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「う〜っ!怖いね!」

「…ッ?」


家政婦が後ろを振り返ると、隠し扉の隙間からボビーのキラキラした大きな瞳がこちらを覗いていた。


「うわっ!」


ガシャン!!


彼は勢いよく扉を全開にする。

よく見ると、ジムやビッキー、サラの家族に警備員。

今までの連中が揃っている。


「「………。」」


しかしボビー以外の人間ほとんどは、先程のリッキーの姿を見て完全に言葉を失っているようだ。


「……えっ?」


何事かとボーッとして、ふと我に返った彼は、急に恥ずかしくなったのか、慌ててサラの傍から離れた。


「あぁ!…えっと…その、違います!お…俺…実は先祖がアントニオ猪木でして…」

「アントニオ猪木は生きてるだろーが」


人ごみをかき分け、ナイジェルが扉から部屋の中へと入ってきた。

頬に傷が付いているが、彼はいつもと同じようにだるそうな笑みを浮かべる。



「………ッ…」


顔を見た途端にサラは、自分の唾を飲み込む音がはっきりと聞こえた。

彼は段差を降り、家政婦の腕を掴んで覚束無い足を立たせる。


「まさかお前が黒幕だったとはな」

「あらナイジェルさん、気づかなかったの?全く…女を見る目がないわねぇ」

「……。」

「でもそういうダメな所もタ・イ・プ★」

「安心しろ。俺は金にがめつい女はタイプじゃねぇ」


家政婦は反省しているのかしていないのか。

そのままロビンと共に数人の警備員に身柄を確保された。








「サラ、リッキー。大丈夫か?」

家政婦を警備員に引き渡した後、彼はふたりの元へ歩み寄ってきた。


「ナイジェルッ!」

「うわっ!」

サラはベッドから飛び降り、後ろに倒れてしまいそうな程の強い勢いでナイジェルに抱きついた。


「馬鹿!アンタね、私がどんだけ心配したと思ってんの!?」

「ちょっ、何怒ってんだ?お前がそんなんだとなんか逆に怖いな」


言葉も耳には入らず、彼女の目には止まっていた涙が再び溢れ出していた。


「怖かった…ナイジェルが…死ぬんじゃないかと思って」

「ふざけんな。生きて帰ってくるって約束しただろ?」

「そんな事わかんないでしょ!もう、この馬鹿!死になさい!」

「なんだお前…。死ねって言ったり死ぬなって言ったり……!?」


彼女は彼の胸に頭を埋める。

普段はクールで大人びた彼女が、まるで子どものように。

その姿に手を回す事を忘れる程、呆然と立ち尽くしてしまった。


「ナイジェルッ…良かった…本当に…」

「………ッ…」


リッキー「ナイジェル―――!!!!いぎででよがったです…!!うあああああああ!!!!!」

「うわっ!汚ね!鼻水拭け、馬鹿!」


若者ふたりがナイジェルに抱きついている姿を見て、ジムはコクリと頷いた。


「青春だねぇ」

「何、下世話なオッサンみたいな事言ってんのよ」


後ろでビッキーがクスリと笑う。

この喜びの泣き叫ぶ声は、どうやら大広間に戻っても一時続いたらしい。


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