……………


ふぅ。

今日はなんだか不思議な一日だったな。


ホテルのシングルベッドに座り、テレビを眺めながらローラは大きく息を吐いた。

あのバレルさんが本当に空港まで迎えに来てくれて、しかもこの場所までちゃんと送り届けてくれた。


それに今日のあの人…どことなく普段とは違った気がする。

周りを気にするように目配りをしてた所とか、いつも無口なのに「家に来るな」とか「外出は控えろ」とか妙に口数が多かった。

まるで何かに追われて焦っているみたいに私には見えた。




『ニュースイレブン、この辺りで失礼します』



経済ニュース番組が終わり、リモコンを使ってテレビを消す。

私はニュース番組と天気予報以外は、単純に興味がなくてテレビ番組をほとんど観た事がない。

バラエティ番組も芸能人の名前さえ知らず、周りの会話に付いていけずによく困った顔をされるが、これが私なんだ。

興味が湧かないからには仕方ない。





窓の向こう。

暗い空を見つめ、私は彼の事を思った。





プルルルルル!


「…ッ」


そこで鳴りだしたのは携帯電話。

近くの棚に置いていた事もあり、すぐにそれを手に取ると…

着信元は兄のようだ。





ピッ



「もしもし?」

『あぁ、もしもし、俺だ。アメリカには無事に着いたか?』

「うん。着いたよ」

『そうか、よかった。バレルは?』

「ほんとに迎えに来てくれた。ホテルまでもちゃんと送ってもらったよ」

『本当か。驚きだな』


お兄ちゃんもあの日以来、バレルさんの事がずっと気になっていたみたい。

まぁ、私が急にあんな電話もしてしまったしな。


「バレルさん…やっぱり変だよね。どうしちゃったんだろう、突然」

『確かにな。それで俺達もアイツの事ちょっと心配になってさ、内密にバレルの周りを6人で調べてみようって話になってんだ』

「はは。凄い、探偵みたい」

『だろ(笑)…で、ローラにも一応その事を報告しておこうと思って電話をかけたんだ。アイツの事、一番心配してるのはやっぱりお前だからな』

「まぁ…そうかな」


言葉で改めて言われると内心照れ臭くなってしまうけど…自分でもビックリするくらい、最近は彼の事ばかり考えている。

兄は言葉を続けた。


『バレルの事で少しでも何かわかれば報告するよ。それまでお前は何も心配せずに教師の仕事を続けてくれ』

「わかった。ありがとう、お兄ちゃん」

『気にするなって。それじゃ、お互い疲れただろうし、今日はもう切るぞ』

「うん」

『おやすみ。ゆっくり休めよ』

「おやすみなさい」




ピッ


兄との通話を終え、静かに電話を切る。

やっぱりお兄ちゃんって昔から変わらない。お節介だし家族でも驚く程お人好しだな。

それにウィンディランの人達も。

普通そこまで誰もやらないよ。


なんだかホッとして笑みが零れた。


何か詳しい事がわかればいいけれど。

私ひとりじゃ何も出来ないし、とにかく彼らが今は最も心強い。






「…ふぅ」


再び小さく息を吐いて立ち上がり、窓の傍へ足を進める。


何度も思い出す彼の姿。



これは今日だけに言えた事じゃないけれど。

バレルさんは、最近会う度に体の怪我が増えている。

まるでケンカに負けちゃったように、いつも傷だらけ。

出会った頃は、怪我をしてもそんなにたくさんの傷はなかったような気がするのに。


やっぱり私に言えない何かを隠してるのかな。






無意識にカーテンを強く握ってしまう。


お家…本当は行きたかったなぁ。

最近新しい料理を覚えたから、作ってあげようと思っていたばかりだったのに。


バレルさん…


一体貴方は何を隠してるんですか。



日本と変わらない美しい夜空。


ローラは音も静かにワインレッドのカーテンを閉めた。


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