16
……………
「オラァッ、ちょっとは抵抗しろやテメェ!」
気がつくと、私の前にこの光景が広がっていた。
「グフッ!」
「ハハハッ、オラァッ!!」
夕空の広がる見た事もない空き地。
すぐ隣にはこの場所を隠すような立派で大きな建物。
そこでバレルさんが、たくさんの男の人に囲まれて殴られたり蹴られたり
激しく暴行を受けていた。
顔も血だらけで服もボロボロ。
息苦しそうに咳き込むが、それでも男の人達は手や足を止めない。
やめて!何をしているんですか!!
叫びたくても声が出ない。
体が動かない。
私はただ傍で見ているだけで、彼を助ける事が出来ない。
ガハッ!ヴッ!!
顔を蹴られたり、背中を踏みつけられたり…
目を背けてしまいたくなる恐ろしく惨い光景。
あまりの恐怖と絶望に足が震える。
長い間暴行を受けるシーンが続き…
走ってきた一台の車が近くで止まった。
場面はそこで途切れ、また最初のシーンに戻る。
ずっとずっと…エンドレスに続く暴行の一部始終。
バレルさんっ…!
「ハァッ…ハァッ…」
また最初のシーン…
バレルさん!
やめて、それ以上彼を傷つけないで!
そしてまた…
怖い…!
ヤダッ…こんなのっ…
こんなの私に見せないで!!!
「…ハッ!!煤v
体の制御が利かなくなり、ベッドから激しく飛び起きる。
「はぁっ…はぁっ…よかった。やっぱり夢だ…」
悪夢にうなされ続け、ようやくそれが現実ではなかった事を知り、ローラは安堵の胸を撫で下ろした。
カーテンの隙間から漏れる光を見る限り、太陽は結構高くまで登っている時間のよう。
「わ…」
振り返ると、シーツが汗でぐっしょり濡れていた事がわかった。
昨晩、不安を感じながら眠りについたけど…
余程うなされていたんだ。
今思い出しただけでも恐怖で体が硬直する。
「あ」
枕元にひとつのハンカチが置いてある事に気づいた。
これは以前、私がバレルさんにあげた物…?
茶色い彼の血の跡が生々しく残った花柄とハートのハンカチ。
手に取るとじんわり濡れている。
これで私の汗を拭いてくれたのだろうか。
「バレルさん…」
すぐにベッドを降り、彼がいるはずの廊下へ向かう。
ガチャン!
「…ッ」
しかし扉を開けるが、そこには誰もいない。
バレルさんっ?
え…どこに行っちゃったの?
トイレや風呂場を確認しても、彼の姿は見当たらない。
「バレルさん!どこですか?」
声を出しても返事はない。
まさか外にいるのだろうか?
慌てて玄関へ向かい、鍵のロックを解除し…
ガチャン!!!
「バレッ…」
「わっ!」
勢いよく開けた瞬間に、たまたま扉の前に立っていた男性が慌てて後ろへ下がった。
ローラも驚いて固まってしまう。
「えっ?…リッキー君!?ご、ごめんなさい!大丈夫!?」
「い、いえ。大丈夫です」
この部屋を訪ねてきたのは、ウィンディランのリッキー・スターン君。
バレルさんのお友達だ。
周りを見渡すが肝心の彼の姿はない。
突然の来客にローラもぽかんとしている中、彼にお願いされてとりあえず中に彼を入れる事にした。
部屋の中に入った所で、改めて顔を向かい合わせる。
「リッキー君っ…あの…どうしてここに?」
「詳しい事情は後で説明します。とにかく今はこの服を着てください」
訳のわからないまま差し出されたのは、見た事もないシャツとスカート。
それに帽子と眼鏡。
「え…?」
「今からウィンディランへ行きますよ」
「でも…今、部外者は入れないんじゃ?」
「理事長には事情を説明して帰って頂きました」
その衣類を受け取りながらも、状況が掴めていない様子のローラ。
「あっ…そうだリッキー君!バレルさんを知らない!?昨日までここにいたはずなんだけど、起きたらいなくなってしまって…」
「わかりません」
「ならあの人を探す方が先です!彼、きっとまた無茶をして…」
「ダメです」
彼女の言葉を遮るように、グイッとリッキーは腕を掴んで引いた。
「どうして!?バレルさんに何かあったら…」
「貴方をこちらの事務所に匿うよう、バレルにお願いされました」
「……ッ…」
動揺していた彼女の顔が、その言葉を聞いて瞳孔を開いたまま動かなくなってしまう。
もう抵抗しない事がわかると、ゆっくりと掴んでいた手を放した。
「あのバレルが今朝…俺に頭を下げて頼んできたんです。本当は言うなって言われたけど」
「……」
信じられないのか、言葉が出てこない。
緑色の瞳で目の前の顔を真剣に見つめている。
彼は…嘘を言っていない。
「とりあえず今はモタモタしている時間はありません。バレルは後で俺達が探しますから、貴方はこちらへ来てください」
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