1
季節は12月の中旬。
枯れ葉が風に吹かれ、冷たい街中を寂しく舞っている。
道路沿いにそびえ立つマンションのとある一室。
彼女がこたつでおせち特集雑誌を読んでいる最中の出来事だった。
「やよちゃんやよちゃんやよちゃんやよちゃんーッ!!!」
まるで某バイクライダーの絶叫ダイビングのように弥生の背中に後ろから飛びついた男。
眼鏡のインチキ関西人、葛西だ。
「重い。邪魔や」
「そないな事言わんといて!…やなくて大変なんや!」
「そか。それは大変やったな、可哀想に」
「まだ何も言うてへん!」
弥生はは立ち上がると、こたつの温もりがなくなりサブッと震える。
背中の葛西を引きずりながら日本式の棚へ向かい戸を開けた。
「所持金が!僕の生活所持金が底を突いてしまったんや!
あー、先月飲み屋のねーちゃんに(ピー)万円も貢いでしもたからこないな事になってしもてん!明日から僕はどないすればええんや!」
「ええ加減真面目に働いたらどうや?」
「こんなインチキ臭い世の中、ブラック企業の働き蟻になるのは嫌や!」
「インチキ企業を経営してた宗ちゃんがよう言うわ」
「あー、僕はやよちゃん一筋と決めてたのに!なんであんな派手なねーちゃんに銭を渡してしもたんやぁ…この葛西宗一郎っ…人生最大の失態…」
背中で涙をごりごり拭かれても、弥生の表情は1ミリも変わらない。
隠し取っていた羊羹を取り出して、葛西を引きずったまま再びこたつに向かう。
座ると彼はすぐに彼女の膝で泣きじゃくり始めた。
その姿はあのナイジェルにも負けない「ダメな大人の見本」
いや。まともな職に就いていない分、ますますタチが悪く、もはや「見本」という言葉さえコイツには勿体ない。
「なぁ!やよちゃん、明日から僕はどうやって生きていけばええんや!?」
「近くの激安スーパー・マツヲ、カップ麺が1個50円で売ってるで。
道行く人に50円を物乞いして、買ったカップ麺を7つに割って1週間かけて食う生活を繰り返せば生きられんとちゃう?」
「そんな生き地獄な生活送るくらいなら死んだ方がマシや!」
羊羹を食べる弥生に一口恵みを求めても、あげるフリをして食べさせてもらえない意地悪をされる。
「なーぁ、もう僕にはやよちゃんしかおらへんのどす!この哀れな宗一郎君をどうか助けておくれやす」
「言い方がムカつくから嫌や」
「そないな事言わへんで!なぁ、頼むわぁ!」
「暑苦しい。えーから離れ」
「うわぁぁぁぁ!『えー』の?僕を助けてくれて『えー』の!?」
「そういう意味の『えー』ちゃうわ」
「宗ちゃんを助け『ちゃうわ』!?お、おおきに!やよちゃん!」
「自分に都合のええように解釈すッ……ウチがそない喋り方するわけあらへんやろ。
も、わかったから離せ!鬱陶しい!」
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!やよちゃん!やよちゃ…(強制終了)」
- 742 -
*PREV NEXT#
ページ: