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……………


「ジョンさん、待ってました!」

「遅くなってすみません…」

「いえ、こちらこそ遠い所ありがとうございます!入ってください!」


外も暗い夜の10時。

ローラを除いたウィンディランメンバー全員が玄関から出迎えて、ジョンは建物に招き入れられた。


話に進展があったのは、今朝丁度レースの準備をしている最中だった。












*****



「ローラちゃんの様子は?大丈夫か?」

「あぁ、やっぱ普段より全然元気ないな。飯もほとんど食べないし」


それはバイクレース1時間前の出来事。

横に並んだジムとナイジェルのオッサンコンビが、更衣室でライダースーツに着替えていた。

薄暗い中、ナイジェルは顎髭をさすりながら衣服を荒くカゴの中へ放り投げる。


「そっかぁ。それじゃ今夜辺り、オジサンが慰めてやるか」

「やめろ。お前だけはやめろ」

「なんでだよ」

「お前が言うとどことなく嫌らしく聞こえる。どんな慰め方だ?言ってみろ?」

「やさーしく頭を撫でてやるだけだよ」

「やめろ。お前だけはやめろ」

「なんでだよ。撫でてるだけだろーが」


ファスナーを閉めロッカーを閉め、最後に気を引き締める。

誰が上手い事を言えと言ったと。


「バレルに電話をかけても出もしねーもんな。本当…生きてんのか、アイツ」

「アイツがそう簡単に死ぬような奴じゃないだろ。これ以上誰も巻き込まないようにひとりで逃げ回ってるんだよ、多分」


最後に自分のヘルメットを握り、部屋を出ようとノブに手をかけた。


「とにかく、今はレース前なんだ。余計な事を考えてると事故を…」

「ジム!」

「っ…?」


扉を開けた途端、廊下の向こうから女性の声が聞こえて首を回す。

こちらへ走って来ているサラだ。


「サラ。どうした?」

「お兄ちゃんから電話があったの。バレルを追ってる人の正体がわかったって」

「本当か!?」

「まだ繋がってるから…代わって」


慌ててジムは彼女から携帯電話を受け取る。


「もしもし!?ジョンさん?犯人の正体がわかったんですか!?」

「はいっ…。まだ全ての真実がわかったわけではないですが…ある程度の特定は出来ました。
詳しい事情は本日の夜、僕がそちらへ伺って説明します。問題ないですか?」

「っ…わかりました。お待ちしてます!気をつけて来てください」


ピッと電話を切り、その場にいた3人はレースどころではない顔を見合わせた。




*****











ついに明かされる、バレルをしつこく追い回していた者の正体。


メインルームへ案内されてテーブルにつき、早速ジョンは持ってきた資料を広げた。


「犯人グループの頭領の写真を入手しました。確認してください」

「あっ!」


写真を見せられた途端、全員が思わず同時に声を合わせる。


高身長のスーツ姿の男。

見覚えのあるオールバックの髪型。

全員の脳裏に先日の同じ場面が蘇ってきていた。


「コイツッ…!バーベキューの時に来てた男じゃねーか!」


ジムが叫んだ。

間違いない。

あの時確かにこの男はいた。

俺達がバーベキューを楽しんでいる途中にやってきた、あの不良グループ。

あの中でもこの男は特に異質だったし、他の人間に引き上げる指示を出していたのも彼だった。



「名前はフィリップ・ゲイス。28歳。
昔、あるヤクザの組織に所属しており、頭も切れケンカも強く、組のトップを狙える程の実力者でした。

しかし2年前、ある事件をキッカケに彼はその組織を解雇されています」

「え…」

「こちらで調べた所、その事件はフィリップが一般人と街中で乱闘を起こし、その場で派手に負けてしまったとの内容でした」

「ケンカで…負けた?」

「はい。大勢の前で無様に負け姿を晒し、組織の顔に泥を塗ったとして、彼はその組織を追放されています」


ジョンの話を聞いて

なんとなく状況がわかってきた。


「フィリップは組織を追放された後、自身で新しい組織を立ち上げました。

名前は『アゲインドラゴン』

もう一度現れる龍という意味でしょうか。

最初は小規模だったその組織ですが、何かの拍子に爆発的に所属団員が増え、今では他の組織を圧倒する裏社会の巨大勢力となっています」

「なるほどな」


ナイジェルはタバコの煙を吐きながら、大きく開いた足に肘を乗せて前のめりになる。


「昔ケンカで負けちまって大恥を晒された上に、組織をクビになって人生のどん底に。

怒りに満ちて自ら新しく組織を立ち上げ、権力が莫大になった今、当初の目的を果たそうとしてんのか。

