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……………





「…………。」


部屋にいても何もする気が起きない。

本を読む気も音楽を聴く気さえ。

ただ毎日涙を流して、ひたすら祈っていた。


携帯画面は何度確認したって、いつまで経っても「新着メールはありません」



貴方に会えない。

声も聞けない。

もう…

頭の中が…ぐちゃぐちゃになってしまいそう。








コンコン







「…っ」





「ローラさん。入っていい?」




扉を叩く音。

そしてサラさんの声だ。


ベッドに伏せていたローラは顔をようやく上げる。


「はいっ…」



カチャ



刺激しないようにゆっくり扉が開くと、そこにはサラさんとビッキーさんの姿があった。

心配して様子を見に来てくれたのだろうか。

ここへ来て以降、自分でも心配になる程食欲は落ちたし、こうやって部屋で泣いてばかり。

無理に押しかけてきたのに申し訳ない。


力なく座っていたローラにふたりは近づく。


「大丈夫?ローラさん」

「ごめんなさい…。心配をかけてしまって」


クスッと笑ったサラは、彼女の目元を指で拭った。


「随分泣いたみたいね。目、真っ赤」

「っ…すみません…」

「謝らなくてもいいよ!今、私達が必死にバレル君を探してるから!」


やっぱりまだ…あの人がどこに行ったかわからないままなんだ。


「大丈夫!あの熊と戦っても狩って食べちゃいそうな彼だよ!そう簡単に誰かにやられちゃったりしないって!」

「ふふっ…そうですね」


明るいビッキーの言葉にようやく笑みが零れる。

両脇を挟むように座ってもらい、同性からの慰めにローラも心が落ち着いてきている。

サラは優しく笑い、膝に置いてある彼女の手を握った。


「バレルは今、貴方を必死に守ろうとしてる。
ぶっきらぼうなやり方だけど、あの人なりに色々考えて、一生懸命ローラさんに危害が及ばないよう頑張ってるんだと思う」

「…………。」

「だから今は彼の事を信じて。あの人はきっと私達の所に帰ってくる。
例えそうじゃなくても、貴方を守るって信念は必ず果たしてくれるはずよ」



テレビもつけていない静かな部屋。

その言葉にまた熱いものが込み上げてきたのか、右に座っているビッキーの手も取り、強く握り締めた。


「って…ますっ…」

「…っ」

「わかってます…っ…。バレルさんはっ…出会った時からそうでした…」


すすり、鼻声に変わるローラの声。


「いつも眉間にシワを寄せて、話しかけても全然喋ってくれないし、愛想が無くて冷たい顔ばかりされてたけど…
それでも彼はいつも私を助けてくれましたっ…!

荒々しくてとても乱暴な時もあったけど…結果的に私は何度も彼に救われました。

守られていました…」


「ローラさん…」


行き場のないもどかしい気持ちが、言葉にするとますます溢れてしまう。

心臓が震える。


「会いたいっ…会いたいですっ…!

私だけが無事で、あの人が帰って来なかったら…

それじゃ意味がないんです!!」


ふたつの手を強く握り、涙がポタポタと零れ落ちて止まらない。

その声は部屋の中に響く程大きくなり


「怪我の手当てもしてあげられない!

ご飯ももう作ってあげられないっ…!

隣に座って貴方がたくさん食べる姿も見られない!

もう…『ウザい』とも…言ってもらえない…」


全てを吐き出し、力尽きたように力が緩まる。

スカートには大粒の涙で濡れた跡がいくつも散らばっていた。




「バレル…さん…


お願いだから…


せめて…生きて帰って来て欲しい…」


「………。」



下を向いたまま動かなくなる彼女。

ビッキーとサラはお互い目を合わせた後

ふたりで今にも壊れてしまいそうなローラの体を抱き締めた。




「今日は、久しぶりに3人ここで寝ましょう」

「バレル君が帰って来るの、皆で待とうね。ローラさん」








呼吸が苦しくなる息遣いで、全てを出し切ってしまった。

こんな取り乱した姿…普段なら恥ずかしくて誰にも見せられないと思ってたのに…


不思議とこのふたりになら…全部見せる事が出来た。


両側から包み込まれる温かさに、不安のどん底に突き落とされた気持ちが少しだけ温かくなれた気がする。


浮かぶ見えないバレルさんの姿に、静かに口の中で歯を食いしばった。



サラさん…ビッキーさん…


ありがとう。





今日だけは少しだけでも眠る事が出来そう。




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