……………

優しいな、ふたりとも。

お互い芸能活動と勉学の両立で凄く忙しいはずなのに、私なんかのためにこうやって家まで送ってくれるなんて。


昔はいつも帰り道はひとりだった。

彼らに出会うまでは横を歩いてくれる友達さえいなかったんだ。

こうやって一緒に帰ってくれる存在がいるだけで、こんなにも心が温かくなる。

きっともう…ひとりで帰るとなると、私は寂しくてたまらないんだろうな。

まさか、こんな風に思える日がくるなんて。

嬉…



「っ…?」


瞳を上げてふたりの顔を見上げると、ふと違和感を感じた。



「……………。」

「……………。」



ふたりとも前を向いたまま口を閉じている。

ご飯を食べていたさっきまで普通に話していたのに、今は目も合わせずに言葉も交わしていないみたい。

雨宮君が無口なのは特に何も思わないけれど、黙っている七音君はちょっとおかしい。

どうしたのかな?


「…?何、エマちゃん?」


私の視線に気がついて、ようやく彼は口を開いて何か話しかけてきた。


「っ…七音…くん…全ぜ…ん…喋らないから…どうか…しちゃったのかと…思った…」


その言葉に目を丸くして、ようやく彼は笑ってくれた。

そしてポケットから自分の携帯電話を取り出す。


『あそう?びっくりしちゃった?じゃぁ僕と仲良く手でも繋ごっか?』

「…えっ///?」


その文字を見せられた瞬間、突然反対側にグイッと強い力で腕を引っ張られた。


「っ…!」

「代われ。コイツの隣は危険だ」


強制的に位置を変えられ、私と七音君の間に雨宮君が入ってくる。


「ちょ!なんでこの組み合わせでミヤ君が真ん中なのさ!僕が可哀想じゃん!」

「お前は何をしでかすかわからんからな」

「僕は今、完全に人の手の温もりを求めるモードに入ってたのに!」

「そんなに繋ぎたいなら僕が繋いでやる」

「キッショ!マジで言ってんの、それ!?」



なんだか言い合いを始めちゃったけど、いつもの七音君と雨宮君に戻ったみたいで良かった。

なんて言ってるのかな?

でもとにかく今は…この瞬間が一番心地良い。



電車に乗っても並び順はそのまま。

降りた後に夜道を歩き続け、ようやく目的地に到着した。

何の変哲もない、どこにでもある普通の一軒家。

ここがエマの自宅だ。



「ふたり…とも…ありがとう。送って…くれて…」

『いいよ!気にしなくて!!』


エマはフェンスゲートの前でくるりと向きを変え、送ってくれたふたりに対し丁寧に小さな頭を下げる。


「おやすみ…なさい」

『おやすみ、エマちゃん!また来週ね!』

『ゆっくり休め。おやすみ』


ふたりのメッセージを読んだ後、手を振って彼女は家の中に入っていった。









ガチャン。










「…………。」

「…はぁ」



扉が閉まる音。

男だけが外に取り残された後、美空が小さく息を吐く。

自分達のマンションへ帰るため、ふたりは再び夜の道を同時に歩き出した。


「あーあ…なんでこの僕が、何十分も野郎の隣をずっと歩き続けてるんだろ」

「つべこべ言わずに歩け」


長い帰り道。

自宅のマンションまではあと何分かかるだろうか。


- 726 -

*PREV  NEXT#


ページ: