23
……………
今日もバレルさんから連絡はなかった。
携帯のカレンダーを見ると
もう明後日には私は日本に戻らなければならない。
帰りたくない。
こんな状態のまま帰ったって普通に生活出来るはずがない。
「…………。」
時計の針はもう夕方の4時を指していた。
「体調不良で学校にも連絡したけど…きっと心配してるだろうな」
臨時として通っていた学校にもここ数日は行っていない。
…授業したいなぁ。
子ども達の笑顔も長らく見てないし。
毎日この部屋に閉じこもっていても、何もする事がない。
悩みと恐怖で精神的ストレスが溜まりすぎて、何にもやる気が起きないのだ。
病気になりそう。
今頃、お兄ちゃん達はどこかの偉い人と難しい話でもしてるのかな。
今日は皆で他のビルへ会議に出るから、一日ひとりで留守番って言われたし。
外に出たいけれど、リッキー君の言いつけを守らなければ今は自分の身が危険。
もうあんな知らない人に追いかけ回されるような恐ろしい経験はまっぴらごめんだ。
「…はぁ」
パタリと力なくベッドに横たわる。
そしてゆっくり目を閉じた。
ピロロロロ!
頭上から振動が伝わってくる携帯電話の音。
この音はメールか。
「…………。」
長い睫毛と共に塞いでいた瞼が開いた。
ローラはその横たわった体勢のまま、携帯を手に取り…
「えっ…!?」
画面を見た瞬間、思わずベッドから飛び起きた。
From:バレルさん
件名:Re:ローラです
--------------------------------------------
俺は無事だ。
--------------------------------------------
バ…バレルさんからのメールだ!!
呼吸も忘れそうになり、感情が抑えられずに口を手で塞いだ。
よかったっ…
バレルさんっ…
無事だったんだっ…!!!
嬉しくて…嬉しすぎて何も考えられなくなった。
心臓がドクドクと鼓動し、熱い気持ちを抑えられないっ…
「バレルさん…よ…かった……」
震える手で落とさないように携帯を握り締め、メールをもっとよく見てみると、
まだ文章には続きがある。
From:バレルさん
件名:Re:ローラです
--------------------------------------------
俺は無事だ。
ふたりだけで会って話がしたい。
出てきてくれないか?
--------------------------------------------
話っ…。
もしかして、やっと全部話してくれる気になってくれたのかな。
嬉しい。とにかく早く返事を打たなきゃ!
「あっ」
ふと指が止まる。
そういえば私、この建物から出ちゃいけないんだ。
どうしよう。
To:バレルさん
件名:Re:Re:ローラです
--------------------------------------------
よかったです。
でも私、外に出ちゃダメと言われているので、電話じゃダメですか?
--------------------------------------------
これで…一応送ろう。
ピロロロロ!
あ。もう返信が来た。
あのバレルさんからこんなに返事が早く返って来る事は初めてだ。
From:バレルさん
件名:Re:Re:Re:ローラです
--------------------------------------------
電話は無理だ。今から近くまで俺が行く。
少し話をするだけで構わないから、どこにいるか教えてくれないか?
--------------------------------------------
それにバレルさんからこんなに長い文章も初めて。
やっぱりそれだけ切羽詰まってる状況なのだろうか。
でも…私も会いたい。
1分1秒でも早く会って、貴方の顔が見たい。
ローラは考える間もなく、またすぐに返事を打った。
To:バレルさん
件名:Re:Re:Re:Re:ローラです
--------------------------------------------
ウィンディラン本部1階、東側一番奥の部屋です。
待っています。
--------------------------------------------
これでよし。
やっと…やっとまたバレルさんに会える。
生きていてくれたとわかっただけで、私にとってこんなに嬉しい事はない。
神様はいるんだって…この時改めて実感した。
「よかった。本当によかった」
時計の針を何度も確認しながら、部屋の中をぐるぐる落ち着きなく歩き回る。
さっきの無気力の私がまるで嘘のよう。
バレルさん…
まだかな。
どうしようっ…顔見たらまた泣いちゃいそう。
そうしながら数十分後。
カンカン!
カーテンの向こう側。
窓が叩かれる音が聞こえた。
来たっ…!
やっと来てくれた!
ガチャン!
遮っていたカーテンを開き、すぐに窓を開ける。
「バレルさっ…」
「よぉ〜。久しぶりだなぁ、お嬢ちゃん」
「…へ…っ……」
動かなくなる足。
開く瞳孔。
思考が…完全に停止する。
窓の向こうで待っていたのは、ローラが待ち望んでいた人物ではなかった。
鮮明に蘇ってきた、あの日の記憶。
傷だらけになりながら、必死に走り回って逃げた細く暗い道。
息が切れ苦しくて、足の感覚がなくなり、何も考えられなくなった
あの瞬間。
彼女は一瞬だけ、その男の顔を見ていた。
- 705 -
*PREV NEXT#
ページ: