27
……………
『バレルさん、はいどうぞ』
ここは…俺の家?
周りを見渡しても、いつもと変わりない。
相変わらず、面白い物も何も置いていないつまらない散らかった自分の部屋。
…何故、俺はここにいる?
『バレルさん?食べないんですか?』
「……ッ…」
隣に座ってきたあの女。
目の前のテーブルにはパスタとサラダ。
そしてコップに注がれた水が置かれていた。
腹が異常に減っていた俺は、無意識にその料理に手を伸ばし、勢いに任せて食べ始める。
みるみるうちに無くなっていく皿の上の料理。
「………。」
『おかわりですね。ちょっと待っててください』
空になった皿を差し出すと、何も言わなくてもソイツは2杯目を持ってきた。
頭の中では現実ではないとわかって、どこか違和感を感じつつも
俺はその料理を食べ続けた。
『ふふ。今日もよく食べますね』
女は手を口に当てて上品に笑う。
なんなんだ。
何故今、俺は…
こんな夢を見ている?
・
・
・
・
うっすらと目を開くと、
自分の部屋も料理もあの女も
全てが消えていた。
代わりに視界に入ったのは、見たくもない暑苦しい男の集団。
座り込んだ俺の足。
そして地面に垂れ落ちている…自分の血。
「おぅおぅ、目ぇ覚ましたぁ?ったく…殴られながら昼寝するなんて、俺達も舐められたモンだなぁ」
霞む視界で顔を上げると、お気に入りのスーツを身にまとったフィリップ・ゲイスが不気味な笑みを浮かべて立っていた。
…どこだ、ここは。
見た事もない空き地のようだ。
隣には馬鹿デカい建物。
空はいつの間にか夕方になっている。
さっきのは、やはり全て夢だったのか。
「ツッ!」
立ち上がろうとすると、全身に激痛が走って声が漏れた。
「無理するなよぉ、自分の体見てみな?血まみれだよ。大丈夫?」
彼の言葉にゲラゲラと周りの下っ端達も笑っている。
クッソ…体に力が入らねぇ。
ギロッとバレルがフィリップを睨み付けると、「なんて目で見てんだ」と肩を蹴られる。
それを合図に他の下っ端達もここぞとばかりに手や足が出始めた。
巷でケンカが強いと有名なバレル・ヒューストン。
そんな男をリンチしている優越感に浸っているのだろう。
「オイ、フィリップ」
暴行を受けている最中、何者かが彼に話しかけてきている様子が見えた。
見た事もない男達。
その姿は、ヤクザや柄の悪い男が集まるこの場では異様に見える。
男がフィリップにひそひそと話をして、聞いた彼もニヤリと楽しそうに笑った。
「テメーら、やめろ」
「…ッ」
ボスの指示で暴行を繰り返していた下っ端達の動きが止まる。
「オイ、コイツの手…抵抗出来ねーよう、しっかり抑えてろよ」
下っ端の男に背中側で腕を抑えつけられるが、今はそれでさえ振り解けない。
体力が少なく息切れしているバレルに、フィリップは近づいてしゃがみ込んだ。
「良い余興の提案が出たんだ。君の身も心も凍りつく最高の企画だ」
「…………。」
不適な笑みを浮かべる彼は、無理やりバレルのポケットに手を突っ込み、そこからある物を取り出した。
それは画面もヒビ割れてしまった携帯電話。
「何…する気だ?」
「だから言ったじゃないの〜。最高に楽しい余興だって」
フィリップは持ち主の許可も得ず、勝手にその携帯電話を操作する。
「ふぅ〜ん。心配のメールが来てるよ。君、友達いなさそうなのに結構リア充だねぇ、羨ましいなぁ」
「…………。」
メールを確認されている…?
バレルの頭にひとつの不安がよぎった。
「オイ…貴様っ…」
「ほ〜ら。出来た出来た」
To:R0_0331jr@…
件名:Re:ローラです
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俺は無事だ。
ふたりだけで会って話がしたい。
出てきてくれないか?
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「……ッ…」
見せられた自分の携帯画面。
最悪の展開にバレルの顔色が変わる。
宛先は間違いなくローラのメールアドレスだ。
コイツッ…
「やめっ…」
「動くなっつってんだろーが!」
後ろの男から無理やり首を掴まれ、抵抗が阻まれてしまう。
「ははは。これを…送信っと…。返信来るかなぁ。楽しみだなぁ」
ニヤニヤと笑う不気味な男。
ピロロロロ!
数分も経たないうち、すぐに携帯に反応があった。
「お、来た来た早いー。どれどれ…外に出ちゃダメ?何?バレル君、大切な彼女を一体どこに隠したの?」
口を閉ざしたまま、鋭い目つきで睨み付けるバレル。
「そんな怖い顔じゃ答えてくれそうにないねぇ。じゃぁ仕方ないから本人に訊いちゃうよ?
電話は無理だ。今から近くまで俺が行く。
少し話をするだけで構わないから、どこにいるか教えてくれないか?…っと!
ほら、見ろよ!すっげ恋人とのメールっぽくね!?」
下っ端の男達に見せて笑い合う趣味の悪い奴ら。
そのメールも送信すると、すぐに返事が送られてきた。
「どらどら…えっと…ウィンディラン…。あぁ…あのバイク事務所か?なにお前?あそこに友達でもいんの?
そんな所に隠されちゃ、さすがの俺達でもわかんないなぁー」
ニヤリと笑ったフィリップは、まさに人を馬鹿にする態度。
惨めなバレルの顔を見下ろしながら、彼はひとりの男の名前を呼んだ。
「エド!」
「…ッ!はい!」
集団の中から出てきたひとりのチンピラ。
緑色の髪にドクロの刺繍が施された服を着ている。
前回、街中でローラを取り逃がした張本人だ。
「ラストチャンスをくれてやる。その女をここへ連れてこい」
「…ッ!煤v
その言葉を聞いたバレルは咄嗟に大声を上げる。
「貴様ッ…!ふざけんじゃねぇ!煤v
「おぉっ怖っ!ようやく反応が良くなってきたなぁ」
「…チッ、離せテメェ!!」
取り抑えられていたバレルがようやく抵抗を始めた。
やはりこの作戦が一番効果が出るよう。
面白くなりそうだ。
「邪魔する奴がいたらソイツは殺したって構わねぇ。女だけは生きてここに連れてこい」
「…はい!」
「次こそシクるんじゃねーぞ」
「わかりました…!」
車にその男と他数人が乗り込み…
すぐに走り出した。
目的地はウィンディランのバイクレース会場。
「汚ぇぞ…貴様ら…」
煮えたぎる充血する怒りの目で、フィリップとその提案をした男を睨む。
「それじゃ、車が戻って来るまで適当にお前らいたぶってていーぞ。あ、殺さない程度にな」
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