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……………


From:お兄ちゃん
件名:バレルについて
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バレルの件について、今わかっている事をメールする。

奴は最近バイトの欠勤や遅刻が増えたらしい。
欠勤した次の日は必ず怪我を負ってるとか。
傷は日に日に増えているそうだ。
それから気になった事は家のポストや携帯を頻繁に確認している事から、誰かと連絡を取り合っているか、何らかのメッセージを受け取っている可能性が高い。
数人の男達と歩いている姿も目撃されている。

俺達がわかっている事はここまでだ。
また何かあれば連絡する。

仕事頑張れよ
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「…はぁ」

教員室のデスクで携帯を閉じ、大きなため息をついたローラ。

お兄ちゃんからのメール。

やっぱりバレルさんは私達に隠れて誰かと繋がっている。

多分。その相手は…








…あれれ〜?バレル君、今何か隠さなかったぁ?…――――










私がファミレスのロッカーの中で聞いた、あの声の主。

耳にひっかかるあの男性の声。

絶対…一度どこかで聞いたはずなのに!


全然思い出せない。



あれは、一体…






「ローラ先生?ローラ先生!」

「はっ…い!?」


背中を叩かれて、ようやく自分が名前を呼ばれている事に気がついた。


「大丈夫?なんだか体調悪そうよ」

「あ…大丈夫です。ありがとうございます」


教員室、隣の席の先生だ。

ガタイが良くて包容力のある、生徒や教員からもお母さんのような存在で知られている肝っ玉先生。

出張でやってきた私の事もよく可愛がってくれるから、気になって声をかけてくれたんだろう。


「顔色悪いわよ。本当に大丈夫?残りの作業は私がやっとくから今日はもう帰りなさい」

「えっ…でも」

「でもじゃないわよ!慣れない学校で貴方も大変でしょうから、体調が悪いなら無理しないで休みなさいな」


ふくよかな体格で笑ってくれる先生。

申し訳ないけれど、私も最近悩みが多すぎて疲れているのも間違いなく事実だ。

今だって彼女の声が全く聞こえないくらいだったし。


「すみません…」


その先生の言葉に甘えて、ローラは持っている仕事を切り上げて帰宅する準備を始めた。


今日も生徒の前でポーッとしちゃって色んな子に心配されちゃったもんな。

教師失格…。

たまには全部忘れてベッドでゆっくり眠ろう。



荷物をまとめたローラは、普段より早めの時間に校舎を出た。

今日は自販機で何かを買ったりしようという考えもない。


お気に入りのバッグを握って、まだ慣れない道を歩き始める。

バレルに言われた言葉を守り、比較的人の多い大通り。

たくさんの人とすれ違いながら、ホテルに向かって歩き続けた。


出来れば公共の乗り物を使えって言われたけど、タクシーやバスもタダで乗れるわけじゃない。

歩ける距離をわざわざ…











…?







たまたま後ろを向いた瞬間、サッと何か隠れる影のようなものが見えた気がした。


「…………。」





再び歩き始めるローラ。




コツッ

コツッ

コツッ



主に聞こえるのは、歩く度に自分の靴がコンクリートに当たって鳴る音。


だけど…



コツッ

コツッ

コツッ



自分の足音と重なる別の小さな足音が




微かに聞こえる気がする。



「っ…」



しかし振り返ると怪しい人物は見当たらない。

皆今さっき私とすれ違った人達ばかり。




何…?


誰かが後ろからこっそり付いて来てる?



心臓の鼓動が自然と早くなる。

急に恐怖を感じ始め、彼女は先程よりも早足で道を歩き出す。




コツッ!

コツッ!

コツッ!

コツッ!




やっぱり…


誰かが後ろから付いて来てるっ…


「…ッ」



怖くて振り返る事も出来なくなった。



どこまでも付いてくるその足音。


咄嗟に走り出すと、


後ろにいた人物も走り出した。





ダッ!

ダッ!

ダッ!

ダッ!



ウソ?え、誰なのっ…!?


ローラは足の力をフルに使い、全力で走るが





ダッ!ダッ!ダッ!ダッ!ダッ!




まだ追いかけて来ているッ…!

ヤダッ!怖い!!



ザザッ!



相手を振り切ろうと考えるあまり、咄嗟に路地裏に入ってしまった。


っ…!いけない!

こんな所で捕まったら助けが呼べない!



「はぁっ…はぁ…!…んはっ…!」




ジメジメとした小道。


光の入らない家と家の間をローラは必死に逃げ回る。




しかし…








ダッダッダッダッダッ!!!!








相手のスピードがますます上がっている!

足音が倍くらい大きい!

誰も周りにいないここで私に追いつくつもりだ!


どうしようっ…!

どうしよう…!!!



体の小ささを活かして狭い道を走り回るが、スピードは断然あちらの方が上だ。



どうしよう!!


そろそろ息が上がってきた…!


このままでは確実に追いつかれる!!


体が壁を擦っても木の枝で顔が傷ついても、今はそんな事に構っている余裕はない…!



「ハァッ…!!ハァッ…あ…!!」





ダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッ!!!




怖いっ…この足音!!


凄く早いっ!


もう…ダメかも…!


足がっ…おかしくなりそう!



バレ…!



バレルさん!



助け…







「キャァッ!!」



勢い余って躓き、前に倒れ込んだ瞬間


突然世界が180度変わったように、真っ白に視界が明るくなった。


一般道路へ飛び出したのだ。






キーッ!!!



そこで道路に倒れ込んだ彼女に気がつき、たまたま通りかかったタクシーが近くで停止した。


「お嬢さん、大丈夫?」

「…ッ!た、助けっ…乗せてください!」


立ち上がり服の汚れを払うのも忘れて、慌ててそのタクシーの後部座席に乗り込んだ。


「えっ…どうしたんだい?」

「いいからとにかく走って!!」



ブオオオオッ…!


ローラの指示に従いタクシーは走り出す。


















「だぁっ…!クッソッ!!煤v



そのほんの数秒後だった。


ローラが出てきた建物の隙間から、ひとりの男が飛び出してきた。

酷く呼吸が乱れ、肩で息をしている。


緑色の髪の柄の悪い男。


「チックショ…はぁっ…はぁっ…!随分逃げ足が早い女だな!」


気づいた時のタクシーの大きさは、既に追いつけない程小さく。

「クソがッ!」

飾ってあった鉢植を腹いせに蹴り飛ばし、激しい音と共に土と割れた陶器が散乱する。

男は道の先を血走った目でギッと睨み付けた。


タクシーの姿はもう全く見えない。


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