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ズドォォォォォォンッ!!!





















「………ッ…」















うつ伏せになったままのバレルは、言葉を完全に失う。



その視線が向かったのは、地面に落ちたナイフだ。







そして零れ、大量に跳ね返る鮮血な赤い血の塊。







しかしそれは

















「グァアッ!煤v





思わず手の甲を抑えるが、隙間からまるで噴水のように…

その血はフィリップの手から溢れ出た血だった。







銃撃っ…!?




咄嗟にフィリップの手下達もバレルも、その方向へ視線を向けると…


















「物騒なモン、女に近づけてんじゃねーよ」






硝煙の上がる銃を構えた男。


その口には一本のタバコが咥えられていた。





「キサッ…」




「ナイジェル!格好付けてる場合じゃないですよ!!」


「グァッ!煤v


立て続けにバレルを取り抑えていた男が、強い衝撃で弾き飛ばされる。


「リッ…!」




バレルは何だかわからずに振り返る。



銃を構えたナイジェル。


後ろには竹刀を握ったリッキーが飛び込んできていたのだ。


「クッソ……誰だ、テメッ」




ズドンッ!

ズドンッ!

ズドンッ!


「ヌァッ!」



その男から足元に銃弾を撃ち込まれ

フィリップとその周囲にいた人間が怯んだ瞬間…



ザッ!!


スルリと、その一瞬で何者かの手によってローラの体が奪われる。


サラとビッキーだ。



「…ッ!小賢しい真似をっ!」


撃ち込まれた銃弾が次は足をかすり、追いかける間もなく逃げられてしまう。





「バレル、掴まって!」

「ッ…」

リッキーは傷だらけの彼の腕を首に回し、支えながら走り出した。



「クソッ!お前ら何ボーッとしてんだ!早く追え!!」


ズドンッ!


「ヒッ!」












「チッ…こんな人数に何をビビってんだ、テメーら!!」


荒々しく叫んだのは、フィリップにローラを目の前で殺す提案を出した「あの男」だ。

フィリップが銃撃に遭い、味方達が取り乱してしまった中、

男はすぐさま代わりに指揮を取り始める。



「全員で抑えつけろ!!

騒ぎがデカくなる前に全員…


……ッ!!?」






空気が…いつもと違う?



