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……………
「バレル。聞いてんのか、さっきからボーっとして!」
「聞いてんだろーが」
ジジィ…。歳のくせにピンピンしやがって。
こっちは体中怪我してそれ所じゃねんだよ。
長い間受け続けていた傷がジンジンと痛む。
腕に足、背中に胸元。
あらゆる部分に傷を負い、適当に絆創膏を貼ったり包帯を巻いて服で上から覆い隠しているが、ロクに洗いも消毒もしなかったせいか膿んで余計痛みが増している。
さらに重なっている連日の疲労で、さすがのバレルも意識が遠くなっている時間が多くなった。
今は昼休みの時間を割いて、ホールに出ていない数人で昼礼を行っている最中。
店長から連絡があると聞き、急遽スタッフが集められたのだ。
昼休みに仮眠を取ろうとしていたバレルにとっては非常に迷惑な話。
「というわけで。今の時代のニーズに合わせ、ウチもデリバリー制度を始める事にした!」
話の内容は、電話で注文をしてきた客に料理を届けるデリバリーサービスシステム導入の知らせ。
出前のピザやラーメンのようなものだ。
その新業務を加えるにあたり、店のロゴを貼ったバイクを購入したらしく、男性従業員はこれに駆り出される機会が増えるらしい。
「お客様にとって最も喜ばれる…」
また始まる店長の「お客様は神様説」
その話は従業員ももちろんバレルも、何十回何百回と飽きれる程聞かされてきた。
「では、来月よりこのシステムを開始するから、事前練習を後日行う。キーはこの休憩室に置いておくから、使用する際はワシに一言報告するように」
「以上だ」と言葉を残し、小言のうるさい店長はホールへ戻った。
…くっだらねぇ。
結局、今の長い話で昼休みが潰れてしまった。
あのハゲジジィ。
人の休み時間を何だと思ってんだ。
もっとハゲろ。ハゲ。
「バレルさん、大丈夫ですか?」
ミーティングが終わった所でひとりの男性従業員が話しかけてきた。
少し年下くらいの髪の短い男性で、最近入ってきたばかりの新人。
バレルにとっては仕事の後輩だ。
「はぁ?」
「いえっ…なんだかずっと腕を抑えてらっしゃいますし。顔色が悪いように見えるので」
「…………。」
チッ。
こんなトロそうな奴にも気づかれる程、俺はやられちまってんのか。
情けねぇ。
「テメェには関係ねーだろ」
「無理しないでください。ホールには僕が出ますから、休んでおいて…」
「黙れ。放ってろ」
「…ッ」
僕を突き放し、ホールへ仕事に戻るバレルさん。
追いかけようかとも考えたが、それはやめた。
ここ最近、彼は様子が変だ。
妙に疲れているように見えるし、いつも以上にピリピリしている。
でも誰が何を訊いても全然答えてくれないし。
入社当初は鬼のような怖い外見の先輩かと思っていたが、意外と真面目な人なんだな。
男性は先輩のフォローを出来なかった事を虚しく思い、椅子にペタリと座った。
・
・
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・
・
店内は相変わらず客が多い。
安さと味が売りのファミリーレストランとして評判が高いからこそ、そこら辺の飲食店よりは繁盛しているこの「ジョイント」
「お待たせしました。ご注文はお決まりでしょうか?」
「こちらチョコレートアイスです」
「ありがとうございました!またお越しくださいませ」
あちこちで従業員や客の声が響く。
「……ッ…」
この店の用心棒的存在のバレルも体に鞭を打ち、傷の痛みに耐えながらウェイターの業務を続けていた。
家族連れの注文を聞き、水を汲んで客に渡し…
そしてキッチンへ向かう途中だった。
ブーッ!ブーッ!
体に小さな振動が伝わる。
業務中の持ち込みは禁止されているが、今はそんなルールに縛られている状況ではなく
バレルはそれをパンツのポケットに仕舞っていた。
携帯電話のバイブだ。
「…………。」
トレーを脇に挟み、すかさず電話を手に取る。
あの女からの着信。
迷う事なく、すぐに通話ボタンを押した。
ピッ
「…どうした?」
電話口からでもわかる、乱れた呼吸の音。
彼女は震える声で絞り出すように名前を呼んだ。
『バ…レルさ…』
「オイ」
明らかに様子がおかしい彼女に不吉な予感。
何かあったとしか思えな…
『さっき…知らない人に…追いかけ…られました…』
「……ッ…」
耳に入ってきたたどたどしい言葉に目を見開くバレル。
薄々感じていた予感が的中してしまったらしい。
その後すぐに携帯を握り直して彼女に問いただす。
「どこにいる?」
『ホテルですからっ…もう大丈夫です…』
「今から行く。鍵をかけて絶対ぇそこを動くな」
『えっ…今仕事中でしょ?大丈夫で…』
ピッ!
返事を聞く余裕などなく、すぐに彼は電話を切った。
「バレル!!!お前ホール内でなに堂々と携帯触っとんだぁ!」
同じくキッチンへ戻ろうとしていた店長は業務中に電話をしていたバレルを発見。
すぐに怒鳴り、彼に近づいた瞬間…
「フヌッ!」
腰に巻いていたエプロンを顔面に放り投げられ、視界が真っ暗になった。
「何するん…」
「5番テーブル、海老と蟹のクリームドリア。チーズサラダとイタリアンハンバーグ。あと3番テーブル、苺パフェ追加」
「…は?」
持っていたハンディ端末をテーブルに置き、すぐにその場から立ち去るバレル。
「えっ…!?バレル、お前まさか今の注文ワシがやれって事か!?
って、ちょ!なに勝手に帰ってんだ、バレル!コラ、お前!またかぁッ!!」
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