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……………
「フググッ!!ンッ!」
バレルからメールが来たその後。
ローラが隙を見せて窓を開けた瞬間
あの男が再び現れた。
今回は逃げ場もなく、すぐに口を塞がれ腕を無理やり引っ張られ。
強引に窓から外に引きずり出されてしまった。
「ヤァッ!何するんですか!!」
その場で2〜3人の男達に強く手足をロープで縛られ、強引に黒い車の後部座席に押し込まれる。
「やめっ!おろしっ…ンンッ!」
最後に口をガムテープで塞がれた。
「うるせんだよ、お嬢ちゃん。静かにしろ」
「……ッ…」
「大丈夫。心配しなくてもちゃーんとバレル君に会わせてあげるから」
怪しく笑う男の人は歯が欠け、顔に多く傷がついているが
間違いなく街中で私を追いかけ回してきた人。
手足をキツく縛られた状態。
しかも相手は何人もの男達で抵抗出来るはずもなく、ローラを乗せた車は一直線に走り続ける。
……………
「グッ!……ガフッ!」
視界が霞んでしまう程の暴行を受け続ける。
普段なら決して負けるはずのない雑魚共に。
高みの見物といった所か、フィリップは殴られているバレルを見下ろしながら優雅にタバコを吸っていた。
ガッ!ガッ!!
「フグッ!」
強く蹴り飛ばされて転がるバレル。
「あんまり強くやりすぎるなよ〜。死んじまったら元も子もねーからな」
ゲラゲラと周りから笑い声が聞こえる。
口内に血の味を感じながら、力なく倒れ込んで息をするので精一杯の状態。
死は常日頃から覚悟していた。
自分だけならいつ死んだって構わないと思っている。
だが、今は…
今だけはまだ死ぬわけにはいかねぇのに。
あと…もう少しだけ。
ブオオオオッ…
そこに1台の車がやってきた。
それはついさっきここを出て行った黒い車。
車は近くまで接近し、ゆっくりと停止した。
「ほう…。来た来た」
いつもと同じような空の景色。
「降ろせ」と男は指示を出し、他の団員が車のドアを開けた。
「………ッ…」
自分の目を疑うローラ。
見覚えのある大きな建物。
そこには綺麗な夕焼け空には似合わない、まるで地獄絵図のような光景が広がっていた。
何十人もの不良の人達。
その集団の中にひとりだけ、バレルさんが血だらけになって倒れている。
夢で見た光景と同じ…
あの夢の中でも、最後に車が来ていた。
あの車に乗っていたのは…私自身だったんだ。
だから声も出せず、体も動かなかったんだ。
よくよく考えれば私をウィンディランに隠すようお願いしたバレルさんが、私に居場所を訊いたりするはずなんてない。
なんで…もっと早くに気がつかなかったの?
「んッ…んんぅ!」
「おら、ちゃんと自分の足で歩きな」
足のロープは解かれるものの、その場で車から乱暴に引きずり出されるローラの姿。
その光景を見た瞬間、バレルの表情が一瞬にして凍りついた。
「オイッ!やめろ、テメーら!!煤v
体を抑えつけられたまま大声で叫ぶ。
しかしその声も虚しく、下っ端の男により彼女の体はフィリップの手に渡されてしまう。
「んー…久しぶりだな、お嬢さん。相変わらず良い香りだ」
「ンンゥッ!煤v
顔を近づけられ、首筋の香りを嗅がれて嫌がる彼女。
「フフフッ」
抵抗する力をものともせず、その首に強引に腕を回す。
そしてこちらを見上げているバレルの顔を蔑んだ目で見下ろした。
「バレル。お前の一番大切なモンは…この子だろ?