しかも2年間もかけて。すげー執念の持ち主だな」



「…要約するとそうなります。
今回勝手ながら、バレルさんの自宅を我々で調査させて頂きました。すると部屋の中からこんなものが見つかったんです」


再び鞄を漁り、ジョンは一通の封筒を取り出す。



「なんだこれ?俺達も見ていいんですか?」

「…はい」


ジムが封筒を開き、中身を取り出すと


「…ッ!」

「なんだこれ…気味悪ぃ」


それを見た途端にビッキーが口を抑え、ナイジェルの顔が引きつる。









【復讐の為に地獄から這い上がってきた。

もうあの頃の俺とは違う。

さぁ、次はお前の番だ】







こんな手紙と数枚のバレルの写真。

そして1枚だけ混ざっているローラの写真。

眺めているだけでゾッとする中身だ。



「バレルさんは、その封筒を大分前に受け取っていたかと思われます」

「…っ。だから彼、ローラさんから連絡があった時に家には来るなって言ったんじゃない?
空港からの送り迎えを買って出たのも、多分この写真を見て彼女にも危険が及ぶかもしれないと察知したからよ」


サラの言葉も今なら納得出来る。

ジョンはコクリと頷き、言葉を続けた。


「我々はこの封筒を徹底的に調べました。
バレルさん以外の何か情報が出てこないか専門機関に依頼を出し。

そして、このフィリップ・ゲイスという男に辿り着いたのです。
…この男が2年前にケンカで負けた相手がバレルさんであれば、全ての辻褄が合います」


ジムは手に取った写真を見つめ、テーブルに乗り出した。


「それならすぐに、このフィリップという男を捕まえましょう!」

「残念ながら彼も現在、行方を眩ませています。恐らく組織全体でバレルさんを探しているんでしょう。
我々、ヒルカンパニーも総力を上げて行方を追っています」

「そう…ですか…」




話の全貌を聞き、肩の力が抜けてソファーに座り込んでしまう。

ヤクザの組織。

暴力事件。


話があまりにも大きくなりすぎた。

今、俺達に出来る事は何もないのか…











「んぅぅぅ…」




この緊張感漂う空気の中。

おかしな唸り声を漏らしたのは、ボビーの隣に座っているビッキーだった。


「ビッキーちゃん?どうしたんだい?」

「いやぁ…なんかさ…」


顎を手で支えて、珍しく難しい顔をしている。





「なーんか…このフィリップって人…引っかかるんだよねぇ」

「は?何がだ?」

「わかんない」

「んだよ、それ」


彼女の答えにナイジェルが顔を歪める。


「でも…なんか。なんか引っかかる気がして!んうぅ…なんだろ」

サラ「単純にアンタの好みなんじゃないの?」

「ち、違うよ!こんな悪そうな人なんてゼンッゼン興味ない!私は爽やかでちょっと病弱そうな草食系のイケメンが好きなの!」

「本当かい!?ビッキーちゃん!僕も虚弱体質になればいいのかい!?ヴッ!具合悪くなってきた」




「ビッキーさんの言う通り、僕もこの男について引っかかる点があります…」


「「え?」」


ジョンの言葉に全員の視線が集中する。


「なんですか?引っかかる事って」

「先程もお伝えした通り…この男は組織を解雇され全てを失い、ほぼ無一文の状態からこの『アゲインドラゴン』という新しい組を作りました。

ケンカが出来て頭脳は優秀。
しかしさすがに何も持ち合わせていない男がたったひとりのこの組織…何故突然、こんなにも大きな権力を持てたのか不思議ではないですか?」

「あぁ…確かに…」


じっとジムの顔を真剣に見つめるジョン。


「今から言う事はあくまでも…僕の推測です」

「…………。」







「今回の件、関与しているのはこの組織だけではない気がします…」





「えっ…」









「お伝え出来るのはここまでです。では、僕は明日も仕事が入っていますので、この辺りで失礼します…」


一息ついて、彼は資料をテーブルに置いたまま立ち上がった。

「ジョンさん…!本当にありがとうございました」


ジムも立ち上がって慌てて頭を下げると、彼はうっすらと笑みを浮かべる。

固い表情が解けて、いつもの少し間の抜けた顔だ。



「また…何か新しい事がわかればご連絡します…」

「はい、よろしくお願いします!」


皆でジョンを見送ろうと席を立ち始める中、ナイジェルだけがフィリップの写真をテーブルから取り上げて

その顔をじっと見つめた。


「ナイジェル!何してんだ!お前も来い!」

「あぁ、ちょっと待ってろ」



バレルとローラの写真の上に

フィリップの写真が重ねて置かれた。


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