17
「…はぁ」
彼女達の姿が完全に見えなくなり、美空は疲れたのか膝に手を置いて片手で顎の汗を拭った。
「エマ、大丈夫か?」
急いで雨宮が駆け寄り、倒されたエマを支えて立ち上がらせる。
スカートが土で汚れており、それも軽く払ってあげた。
美空はすぐに携帯を握り、エマにその画面を見せる。
『僕の連れがヒドい事しちゃったね。ごめんね』
「うう…ん…。大丈…夫…」
何も聞こえず状況もわからず、ひたすら責め立てられて本当は凄く怖かったんだろうな。
心配させまいと無理に笑う顔が、なんだか痛々しく思えた。
「全く、肝を冷やしたぞ。彼女が本当に踏みつけられていたら、どう責任を取ってくれるつもりだったんだ」
「ごめん、ミヤ君。迷惑かけて」
「ったく…。これに懲りたら女遊びは今後控える事だな」
「それは今回の件で十分、身を以て感じました」
美空は落ちていたビニールを取り土を払う。
新しい牛乳を買ってあげる提案をしたが、大丈夫だと断られてしまった。
『エマちゃん、本当にごめんね』
「もう…大丈…夫…だよ」
『家までまた3人で帰ろ。送るよ』
「っ…。いい…よ…そんな…遠回り…に…なっちゃ……っ////」
すると美空は片手にビニールを持ったまま、急に彼女の右手を反対の手で握った。
「気にしないで!ミヤ君もいいでしょ?」
「………。」
彼も一時眉間にシワを寄せ、一度親指で眼鏡を押し上げる。
「当たり前だ。いつまたこのような危険があるかわからんからな」
そう言ってエマの左手を雨宮が握った。
「ッ…」
驚いてふたりの顔を見上げる。
今の事もあったし、ふたりともそれだけ心配してくれてるのかな。
「よし。じゃぁ帰ろ。エマちゃん!」
「…っ…////」
両脇を異性に挟まれて、しかも手を握られて歩き出す。
なんだか…嬉しいような、恥ずかしいような…
「妙に照れ臭いな。僕らももう子どもじゃないというのに」
「いいじゃーん!誰も見てないし!エマちゃん、どうせなら腕組んで恋人繋ぎでもす…」
「エマ。やはり場所を代われ。コイツの隣は危険だ」
「はぁ?また!?なんで僕がミヤ君と手を繋いで歩かなきゃいけないのさ!」
3人がそれぞれ同じスピードで並んで歩く。
私は…幸せ者だ。
七音君も雨宮君も、何があってもいつもこうやって傍にいてくれる。
耳が聞こえないとわかって、たくさん迷惑をかけて…
それでもここまでずっと一緒にいてくれた。
こんな経験…weather lifeの仲間になるまで一度もない。
こんなに大きな温かい手…今まで握った事がなかった。
…嬉しい。
たとえ自分が自惚れていただけだったとしても…私はふたりの事が好き。
大好きだ。
もう、お仕事の仲間だけという存在じゃないよ。
それだけは、今ハッキリとわかっている。
エマは無意識に強く彼らの手を握った。
「エマちゃん?」
「ッ…エマ?」
「ありがとうっ……七音君…雨宮君////
…だ…大好きです…」
「「……。」」
何も考えず、ストレートに自分の気持ちを口にしてしまった。
私はふたりの事が大好き。
日晴君や雪之原君やクラウディ君ももちろん好きだけど…
七音君と雨宮君は、もう他の人と比べられないくらい。
その言葉を聞いた男ふたりはぽかんとしていたが
無意識にお互いが目を合わせると、美空の方がクスッと笑った。
「はは。大好きだって?どうする、ミヤ君?」
「どうするって……全く…///」
ニヤニヤする美空に、赤面して意味もなく咳払いをする雨宮。
ふたりは同時に自分の携帯を取り出し、それに文字を打ち込んだ。
『僕もエマちゃん大好きo(^▽^)o!』
『同感だ』
もう少しだけ、この距離感でいたい。
この…
ふたりを傍に感じられる、安心する距離感。
ずっとずっと…
3人でいられる気がしていた。
「僕達の大好きの意味。わかってるのかね?この子は」
「わかってないだろう…」
何も聞こえないエマをよそに、
頭上ではこんなやり取りが行われていた。
fin
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