君みたいな冷血で非情な男が、まさかこんな女の子に鼻の下を伸ばすなんて。俺はガッカリだよ〜」
「ッ…ガッ!」
再び後ろから蹴られ、殴られ始める。
「ほら、反撃してきなよ〜。ダラダラしてたら…」
「…ンッ!」
彼女の首元に突きつけられたのは、
銀色に輝く鋭いナイフ。
「…ッ!煤v
それがバレルの目に入った途端、どこにそんな力が余っているのか、無理やり立ち上がり
「クッソ!退け、邪魔だ!!」
自分を抑えつけていた男を蹴り飛ばし、こちらへ走る。
「触んなっ!クソがっ!煤v
襲いかかってきた男を払い退けて地面に叩きつけて前に進むが…
「ナメてんじゃねーぞ!」
「ダラァァッ!」
「グッ!退けっつってんだろーが!煤v
敵の数があまりに多すぎる。
彼の行く手はたくさんの男達によって阻まれ
「囲め囲め!!」
「ガッ!…グッ!煤v
勢い虚しく、フィリップの元に辿り着く事なく途中で倒れてしまう。
「ンンゥーッ!」
「クッソ…グフッ!煤v
汚い足に踏みつけられ、ローラの言葉にならない声が聞こえる。
反撃したくても、バレルにはもう体力が残っていないのか。
もはや立ち上がる事さえ出来ない。
ガッ!
ガッ!
ガッ!
何度も何度も蹴られ、激しく踏みつけられる。
「ンゥゥ!煤v
口をガムテープで塞がれ、叫び声にもならない。
ローラの目に涙が溜まり、必死に喉から声を漏らす。
そんな彼女の姿を見てゲラゲラとフィリップは笑った。
「ハハハハ!ほらぁ、もっと泣き叫べよ!コイツにもっと泣き顔を見せてやれ!」
「ゴホッゴホッ!やめろ!…グホッ…離せっ!煤v
吐血しながらも声を絞り出す憎き男。
惨めな姿を見下ろす優越感に浸り、最高の気分だ。
「ハハハ。仕方ないねぇ。せっかく正々堂々復讐しようと思ってたのに、立ち上がって戦う事も出来ないなんてつまらない男だ。
それじゃ、君には最も辛い地獄を見てもらおうかなぁ」
フィリップはますます近く、ローラの首にナイフを突きつける。
「その女は関係ねぇだろーが!貴様らの狙いが俺なら俺だけを殺せ!煤v
「お前はもう、他人を信用しないんじゃなかったのか?」
「………ッ…」
ふと蘇る2年前の記憶。
人も多い街の中心部。
視線が気に入らないとケンカを売ったのは向こうが先で、血の気が多かった俺がそれを買った。
しかし、組の幹部だかなんだか知らないが所詮雑魚は雑魚。
どれだけ血の滲む思いで鍛えてきたと思ってる?
力の差は歴然だった。
大勢の野次馬が見ている中で、立ち上がる事も出来ない程ぶちのめし
最後にコイツの顔を地面に叩きつけた後…
俺は言った。
*****
「俺はもう…他人は信じねぇ。
大切なモンも…くだらない友情も…何もかも捨てた。
んなもん持ってたって…無駄なだけだ。
だから俺は貴様みてぇな生半可なクズには絶対ぇ負けねぇ。
いつまでも弱い者同士でくっついてケンカごっこをしてろ、雑魚が」
*****
震える呼吸。
バレルは倒れたまま、地面に生えている雑草を引きちぎって握り締める。
「君を殺しちゃったら、それまでじゃん。
地獄の苦しみも辛さも、死んじゃったら何も感じられない。
俺はなぁ…この2年間。お前への復讐のためだけに生きてきたんだ。
組織の恥曝しとして居場所を奪われ、周りからも惨めだと見捨てられ…
俺はテメェのせいで人生を潰された。
生きながらも地獄を見せられたからな。
そのせめてものお返しだ。
同じように地獄を味わってもらわなきゃ俺の気が済まねぇんだよ」
「ッ……」
「俺にはわかるよ――
お前に最も傷を負わせ、苦しみ、人生のどん底に突き落とす方法がな…――」
ローラの首筋に刃先が当たり、赤い血がうっすら滲み出る。
「やめろ!!!!!
やめろっつってんだろーが!!!煤v
「もう遅いんだよ!!!
泣き喚いて、自分のしてきた事を全て後悔しろ!!」
フィリップは興奮した表情で怒鳴り散らし、そしてついにナイフを振り上げた。
最後のその瞬間、彼女の目に一筋の涙が。
バレルさん…
さよなら
「ヤメロォォォ―――――――ッ!!!!!!!」
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