8
……………
なんだかんだで道端での騒ぎはおさまり、時計の針はお昼の2時。
葛西の腹の虫が鳴った事をきっかけに、ふたりは業務を一時中断して遅めの昼食を取る事にした。
やってきたのは、たまたま近くにあったファミリーレストランだ。
カランカラン!
「いらっしゃいませ!」
・
・
・
「ハンバーグ洋食セット!あぁ、アスパラガスはいりまへん。僕、緑の濃い野菜がどうも苦手やねん!
キャベツは好きなんやけどね。あとデミグラスソースは多…」
「月見そば」
注文を済ませ、腹ぺこのふたりは外や店内を眺めながら料理が来るのを心待ちにする。
「あ〜、なんか久しぶりにやよちゃんとデートしてるみたいやね!しゃーわせですわぁ」
「デートに連れてってくれんなら、もっとちゃんとした格好とプランを立ててから誘ぉてや」
「充分やん〜♪こうやって向かい合って美味しい飯食うだけでも………あ?」
ふと葛西の目にひとりの女性の姿が映った。
それは向かい側、一番奥の席に座って本を読んでいる若い女性だ。
「おお!えらいべっぴんさんがおるで!」
お金の次に美人に弱い葛西は早速食いつく。
青い髪が似合う知的で品のある風貌に、弥生も目を向けて「そやな」と呟いた。
「何か悩みとかあるんとちゃいますか?ちょいと話しかけてみよか!」
「宗ちゃんはホンマ単純やな。迷惑やろ、やめとき」
「話しかけるだけタダやん!ほら、行きまっせ!」
席を立ち、弥生の忠告を無視して走りだす葛西。
「お姉さーん!何かお困りで…」
「きゃっ!」
ガシャンッ!!
葛西はその女性に話しかけた瞬間、何者かに後ろ襟を掴まれ、そのままの勢いで地面へ叩きつけられた。
それはまるで地震でも起こったかのような激しい音。
当然の事ながら周りの客の注目を浴びた。
「ググゥ…」
あがる煙の中。
視界がだんだんよくなってくる。
見えてきた、そこに立っていた男は
「お客様…店内ではお静かにお願いします」
低い声音の男性店員だ。
「バ、バレルさん!ダメですよ!お客さんにそんな事しちゃ!」
「………。」
葛西に話しかけられた女性・ローラはバレルに慌てて注意するも返事は返ってこない。
「アイテテテ、眼鏡割れたわ」
「アホ。言わんこっちゃない」
頭を抱えて顔を上げる葛西に対しても、弥生は心配する様子なく毒を吐く。
自分の忠告を無視した罰だ。
「そないな事言わ…って、あれ?あ!アンタどっかで見た事あると思たら、バルンはんやないですか!」
「バレルだ」
「いやー、まさかこないな所で再会出来るとは思ておりまへんでしたわ!
何?ここで働いてはりますの?
この人は?え?もしかしてガールフレンド?
全くー!バルンはんもクールな顔して隅に置けまへんな!このこの!
可愛ええやん!僕のやよちゃんと同じくらい可愛えや…」
ローラ「…バレルさん。お知り合いの方ですか?」
バレル「知らん」
ひとり怒涛の勢いで話し始める彼に状況がわからず、ローラは口が半開きになっている。
バレルはバレルで、普段通り眉間にシワを寄せて怖い顔で睨み付けたまま。
「またまたぁ!一緒に雪玉作り合って遊んだ仲やのに冷たいなぁ〜。『雪』だけに!上手い!
あ、そや。実は今僕達なんでも屋さんをやっておりますねん。
人の役に立って感謝されて銭も貰っ……とにかく素敵なお仕事!
ええですやろ?ええですやろ?!?
そんな訳でお嬢さん、今何か困ってはる事はありますか?」
バレル「貴様がここにいる事自体に困っている。他の客に迷惑だから帰れ」
葛西「なんでもやりますで〜!あ、肩でも揉みましょか!なんなら全身あんな所やこんな所まで揉みほぐすマッサージでもええで!女の子ならお安くしますさか…」
バレル「帰れっつってんだろーが(怒)」
執拗にローラに近づく怪しい眼鏡を、バレルは片手で引き離す。
こんな胡散臭く怪しい客、他の客にも店員にも迷惑だ。
料理を出す前に出て行ってもらった方がいいが…
「あ!マッサージ師さんなんですか!?」
しかし当のローラは、その怪しい空気をものともせず、突然ぱぁっと表情が明るくなった。
何かを思い出したらしく両手をぽんと合わせる。
「それなら是非お願いしたい事があるのですが!」
「何?どこ?どこを揉んで欲しいん!?」
「実は…」
・
・
・
・
「二度と来るなって言っただろ…」
この建物を訪れたのは本日2回目。
午前中に一度見たアホ毛をまた眺めながら、僕はその男の腰をマッサージしていた。
「なんでやねん!何で僕がこないな目に遭わんといかんのや!」
ジム「それはコッチの台詞だ!あんだけの大金ぼったくりやがって!なんでまた来やがった!?」
「だからアンタの妹さんに頼まれたと何度も言うてますやん!」
ファミレスで出会うたあのべっぴんさん。
なんと彼女はこのアホ毛の妹やった事が判明した。
コイツと全く同じ形のアホ毛が生えていた時点で気づかへんやった事に後悔…
葛西宗一郎、人生最大の失態や(更新3回目)
****************
「私の兄、仕事柄激しい運動が多くて。最近は歳のせいか、会う度に腰が痛いと言ってるんです。
よかったら体をほぐして疲れを取ってあげてくれませんか?」
****************
兄へのあんな汚れないピュアな思いを伝えられると、さすがの僕だって良心が痛んで断れるわけがあらへん…。
なのにこの兄貴ときたら。
「ローラにまで近づいたのか!!テメェ、どこまで図々しいんだ!」
「そりゃ僕だって可愛い女の子のイチャイチャ秘密のマッサージとかそんなん期待しとりましたわ!
なのになんで選りにも選って、こんなオッサンの顔一日に2回も見て、オッサンのエロくもない腰揉まなあきまへんのや!」
「お前ついさっきまで俺の事イケメンだの素敵だの散々大絶賛してただろーが!」
「そんなん商売文句に決まっとりますやろ!
銭を払うてくれるのなら、アンタの顔にう●こが付いてても言うとります!」
「う●こなんか顔に付けるわけないだろーがッ!!」
チリーン♪
毎度ありがとうございます。
- 749 -
*PREV NEXT#
ページ: