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……………
「チッ!なんなんだ、こりゃ!」
圧倒的な相手側の人数に、その場の形成はあっという間に逆転。
手下達は次々と取り抑えられ、状況は更に悪化していく。
チックショ…!
「スティガー!」
「ガッ!」
近くにいた手下のひとりを捕まえるフィリップ。
「車を回せ!奴らに気づかれる前に!今すぐだ!」
「…ッ!しかしウチの組の奴らは!?」
「放っておけ!早くしろ!!」
どうやら手下達もドロップスも見捨てて逃げる気らしい。
すぐさまスティガーという男を運転席に放り込み、自分は負傷した手を抑えながら後部座席に座る。
「走れ!早く!こんな場所、もう1秒だっていられるか!」
「う…ウッス!」
言われた通り、エンジンをかけて猛スピードで走りだす車。
「…ッ!ナイジェル!あれを見てください!」
「あ?」
リッキーが指差した先には走り出す黒い車が。
そういえば、あのフィリップという男も見当たらない。
「あのヤロッ…仲間を置いて逃げるつもりか!?」
パンッ!
「グァッ!」
「ナッ!!」
車に乗っていたフィリップ達に衝撃が襲い、体が座席や窓にぶつかる。
今の大きな音も銃撃だ。
「イッテェ!なんなんだ!一体!」
「パンクです!右前輪のタイヤがパンクしてます!」
「馬鹿な!あのスピードで走っていたのにか!?
さっきの銃を使ってた男も、今は注意も向こうに向いていたは……ッ…」
銃口から立ち上る煙。
あの男の他にもうひとり。
銃を構えている男がいた。
彼はフゥッと息でその煙を吹く。
「全く…私の敷地内でそんなに暴れられたら困るよ★」
「キャァー!格好良いーッ!!!」
ナイジェル「ロビンッ…!?お前…なんでこんな所に!」
紺色のスーツを着こなしたロビン・ジャックマン。
そしてその母親が駆けつけてきたのだ。
握っていた銃を片手で軽くくるりと回し、白い歯を見せる。
「我々の戦闘隊長に危険が迫っている事を風に聞いてね。すぐに駆けつけたのさ★」
「テメェは…いつもどっから匂いを嗅ぎつけて……あっ!」
ふたりが目を離しているうちに、フィリップは車を降りて手下が乗っていたバイクに跨っていた。
懲りずに再びひとりで逃走しようとしているようだ。
「チッ…あのヤロッ!」
「全く、油断も隙もあったもんじゃないね★」
ロビンが彼に再び銃口を向けた途端…
ブオオッ!!
目にも止まらぬ早いスピードで、自分の真横を何者かが通り過ぎる。
「……ッ!?」
揺れる金色の髪に視界を遮られながら、しっかりとロビンにはその人物が何者なのかが見えていた。
「なるほど。最後は自分で方を付けるってわけだ…」
青のヘルメット。
オレンジ色のバイク。
ライダースーツではないものの、使い慣れたバイクに跨って猛スピードで走る後ろ姿。
ジム・リバースだ。
「…ッ!チックショ!次から次へと雑魚がぁぁッ!!」
ブオオオオオッ!!!
ハイマリンコンツェルンの敷地を飛び出して逃走を謀るフィリップを、後ろからジムが追いかける。
ピッ!
『…はい。ジョンです』
「僕だ!例の作戦を実行してくれたまえ!」
『了解しました』
フィリップが逃げ出した事を確認し、ボビーとジョンが携帯で連絡を取り合う。
電話を受けた彼がいるのは、大企業「ヒルカンパニー」の本社。
そこで管理している設備や建物の場所が映し出されている映像ルームだ。
彼はスイッチをオンにして、マイクで呼びかけた。
『実行開始です。ゲートを全て封鎖してください』
ガガガガガッ…!
ジョンの指示で街の橋やゲートが全て塞がれ通行禁止に。
これでフィリップをはじめ、この場所にいる人全員がこの街から出られない。
「さぁて!スーパーヒーローの僕は住民の安全を最優先するぞぉっ!!!
トゥースッ!!」
ジョンが作戦を実行した後、(何故か)空へ飛び立ったボビーはメガホンを持って近隣住民へ危険通告を大声で促す。
「クソガァァァアア!!煤v
建物に人が避難してしまい、誰もいなくなった公道をフィリップはバイクで疾走する。
もうこうなった今は、自分だけが逃げる事しか考えていない。
無我夢中でバイクのアクセルを最大にし、必死に逃げ道を探し回る。
後ろを振り返るが、もう先程のバイクの男も追って来ていない。
どうやら撒いたようだ。
自然と口元から笑みが零れた。
当たり前だ、何キロのスピードで走っていると思っている!?
ふつーのバイク乗りがこんな速度で走りゃ、すぐに転んで怪我するに……
「……………ッ…」
顔を前に戻そうとした瞬間、ようやく男は気がついた。
「ギャァッ!!!」
なんと青いヘルメットの男は、自分の真隣を走っていたのだ。
しかも全く気配なく。
一瞬にして。
ガシャァァァンッ!!
驚いてフィリップはその場で激しく転倒。
放り出された体はガードレールに激突した。
「グググッ…ツッ!」
「あらら、大丈夫かい?俺、存在薄いのが売りだから。隣まで来てやっと気づいてくれたんだ?」
舞い上がる土煙。
フィリップは血だらけの状態で必死に起き上がろうとするが、なかなか立ち上がる事が出来ないようだ。
その様子を確認し、男は停止してバイクを降りた。
「無理はしない方がいい。そのスピードで転倒すれば、骨が何本か折れててもおかしくない」
「チッ…なんなんだ、お前!?なんでこの速さで付いて来られた!?」
「ウィンディラン」
「………ッ…!?」
―ウィンディラン…
―あぁ…あのバイク事務所か?…
なにお前?あそこに友達でもいんの?…―
ヘルメットを外す、その男の顔は…
紛れもない、あのプロバイク集団のリーダーの顔。
「お前はバレルよりも技術がない。スピードだけに身を任せて走っているバイク初心者と同然だ。
そんな奴とのレースに、俺が負けるわけがないだろう?」
「………ッ…」
小さいが聞こえてくるサイレンの音。
サツか…。
終わったな…
全てが今ここで終わった。
「クッソ…」
垂れ落ちる血に視界が霞んでくる。
フィリップは力尽きたのか、呆気なくぐったりと倒れ込んでしまった。
今はロマンチックにも見えない夕陽に照らされながら。
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