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……………


〜♪


「はい、ストップー!」


曲の途中で七音君が中断の指示を出し、チームの4人を集めた後楽譜を握って説明を始めた。

ここはいつも皆が集まっている部屋の隣にある、音を合わせるための練習部屋。

壁には音を遮断する防音加工がされており、他の部屋に大きな音が漏れる心配はない。

まぁ…耳の聞こえない私からすれば、遮断加工がなくても何も聞こえないのだが。



「だからここをさ…」

「ふむ。悪くないな」


遠くから見つめる七音君と雨宮君は、まさに芸能人。

このグループでもふたりの人気は高いし、音楽の才能もあって言うまでもなく容姿も整っている。

キラキラと輝いて、一般人の私からすれば雲の上の人のような存在だ。


私なんかがこの場所にいられる事さえ奇跡なのに…









『それ絶対ふたりともエマちゃんの事が好きなんだよ!!!!!!!』






私の思い過ごし…だったら凄く恥ずかしい。

サラさんとビッキーさんとの先日のやりとりが、あの日から何度も頭の中でリピートされていた。

勘違いだったら…当たり前。

むしろそうじゃなければ地球がひっくり返ってしまう程の大事件。


…なのにやっぱり私。

ここに通うようになって、贅沢な性格になってきてるんだ。






「よし!じゃぁ今日はここまで!」

「ヤッホーイ!あがりっすね」

「♪」



あ。日晴君達がギターを仕舞い始めた。

今日の練習は終わりなのかな?

エマは綺麗なタオルを手に取って椅子から立ち上がった。








「あー、疲れた疲れた」

「…お疲れ…さま…です」

「エマさん!ありがとうっす!」


音合わせが終了した所で、駆け寄ってきたエマがひとりずつ白いタオルを手渡し、雪之原やクラウディも次々受け取ってくれる。


「…?」

しかし七音君はタオルを受け取っても、なかなかマイクから離れない。


「七音くん…まだ…終わら…ないの?」

「あぁ…」


携帯を打って見せてくれる。


『僕とミヤ君はもう少し音を詰めたいんだ。エマちゃんはヒーちゃん達と先に帰ってていいよ』


七音君達、まだやるつもりなんだ。

彼は音楽に対してはとことん情熱を燃やす。

人気も才能もあるのに、こうやって努力を怠らない所は人としてとても尊敬出来る。

本当に音楽が大好きなんだろうな。



「わかっ…た。……あんまり…無理…しないで…」

「ありがと!」


語尾にハートが付くような言い方で、疲れているはずなのに無邪気に笑って首を縦に振る。



日晴と雪之原、クラウディとエマはふたりを残しそれぞれ部屋から出た。

荷物をまとめ、帰る準備が整った後に揃って階段を下りる。

外へ出た所で男達は彼女に目を向けた。


『エマさん、もう暗いから今日は俺達が家まで送りましょうか?』


日晴君が見せてくれた言葉に首を横に振る。


「今日は…寄る所が…あるから…大丈夫。ありがとう…」

「そうっすか。なら仕方ないっすね」


毎度毎度、忙しい彼らに家まで送ってもらうのも気の毒だ。

それに今日は帰る途中でお母さんから買い物を頼まれている。

買い物と言っても、牛乳が切れたから帰りに買ってきてってお願いされただけだけど。



「じゃぁエマっち、バイバ〜イ」

「お疲れ様っす!」

「♪」


同じ方向の日晴君と雪之原君は一緒に、別方向のクラウディ君と私はバラバラに分かれる。


3人が行ってしまった後に、自分も帰ろうと踵を返した瞬間


ふとビルの電気がついた部屋を見上げた。


まだあの部屋では七音君と雨宮君が音合わせをしている。



「…………。」



その光を何秒か見つめた後に、ようやく歩き出した。

近くのコンビニで牛乳を買わなきゃ。


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