汚らしい不良だけの気配ではない。



違う人間共の匂い。




気がついた時には、もう既に。




自分達の仲間ではない奴らが、いつの間にか周りに増えていたのだ。
















「やぁ。こんな所で会うなんて偶然だねぇ。



ドロップスの皆」



「ッ…!!!煤v



そしてその中をかき分けて、見覚えのある男が姿を現した。


ライトグリーンの髪をなびかせ、ニヤリと笑う





この世で最も嫌いな男。
















「美空…」






カインの低い声。



美空の隣に雨宮と日晴。

そして雪之原も立っていた。






「アナタ方がまさかこのような事件の黒幕だったとは。正直、驚きました」


眼鏡を親指で上げる雨宮はカイン、ベル、そして不良達に指示を出していたアレックスの顔をそれぞれ見つめる。



「クッ。いつから俺達が絡んでると気づいた!?」

「気づいたのは僕達じゃないよ。君達に一度だけ接近した女の子が気づいたんだ」

「女の子だ…………ッ…!」







アレックスは過去のある出来事を思い出して言葉を詰まらせた。




いる。


この場所にひとり、




自分と一度だけ急接近したその子が。














美空「ビッキーちゃんだよ」










あれはウィンディランとweather lifeが初めてテレビ共演を果たしたあの日。


廊下でたまたま我々は鉢合わせた。






今思うと…


あれは神様のイタズラだったのかもしれない。




雨宮「あの抱き合っていた一瞬。彼女は偶然見ていたんです。

貴方の二の腕の裏側にある刺青に」




「……ッ…」




アレックスの二の腕の裏。


たくさんの刺青があって一見気がつきにくいが、

確かにその紋章はハッキリと刻まれていた。




フィリップの首筋にもある全く同じデザインの、赤い龍の刺青。






「その入れ墨は『アゲインドラゴン』という、そこの裏組織のシンボルマークでしょう。

恐らくカインさんとベルさんにも服で隠れているでしょうが、体のどこかに同じ刺青が彫られているはず。

それが貴方達が裏社会と繋がっている…真の黒幕だと証明する決定的な証拠になります」


「チッ」

「…ッ」


アレックスは派手に舌打ちをして、ベルは眉間にシワを寄せる。




「君達はさぁ。自分達がトップである事に執着しすぎてたんだよぉ。

だからヤクザとなんか手を組んだりしたんでしょぉ〜?」




雪之原のマイペースな口調にも普段と違い棘があるよう。

男3人はじっとweather lifeを睨み付ける。


「売れる曲を作るにも自分達では限度がある。

曲作りも行き詰まり、アンタ達は有能な曲を作れる人間が自分達以外の歌手に楽曲を提供する事が許せなくなったんす。

しかしさすがに人気があると言っても、全ての有能な音楽関係者が自分達のみに協力してくれるなんてほぼ不可能に近い。

そんな中、アンタ達はあの『フィリップ』とかいう男に出会ったんすね」




「「………ッ…」」



日晴の言葉にカインの眉がピクッと動く。


「そこのヤクザのお兄さんの目的は、とにかく資金を集めて自分の組織を大きくする事。
そのためなら自分の手をどれだけ汚しても構わない。

ドロップスは売れ続けるために有能な音楽関係者を全て自分達だけに協力させる事。
そのためならいくら金を出そうが、自分達の代わりになれば誰が悪になろうと構わない。


『ハイマリンコンツェルン』と『アゲインドラゴン』…両者の目的は理にかない、お互い手を組んだんだねぇ。

多額の資金を提供する代わりに、あの男達が指示された人間を誘拐してくる。
その人間が作った歌で儲け、またそのお金で新たな誘拐を依頼。

そんな負のループを延々と繰り返してたって訳だぁ」


「うっせーな!!俺達よりも売れてねぇアマチュア音楽の分際で!煤v


言葉を並べる雪之原に向かって、ついに怒鳴り散らすアレックス。

それを沈めるようにベルが彼の腕を掴んだ。



「落ち着きなさい、アレックス。
そこまで知られてしまったのなら、仕方がありませんよ…」



チラッと隣のカインの顔を見る。

アイドルとはかけ離れた恐ろしい形相。

あの爽やかで可愛いキャラクターを売りにしている彼の面影は既になく…

瞳は、あの男ただひとりの顔しか見ていなかった。







「美空……七音…」


「…………。」



じっとその男を睨み付ける。


「ちょっと、何その顔。君、甘いマスクが売りのアイドルなんじゃないの?そんな顔見たらファンの女の子達がドン引きするよ?」


「ウルセェ…」




この顔はテレビの前で見せる表情とはまるで別人だ。

トップアイドルと呼ばれた男の真の姿。


血走った目を見つめ、美空は口を開く。



「カイン。君に言いたい事がある」

「………。」


「君は他人から曲を提供してもらわないと歌えない。
金になる、注目される事しか考えていない、所詮その程度の歌手だ。

だけど僕達は違う」



「………ッ…」




「僕達は5人…いや6人でイチから曲の全てを作り上げる。

そしてそもそも、歌っている目的が違う。

僕も一時期は君のような感情で人前に立ち、歌っていた時期があったよ。

売上を伸ばしたい、人気を上げたい…って。

だけど君達のおかげで、そうじゃなかった事を思い出させてもらったんだ」





彼らの挑発で敵意を剥き出しにしたり、頭を下げて屈辱を味わった…あの時とは違う。

美空の顔は全て吹っ切れたような、清々しい表情だ。





「僕達は力を合わせ、自分達だけの力でここまで登り詰めてきたんだ。

僕達の歌は、お前達のような悪意で薄汚れた歌じゃない。


だからカイン。


お前は…一生僕には勝てない」





「…ッ!!!!!!煤v



カインの目が更に血走り、ついに大声を上げた。


「テメーぁぁぁあ!!!
コイツらを殺せ!ひとり残らずだ!!!」


もはやあのアイドル芸能人としての「カイン・コースター」の面影はない。

しかしそんな彼にも怯む事なく、美空は馬鹿にするように生意気な笑い顔を見せた。



「ちょっとちょっとぉ。weather lifeの力を見くびってもらっちゃ困るよー」









ザザザッ!!!!!





手を振り上げる彼の指示で、あらゆる場所から現れる人の大群。

恐らくこちらの人数より何倍も多い。


weather life関係者、ほぼ全ての数だ。














美空「ここにいる奴ら…ひとり残らずとっ捕まえろ!!!」




ダァァァァア―――――ッ!!!


ワァァアッ!!!!



大量の人が襲いかかり、現場はますます騒然となった。


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