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……………




『バレルさん、はいどうぞ』



ここは…俺の家?

周りを見渡しても、いつもと変わりない。

相変わらず、面白い物も何も置いていないつまらない散らかった自分の部屋。


…何故、俺はここにいる?



『バレルさん?食べないんですか?』

「……ッ…」


隣に座ってきたあの女。

目の前のテーブルにはパスタとサラダ。

そしてコップに注がれた水が置かれていた。


腹が異常に減っていた俺は、無意識にその料理に手を伸ばし、勢いに任せて食べ始める。

みるみるうちに無くなっていく皿の上の料理。


「………。」

『おかわりですね。ちょっと待っててください』


空になった皿を差し出すと、何も言わなくてもソイツは2杯目を持ってきた。


頭の中では現実ではないとわかって、どこか違和感を感じつつも


俺はその料理を食べ続けた。



『ふふ。今日もよく食べますね』


女は手を口に当てて上品に笑う。



なんなんだ。



何故今、俺は…





こんな夢を見ている?























うっすらと目を開くと、

自分の部屋も料理もあの女も

全てが消えていた。



代わりに視界に入ったのは、見たくもない暑苦しい男の集団。

座り込んだ俺の足。

そして地面に垂れ落ちている…自分の血。



「おぅおぅ、目ぇ覚ましたぁ?ったく…殴られながら昼寝するなんて、俺達も舐められたモンだなぁ」


霞む視界で顔を上げると、お気に入りのスーツを身にまとったフィリップ・ゲイスが不気味な笑みを浮かべて立っていた。


…どこだ、ここは。


見た事もない空き地のようだ。

隣には馬鹿デカい建物。

空はいつの間にか夕方になっている。

さっきのは、やはり全て夢だったのか。



「ツッ!」


立ち上がろうとすると、全身に激痛が走って声が漏れた。


「無理するなよぉ、自分の体見てみな?血まみれだよ。大丈夫?」


彼の言葉にゲラゲラと周りの下っ端達も笑っている。


クッソ…体に力が入らねぇ。


ギロッとバレルがフィリップを睨み付けると、「なんて目で見てんだ」と肩を蹴られる。

それを合図に他の下っ端達もここぞとばかりに手や足が出始めた。

巷でケンカが強いと有名なバレル・ヒューストン。


そんな男をリンチしている優越感に浸っているのだろう。






「オイ、フィリップ」


暴行を受けている最中、何者かが彼に話しかけてきている様子が見えた。

見た事もない男達。

その姿は、ヤクザや柄の悪い男が集まるこの場では異様に見える。

男がフィリップにひそひそと話をして、聞いた彼もニヤリと楽しそうに笑った。



「テメーら、やめろ」

「…ッ」


ボスの指示で暴行を繰り返していた下っ端達の動きが止まる。


「オイ、コイツの手…抵抗出来ねーよう、しっかり抑えてろよ」


下っ端の男に背中側で腕を抑えつけられるが、今はそれでさえ振り解けない。

体力が少なく息切れしているバレルに、フィリップは近づいてしゃがみ込んだ。



「良い余興の提案が出たんだ。君の身も心も凍りつく最高の企画だ」

「…………。」


不適な笑みを浮かべる彼は、無理やりバレルのポケットに手を突っ込み、そこからある物を取り出した。


それは画面もヒビ割れてしまった携帯電話。


「何…する気だ?」

「だから言ったじゃないの〜。最高に楽しい余興だって」


フィリップは持ち主の許可も得ず、勝手にその携帯電話を操作する。


「ふぅ〜ん。心配のメールが来てるよ。君、友達いなさそうなのに結構リア充だねぇ、羨ましいなぁ」

「…………。」



メールを確認されている…?

バレルの頭にひとつの不安がよぎった。


「オイ…貴様っ…」

「ほ〜ら。出来た出来た」



To:R0_0331jr@…
件名:Re:ローラです
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俺は無事だ。

ふたりだけで会って話がしたい。
出てきてくれないか?
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「……ッ…」


見せられた自分の携帯画面。

最悪の展開にバレルの顔色が変わる。

宛先は間違いなくローラのメールアドレスだ。



コイツッ…




「やめっ…」

「動くなっつってんだろーが!」


後ろの男から無理やり首を掴まれ、抵抗が阻まれてしまう。


「ははは。これを…送信っと…。返信来るかなぁ。楽しみだなぁ」


ニヤニヤと笑う不気味な男。







ピロロロロ!


数分も経たないうち、すぐに携帯に反応があった。


「お、来た来た早いー。どれどれ…外に出ちゃダメ?何?バレル君、大切な彼女を一体どこに隠したの?」


口を閉ざしたまま、鋭い目つきで睨み付けるバレル。


「そんな怖い顔じゃ答えてくれそうにないねぇ。じゃぁ仕方ないから本人に訊いちゃうよ?

電話は無理だ。今から近くまで俺が行く。
少し話をするだけで構わないから、どこにいるか教えてくれないか?…っと!

ほら、見ろよ!すっげ恋人とのメールっぽくね!?」



下っ端の男達に見せて笑い合う趣味の悪い奴ら。

そのメールも送信すると、すぐに返事が送られてきた。


「どらどら…えっと…ウィンディラン…。あぁ…あのバイク事務所か?なにお前?あそこに友達でもいんの?
そんな所に隠されちゃ、さすがの俺達でもわかんないなぁー」


ニヤリと笑ったフィリップは、まさに人を馬鹿にする態度。


惨めなバレルの顔を見下ろしながら、彼はひとりの男の名前を呼んだ。



「エド!」

「…ッ!はい!」


集団の中から出てきたひとりのチンピラ。

緑色の髪にドクロの刺繍が施された服を着ている。

前回、街中でローラを取り逃がした張本人だ。


「ラストチャンスをくれてやる。その女をここへ連れてこい」

「…ッ!煤v


その言葉を聞いたバレルは咄嗟に大声を上げる。


「貴様ッ…!ふざけんじゃねぇ!煤v

「おぉっ怖っ!ようやく反応が良くなってきたなぁ」

「…チッ、離せテメェ!!」


取り抑えられていたバレルがようやく抵抗を始めた。

やはりこの作戦が一番効果が出るよう。

面白くなりそうだ。


「邪魔する奴がいたらソイツは殺したって構わねぇ。女だけは生きてここに連れてこい」

「…はい!」

「次こそシクるんじゃねーぞ」

「わかりました…!」


車にその男と他数人が乗り込み…

すぐに走り出した。



目的地はウィンディランのバイクレース会場。






「汚ぇぞ…貴様ら…」


煮えたぎる充血する怒りの目で、フィリップとその提案をした男を睨む。


「それじゃ、車が戻って来るまで適当にお前らいたぶってていーぞ。あ、殺さない程度にな」


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