を下げる。
バレルはそんな彼女に対しても、優しい言葉をかける事もなく無言で目を逸らした。
「あの人。お知り合いの方だったんですか?」
「…は?」
「いえ、なんだかバレルさんを知っているような反応に見えたから。気のせいかもしれませんけど」
その質問に2回程瞬きを繰り返した彼。
本当にただの気のせいかもしれないけど、ローラにはなんとなくそう見えた。
そして予想通りの小さな返事が返ってくる。
「知らん」
「そうですか」
その時、私は気づかなかったんだ。
彼のいつもとほんの少しだけ違う空気を。
蘇った記憶に不安がよぎる
バレルさんの表情を。
本当はこの瞬間に…
もっと早く気がつくべきだった。
「バレル!ローラさん!俺達もそろそろ帰りますよ!片付け手伝ってください!」
遠くからリッキーの呼ぶ声が聞こえてくる。
どうやら色々と騒ぎもあり、それぞれ疲れたのか
楽しかったバーベキューもお開きの時間みたいだ。
「あ…もう帰るみたいですね。私も少し疲れちゃいました。行きましょう、バレルさん」
「チッ」
いつもの舌打ち。
もう、私もその反応には慣れました。
ふたりは彼らの片付けを手伝うため、元いた場所へ戻り始める。
…俺にはわかるよ――
お前に最も傷を負わせ、苦しみ、人生のどん底に突き落とす方法がな…――
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「ぶわっはぁっ!やべぇ!息出来なくて死ぬかと思った!」
川の水に顔を突っ込んだまま気絶していた兄は、今になってようやく目を覚ました。
「オイ!お前らよくも俺を……ってかあれ…?あの不良は?ってか…ウチの連中は?
あれ?車もない?
え?なんでお月様出てるの?ここはどこ?私はだ…」
ビッキー「あ!私、河原に忘れ物してきちゃった!」
ナイジェル「はぁ?ったく。もーいいだろ、諦めろ」
ボビー「ちなみにビッキーちゃん、何を忘れたん………」
あ。
全員「「ジミー…忘れてきた」」
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