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……………


空は既に黒一色。

夜空が頭上に広がり、街灯が道を照らしていた。


事務所を出て、歩き出す男ふたりの間に会話はない。

どうせ同じマンションに住んでいるんだ。

歩いて20分程だが、そこまで何も話さないというのはさすがに気まずく、美空は歩きながらチラッと雨宮の顔を覗いた。



「ミヤ君はさ、エマちゃんのどこが好きなの?」

「お前に答える義務はない」

「って事は、答える内容はあるって事かぁ〜」

「…ッ」


揚げ足を取られて横目で睨む雨宮。


「はは。そんな怖い顔しないでって!いやー、実は僕さ。ミヤ君は男が好きなんだと思ってたんだよ」

「…はぁ?」

「だってさ!昔からそんな堅苦しい性格で女の子から言い寄られても全然興味なさそうだったし!
いつも僕とつるんでくれるから、もしかしてそういう目で僕を見てるんじゃないかと思ってた!」

「おぞましい想像をするな…」

「そんなミヤ君も、ちゃんと女の子を好きになってくれて安心したよ〜」

「『そんなミヤ君』で肯定するな。僕は最初から女が好きだ」

「うっわ。ミヤ君の口から『女が好き』なんて言葉が出てくるなんて!明日、空から槍でも降ってくるんじゃね!?」

「戦争が始まるわけじゃないのに、どうして槍が降ってくる?」

「いやいや、突っ込む所そこじゃなくて!」



こうしていると、普段通りの美空と雨宮の会話だ。

周りから見ている分には、ふたりの仲が険悪になっているなんて誰も想像がつかない。


彼らはケンカをしているんじゃない。


ただ同じ時に同じ女性を好きになってしまっただけ。

ただそれだけの事だ。


雨宮は難しそうにため息をつき、少し深めに眉間のシワを寄せた。



「しかしだからと言って、僕はお前みたいに女性なら誰でも彼でも可愛いなど思える人間ではない」

「…は?」

「エマにだって最初から好意を持っていたわけじゃなかった。
まぁ…お前が連れてきた中では、一番良いと思ったが…

僕は彼女の内面に惹かれたんだ。
あんなに純粋な人は、今まで出会った事がない。
耳が聞こえないというハンデを背負いつつも、誰かのために必死に生きようとする姿が、僕にとって魅力的に見えただけだ」


彼の本音に耳を傾け、口を閉ざし歩き続ける。








「ミヤ君てさ…」

「なんだ?」

「童貞?」


「…………。」


雨宮は思わず足を止めて固まる。


「何故…そういう話になる?怒
(こっちは真剣に話していたというのに)」

「いや、だってさ!あまりにピュアピュアすぎて、まるで初恋の話を聞いてるようだったから!」

「貴様…」

「あっははは。大丈夫、安心してよ!僕が」











「答えろっつってんのよ!!!煤v


「「……ッ」」


突然女性の怒鳴り声が聞こえ、男達の会話は中断された。


「なんだ?ケンカか?」

立て続けに耳に入る同じ女性の声。

その物々しい空気にふたりの顔つきが神妙に変わる。


「この声…」

「っ、おい!七音!」


何かに気づいたのか、慌てて走り出した美空。

向かうのは声が聞こえる建物の裏だ。

雨宮も何の事だかわからなかったが、とりあえず彼の背中を追った。


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