プルルルルル!





場も落ち着き、再び歩き出そうとする中で突然鳴り始めた機械の音。

これは携帯の着信音だ。

それぞれが自分の物を確認し


「あ、俺だ」


鳴っていたのは、さっきまで不機嫌顔だったジムの携帯である事が判明。

彼は画面で着信相手の名前を確認してみる。


「なんだろ?」

「誰ですか?」

「ローラだ」



ローラというのは彼の妹の名前だ。

彼女から何の予告もなく電話がかかってきたらしく、とりあえずその場で通話ボタンを押してみる。


「もしもし?」

『あ、お兄ちゃん?今、大丈夫?』

「あぁ…何かあったのか?」


遠い国に住んでいる妹とはちょくちょく電話をする機会があるが、お互い忙しい身でもあるため普段は事前に約束をしている。

元気でやってるか?とか、もうすぐ帰るとか、そんな大した用じゃない内容が約9割。

こんな平日の昼間に、しかも「今大丈夫?」なんて訊いてくるなんて、何か急な用があるに違いない。

妹は少し言葉を濁した後、電話からその質問をぶつけてみた。


『あのさ…お兄ちゃん。最近バレルさんに何かあったとか知らない?』

「バレル?あのバーベキュー以来会ってないな。アイツがどうかしたのか?」

『う…うん。今度さ、仕事の都合で2週間そっちに戻るって言ったよね?』

「あぁ。言ってたな」

『それでね、空いた時間にバレルさんの所に行こうと思ったんだけど、急にもう自分の家には来るなって電話で言われちゃって』

「あの野郎…またそうやって人の親切を。ローラもわざわざ時間を割いてまでそんな奴に会いに行かなくてもい…」

『それがバレルさん、なんだか様子おかしいの』

「様子がおかしい?」


妹の言葉にオウム返しをしてしまう兄。



それは、つい数時間前の出来事だった。






*****


来月下旬の2週間、仕事の都合で急遽祖国へ帰国する事になったローラ。

なんでもアメリカの子ども達に日本文化を体験させる授業があるらしく、日本に住んでいる私に是非先生として授業をして欲しいと依頼があったのだ。

飛行機の予約、あと実家からも遠いのでホテルの予約もギリギリでなんとか取る事が出来た。


ウィンディランにも顔を出してみようかと何日か前に兄に電話をかけてみたけど、
なんでもその期間は理事長?とにかく偉い人達が来るらしくて部外者は立ち入り禁止になるらしい。


残念だなぁ…


そして次に頭に浮かんだのはバレルさんの顔。


故郷へ帰る度にお土産を持って行ってあげてるし、今回もご飯を作ってあげようかな。

それが帰ってくる度の自分の恒例行事みたいに最近はなっている。


そうと決まれば、思い立ったらすぐに行動。

携帯電話を開いてバレルさんの名前を探した。






プルルルルル…

プルルルルル…







ピッ





「あ、もしもし?ローラです」

『…あぁ』


最近のバレルさんは10コール以内で電話を取ってくれるようになった。

用件はいつも同じだから、多分出る前からわかってくれてるんだろう。

もちろん今回も同じ内容だ。



「あの、私来月の下旬2週間くらいお仕事の都合でそちらに帰る事になったんです。
またご飯を作りに行きますので、どこかの日にお邪魔してもいいかな…なんて…」


『…………。』



あれ…?返事がない。

いつもなら何日は空いてないとか、来るなら早く来いとか言ってくれるのに。


「バレルさん…?」

『もう家には来んじゃねぇ』

「えっ…」


あまりにも急に突きつけられた冷たい拒否の回答に、携帯を握ったまま呆然とするローラ。

予想もしていなかった展開にショックを隠しきれない。


「えっ…?その期間は都合が悪いんですか?」

『今後ずっと家には来んなっつってんだ』

「そんな…いきなりどうしてっ…」


自分がバレルさんの嫌がるような事をしたのか?

ここ数ヶ月の出来事を思い返してみてもわからない。

あのバーベキューの時だって、特に変わった印象はなかった。

それなのにどうして。


もしかしてずっと…

私が家に行く事自体が、彼にとって迷惑だったんじゃ…?


頭の中が真っ白になり、返事の言葉さえ思い浮かばない。







『飛行機は何時着だ?』

「…はい?」


ショックでパニックになっていると、再び携帯から聞こえてきた思いがけない言葉に口がぽかんと開く。



『何時着だって訊いてんだ。答えろ』

「えっ…と…お昼の3時半…着ですけど」

『日付けは?』

「〜…日の月曜日です」

『わかった。俺が行くまで空港から一歩も出んな。いいな?』


「え…?あ…は………はい…」


*****






ジム「は!?空港まで迎えに来るって?」

『うん。そのままホテルに私を送ってくれるんだって』


バレルの性格は出会った頃から重々承知していたはずだ。

非情。冷酷。他人に無関心。

優しさの欠片さえ感じた事がない。

そんな奴が突然そうやって優しくしてくると、予想外すぎて誰だって驚く。

確かにこれは何かあったとローラが思うのも無理はない。



『迎えに来てくれるのは嬉しいけど、いきなり優しくなったり…でも家には来るなって言ったり。
明らかにおかしいから、ひょっとして何かあったんじゃないかと思って』


少し考えたジムはとりあえず一番近い存在のリッキーに確認してみるが、彼も首を横に振って何も知らない様子。

他の連中も今の質問を聞いてピンときている人物はいなさそうだ。


「リッキーも何も知らないらしい。何なんだろうな、一体」

『そっか。単純にちょっと気分が変わっただけならいいんだけど』

「アイツがそんな気分になったら、それはそれで大事件だけどな。わかった。こっちで何かわかったら連絡するよ」

『うん、よろしく。忙しいのにありがと』

「気にするなって。気をつけて帰ってこいよ。じゃな」





ピッ。


電話を切るとすぐに他のメンバーが彼の周りに集まってきた。


ナイジェル「バレルの奴、何かあったのか?」

ジム「さぁ。わからないけど、なんか様子がおかしいらしい」

サラ「どっかの不良とケンカして、手でも骨折したんじゃないの?」

ビッキー「バレル君がそんな簡単に骨折るかなぁ」




「あっ!ジムさん達!こんな所にいたんすか!」


話の途中、突然呼んでこちらへ駆け寄ってきたのは、weather lifeのメンバーのひとり。

日晴響介だ。


「スタッフが呼んでるっすよ!ちょっとこっちに来てください!」

「ジム、行かなきゃ」

「そうだな。とりあえず今はこっちの仕事に集中しよう」


どうやらこれからの撮影について色々と説明があるようだ。

「わかった、今行く」と伝え、一同は止めていた足を走らせ始めた。


バレルも何があったのか気になる所だが、とりあえずここは一旦お預けだ。


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