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……………
ガチャン!
「お嬢様!」
「…ッ!」
突然、隠し部屋の扉を開けたのは家政婦のおばさん。
その瞬間に近づいていたサラとリッキーの距離が一気に引き離される。
見てはいけない場面に遭遇してしまい、思わず彼女は赤くなった頬を両手で押さえた。
「あら!良い所を邪魔しちゃってごめんなさい!」
「おばさん!無事だったのね!」
男の体を押し退けて起き上がったサラ。
「ビックリしたわ。突然悲鳴が聞こえたから何かあったのかと思って!」
「ごめんなさい〜!ガサガサッて物音がしたから誰かいるのかと思って咄嗟に大声を上げちゃったの!オバサンは早とちりが多くて困っちゃうわぁ!」
「そうなの。でも良かった、何ともないみたいで」
「もう大丈夫よ!ロビンとやらもナイジェルさんがとっちめてくれたから☆」
「本当!?」
その言葉を聞いて、サラの顔が明るくなる。
嬉しさを抑えられなくて、思わず家政婦の元へ走り出そうと床に足をつけた。
その瞬間だった。
「サラ!ダメです!」
リッキーは腕をグッと引っ張り、彼女の体を自分の傍へ引き戻す。
「な、何するのよ、リッキー!」
「…………。」
リッキーは家政婦を睨み付ける。
普段は見せないような敵意剥き出しの表情だ。
「この人は多分…俺達の味方じゃないです」
「え?何を言ってるのよ!?」
「俺の考えている事が間違っていなければ、この人は…ロビンの母親です」
「………ッ…」
反発していた彼女の力が緩む。
「な…何言ってるのリッキー?この人はヒル家専属の家政婦さんよ?貴方だってさっき普通に…」
「それは知っています。でもこの人は貴方の見合い相手のお母さん。ロビンの共犯者です」
「……っ」
サラはふざけないでと言わんばかりに彼の掴んでいた手を振り払った。
「そんな事あるわけないじゃない!ね、おばさん!」
「え…えぇ、そうよリッキーちゃん!私は10年間ここに勤めている家政婦!この家を知り尽くして、お嬢様やおぼっちゃまのお世話をずっとしてきた…」
「そうやって10年間、この家の内情を探って機会を窺っていたんですか?」
「………。」
一時の静寂。
彼女の額から一滴の汗が滴る。
視点も微かだが定まっていない。
「ちょっ…この子は何ワケのわかんない事言ってんのよ〜!とっくにあの人の母親は帰ったって、旦那様が言ってたじゃないの!」
「あれは貴方の嘘です。貴方はロビンの母親を演じた後、すぐに家政婦の姿に戻…いや逆か。
ロビンの母親が本当の正体で、その後は家政婦を演じていたんですね」
戸惑いの表情を見せる家政婦。
リッキーと目が合わせられなくて、彼女は一瞬視線を逸らした。
「デタラメ言わないでよ!なんなのアンタ!?この家の事も見合いの事も何も知らない部外者でしょ!?どうして私があのロビンの母親だって言い切れるわけ!?」
「俺が母親が嘘をついていると思った訳は、その母親が帰った理由です」
「理由?」
「はい。彼女が帰った理由はこうでした。『学校の授業があるから』って」
「そっ…それのどこがおかしいのよ!?」
リッキーは壁に掛けてあったカレンダーを眺めながら言った。
「確かにあの母親は小学校の教師をやっていると聞きましたし、おかしい所なんて何もありません。ただ…」
「ただ…何!?」
「今日、何曜日ですか?」
「え、それは…」
彼女もカレンダーに目を向ける。
本日の日付の上に書いてある曜日は…
「日曜日で…しょ…」
彼女の語尾はすぐに小さくなった。
「そうです。今日は日曜日ですよね。たとえエリートであっても小学生は小学生です。塾はあったとしても学校はお休みのはずです」
「…………。」
リッキーは口の端をつり上げた。
「その母親、本当に教師だったんですかね?」
「……ッ」
家政婦は小さく唇を噛み締める。
「でも母親がこの場にまだいたとしても、それが私だとは限らないじゃない!まだどこかに隠れているかもしれないし!」
「貴方には他にも怪しい点がありました」
「…」
「見合い中のサラとロビンを引き離した時。貴方はサラの父親と警備員さんを呼んで来てくれましたよね?
