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……………
ここは街中のとあるカラオケボックス。
本日は日曜日という事もあり、昼間にもかかわらず大勢の客が部屋を埋めていた。
そしてこの501という数字が振られた扉。
この扉の向こうには、特に盛り上がっている男女の常連グループが集まっていた。
「クリーニングに出せば良かった!!オゥイエス★」
見た目の派手なギャルが女性とは思えない程股を開き、大声で熱唱している。
他にも露出が激しく化粧の濃いセクシーな女性達が集まるこの部屋。
この夢のような空間にひとりだけ男が混ざっていた。
「イェ――――ッ!!どぉ?七音!リザ超練習してきたんだよ?」
「………。」
「七音〜?ねぇ、聞いてんの!?」
「えっ…あぁ、ごめんごめん。良かったよ」
weather lifeの美空七音。
元々女遊びが激しく、昔から色んな女性達を囲んではこのカラオケボックスに遊びに来る常連の客だった。
マイクをテーブルに置いたギャルは、クネクネと歩いて美空とまた別の女性の間に割り込んで座る。
「ねぇ、七音ー?なんか今日テンション低くない?」
「え?そんな事ないよ?」
「そんな事あるし〜!だってリザが歌ってる時、全然こっち見てくれなかったじゃーん!」
「瞳を閉じて君を描いてたんだよ(笑)」
「もぉなにそれ!それだけじゃダメだし!歌声が可愛いのもわかるけど、歌ってる可愛いリザを含めて見てくれないと意味ないんだからね!」
「そうだね。次はそうするよ」
やたらベッタリとくっ付いてくる女性にも美空は反応を示さない。
これでもか、とギャルは彼の腕を掴んで大きめの自分の胸にわざと押し当てる。
「ねぇ〜…七音〜」
「何?」
「わかんないのぉ?」
「…………。」
囁く色っぽい声だが。
「また、機会があればね」
「んもうっ!またそれぇ?ホンット、七音って女が好きなのか嫌いなのかよくわかんないよね!」
その言葉に美空は意味深に笑みを浮かべた。
「いつもリザの事可愛い可愛いって言ってくれるくせに、一回も手出してこないし!」
「それ自分で言っちゃうんだ(笑)もちろんリザちゃんはセクシーだし凄く可愛いよ」
「じゃ!今からふたりで…」
「ちょっと僕トイレ行きたくなっちゃった。席外すね〜」
スルリと彼女の腕を抜けて立ち上がる。
そのままふらりと個室を出てしまった。
「あっ!ちょ…早く帰って来てよ〜!」
つまんない。
自分でもビックリする程、面白くない。
部屋を出て廊下の壁にもたれる美空の頭の中に、そんな言葉が浮かんでいた。
昔は確かに楽しかった。
街でナンパした好みの女の子達と遊ぶ事。
こうやってカラオケに行ったりゲーセンに行ったり、たむろして喋ったり…
それはもう時間を忘れる程楽しかった。
なのに何故だろう。
今は彼女達の存在を、下品とさえ感じてしまう自分がいる。
見てくれと言わんばかりに露出した服。
甘えてねっとりとした癇に障るあざとい声。
自分を見て欲しい、可愛いと言わなければ機嫌を悪くする性格。
今まで魅力的だと感じていた女性達が、こんなにもうざったく、そして面倒だと感じる。
僕は今まで、寂しさや暇な時間を埋めたいがために彼女達と遊んできた。
特別な恋愛感情があったわけじゃない。
だから僕は適当に遊んで、適当に無駄な時間を過ごして。
それで楽しい、自分は充実していると思い込んでいた。
じゃぁ…
何故今はこんなにも嫌だと感じる?
ポケットから取り出した携帯を開き、ゆっくりとアドレス帳のボタンを押す。
無意識にその名前で操作を止めた。
『エマちゃん』
その表示。
彼女達と遊んでいる中、何度も頭に思い浮かんでいたその子の名前。
この部屋の中の女性達とは全く正反対。
内気で自分を飾らず目立たない、全くタイプじゃない地味な子だ。
昔の僕だったら顔も覚えられないような女の子だったのに
「…………。」
ただ指に任せて文字を打つ。
To:エマちゃん
件名:無題
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エマちゃん、今何してるの?
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ブーッ!
メールを送るとすぐに返事が送られてきた。
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家でゆっくりしてるよ
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じゃさ、僕とカラオケ行かない?
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おかしいな。
なにこの返信。
カラオケなら今来てるじゃん。
自分で自分の考えがよくわからなくなる。
ブーッ!
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いいよ。どこに行けばいい?
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「…………。」
エマちゃんからの返信。
僕はすぐにそれに返信を打って…
ついでにこの部屋の中にいる女の子にもメールを打った。
To:リザちゃん
件名:ごめん!
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ごめん。仕事の用が入ったから急遽抜けるね。
皆に伝えといてm(_ _)m
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