あの時貴方はロビンが近くにいるにもかかわらず、やたら大きな声で叫びながらやって来た。
普通の人間なら相手に気づかれないように静かに連れて来ますよね?
それは息子に計画がバレた事を知らせる合図。
その声を聞いた彼は気づかれた事を知り、急いでそこから立ち去ったんです」
家政婦は黙って話を聞いている。
リッキーは言葉を続けた。
「それに今さっきの叫び声だって、トラブルがあったのに貴方は元の場所へは戻らず、真っ先にこの部屋に来ましたね。
もしかして今の声って、戦っているロビンの相手をビビらせて、その人間に隙を作る為にわざと出したんじゃないんですか?」
「…………。」
サラは固まって家政婦を見た。
その視線に明らかに動揺している。
「そ、そんな事で勝手に共犯者にされちゃたまったもんじゃないわ!私は昔からすぐに大きな声を出したり、キャーキャー叫ぶ癖があるの!
決定的な証拠もないのに、これ以上の言いがかりはやめてちょ…」
「決定的な証拠ならあります」
「………ッ…!」
目を見開く家政婦。
リッキーは、ある場面を思い出して視線を若干下に向けた。
「その時は何とも思っていませんでした。俺も記憶があやふやだったので。だけどふとそれを思い出して、貴方の言っている事がおかしいってわかったんです」
「な、何よ!?ハッキリ言いなさ…」
「家政婦さん。ロビンの特徴を言ってみてください」
「は?何よ、いきなり…」
「俺がナイジェルにロビンの特徴を伝えた時。途中から忘れてしまった俺に、貴方は助け舟を出してくれましたよね。忘れてはいないはずです」
はぁ?と首を傾げるが、リッキーは言うまで黙り続けるつもりらしい。
こんな時に、と彼女は呆れた顔でため息をついた。
「わかったわよ。言えばいいんでしょ?
えっと確か…20代で身長が180センチくらいの痩せ型。
金髪の肩くらいの髪、
紺のスーツを着ていて…
お嬢様と同じように胸にブローチを付けてる…だったかしら?」
「同じように何のブローチを…ですか?」
「花よ!花!」
「正解です」
「ほらみなさい!合ってるのに、どこがおかしいって言うのよ!?」
リッキーは当時の事をハッキリと覚えている。
「お嬢様と同じように花のブローチを付けてるんですよね」
「何度も言わせないで頂戴!何がおかしいって言うの!?」
「何故、ロビンが付けているブローチが薔薇だとわかったんですか?」
「…………へっ?」
家政婦も、そして隣にいたサラも胸に付いているブローチを見た。
透明で白く純粋な
百合の花だ。
「貴方はサラのお父さんに皆で言葉をかけてあげる中、間違いなくこう言いました。
『薔薇の飾りなんてちらつかせる優男に私達が負けるはずなんてない』と。
確かにロビンはサラと同じように花のブローチを付けていると聞きました。でもそれが誰も『薔薇』だとは聞いていません。
むしろその言葉だけを聞いたら、誰でも『百合』の花だと思うはずです」
「そっ……それは…お嬢様とロビンさんが見合いしている所を偶然見たからよ!」
「ならどうして貴方はセレブ界で評判の男だったロビンに対し『そんな男一度でいいから見てみたい』なんて言ったんですか?
あれ以降ずっと我々と共に行動してましたし、唯一接触した時だって貴方は父親と警備員を呼びに行っていたじゃないですか」
「………ッ…」
「ロビンは今日この日までブローチの存在を明かしていませんから、以前からこのブローチについて知る人物はいません。
なのに、どうして家政婦の貴方が知っていたんですか?」
「………。」
「簡単ですよね?貴方がロビンの隣に座っていた母親だったから。あの場できちんと見ていた貴方だから、そのブローチが薔薇だという事を知っていたんです」
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