……………


「はぁー、ったく今日は散々な目に遭うたわ」


あの後、お得意様になりつつあるジムの全身をマッサージしながら1時間口ゲンカをした葛西。

さすがに次は自身の肩が凝ってしまったのか、腕をぐるぐる回している。


「欲に溺れとったらロクな事がないちゅー事や。反省せぇ」

「まぁええわ!一番高いCコースの金額をぶんどったさかいな!」

「1時間しかマッサージしてへんのに?」

「オッサンは割増料金に決まっとるやろ!ついでに除霊料金も取ったしな」

「ウチ何もしてへんで」

「そんなもん一般の人間には見えへんのやから、腰に憑いとる背後霊を除去しましたとか適当に言ってりゃええんやて!」

「ジムさんも、それでよう払たな…」


雨宮と出会った公園を通り過ぎ、葛西は裾に手を入れて弥生の顔を見る。

「さて。さすがに疲れたし、今日はそろそろ帰りましょか」

「そや……ん?」



ふと足が止まり、葛西も数歩進んで止まった。

道の先にふたりの女性が背を向けて立っている姿が見えたのだ。

どちらにも見覚えがある。


「あ?あれはジムはんの所のビッキーはんとボビエはんやん。あない道の真ん中で何してはるんやろ?」

「行ってみるか?」

「そやな」



ビッキーとボビエは人気のない道で話をしているようだ。

あんな所にいれば、いつ車に轢かれるかもわからない。

忠告をするために、すぐに弥生が前に出てふたりに近づいた。


「あんさん達、そんな所におったら危ないで」

「あ!弥生ちゃんと葛西君!」

「何してはりますの?こない所で」

「ちょっと今困ってるの!助けてくれない!?」


待っていました、とその言葉。

助けを求める声が聞こえたその途端に、葛西はすかさず弥生を押し退けて前に出た。


「おー、丁度ええわ!僕ら今『なんでも屋』っちゅー商売をしとりましてな!ご要望があれば何でもお受けしますで!」

「え、お金取るの?」

「もーぉ!緊急事態系だから少しくらいお金を払っても構わない的なー!!」


ナイスタイミングで話しかけたとばかりにズカズカとさらに前に出る。

さっきまでの疲れはどこへ行ったのやら。


「毎度あり〜!ラッキーやな、やよちゃん♪」

「で、何に困ってはりますの?」


「実はぁ…」






ギャァァァアオウウ!!!!








「「…………。」」



今までこの地球上で生活をしてきて、スクリーン以外では聞いた事のない恐ろしい鳴き声。

ボビエはよく見ると、リードのような物を握っていて

その先には…



「実家で飼ってるケルベロスのキャロラインの散歩をしようとしてる系なんだけど!初めて来る星だから超怯えテェ!!!」




ギャアアウウスッ!!!

ゴゴゴゴゴグルルルルッ!





葛西「………。」

弥生「…良かったやん。Cコースやで」




それは「怯えている」と言うにはかなり無理がある姿。

犬とは思えない巨大な体に地響きにも似たゴジラのような声。

巨大な狼顔が3つ。

首を激しくブンブンと振り、鋭い爪を立て

恐ろしく尖った牙がむき出し。

口から涎を垂らしながら、目が真っ赤に充血している。




「もぉおーっ!!お座り系!伏せっおかわギャァァァァアッ!」



ガリガリガリガリッ!!!





「無理いっ!!!無理!やよちゃん、あんなん怖い!怖すぎるわ!僕には無理ぃぃ!」

「そない事言っても、依頼引き受けてしもたモンはしゃーないやん」

「大体なんやの!?ケルベロスのペットて!そんなもん飼ってる奴おらへんやろ!」

「それさっき、別のオッサンが全く同じ事言うとったで」


恐ろしい狂犬が平穏だった町に突如出没し、住民は慌てて家の中へ避難する。

叫び声を上げて逃げ惑う一般人。

飼い主は腕に噛みつかれ髪を引きずられ、もう誰にも止められない状態だ。


「どうしよう、この先は商店街だよ!このままじゃキャロラインがそっちに行っちゃう!」

「しゃーない。ちっと下がっとき」


ビッキーを下げて前に出たのは葛西ではなく、やはり弥生の方だ。


目の前には凶暴なケルベロス。

しかし彼女は恐れる事なく、一枚のお札を取り出した。


「宗ちゃん。このお札をあの犬のおでこに貼っ付けてきてや」

「はぁ!?無茶言わんといてーな!あんなもん犬やないわ!」

「アンタは封印出来ひんやろ。金貰ってんねんからきっちり働きーや」

「無理無理絶対無理やぁぁあッ!!」


一般市民に紛れて逃げようと企むが、弥生に足を引っ掛けられて葛西は転倒。

男ながらなんとも情けない姿だ。


「や、弥生ちゃん…その人、大丈夫?私が貼ってこようか?」

「怪我しはりますよ。コイツにやらせますから下がっといてください」


「あーも、やよちゃん痛い!何すん…」




チャリッ



すっ転んだ後、鼻から血を垂らして顔を上げた葛西。

その瞬間、目の前に突然糸で繋がれた五円玉が降ってきたのだ。


「あ、ぜにっ…」


大好きなお金!と、それを掴もうとした瞬間…

五円玉はふりこのようにフラフラと左右に揺れ始め、その手から逃げ出した。

ビッキーは何をしているのかと近づいて覗いてみる。


「やよ…いちゃん、何やってるの?」

「催眠術です」

「催眠術って。今時そんな古典的な術にかかる人いるわけ…」

「よし、かかった」

「え、早っ!」


ふりこを振り出してわずか10秒。

意識が朦朧とし、ふらりふらりと揺れる五円玉を閉じている目で追っていた葛西。

そしてその後、カクンと下を向いてしまった。



「んーぅ…」

「宗ちゃん?聞こえるか?」

「んん…ぁ…」

「ほら、起きてぇな」


軽く頬を叩かれてグッタリしていた顔を上げる。

一瞬だが気を失っていたようだ。

ビッキーはしゃがんで葛西の顔を覗き込むが、見る限りその顔はなんら普段と変わらない。



「ねぇ、本当にかかってるの?」

「まぁ、見といてください」


独特なイントネーションの弥生は特に笑う気配もなく、こちらを見ている葛西に話しかけ始める。


「宗ちゃん。あそこに可愛い〜犬がおるやろ?」

「かわ…あ…?」



※可愛い犬は電柱を歯で粉々に噛み砕いています。



「そうや。可愛い可愛いトイプードルや」

「かわ…い…トイプード…」


※可愛い可愛いトイプードルは、コンクリ塀で爪を研ぎ破壊しています。


「宗ちゃんはワンちゃん大好き」

「大…好き…」

「ワンちゃんは可愛いし、近づきたいな?」

「大好き……近づき…たい…」

「ほら。この餌をやって頭を撫でてくるさかい」



ビッキー「餌じゃないよ、お札だよソレ」

弥生「ええんです、これで」




葛西は弥生から餌(お札)を受け取り、フラフラと覚束ない足で立ち上がる。



ギャァアアアウッ!

ギャァアアアウッ!!



鳴き喚く轟音。

ケルベロスは周辺の公共物を破壊しまくり暴れ続けている。

牙をむき出し、赤い瞳を光らせて。

もちろん。

その姿は可愛いワンちゃんなどとは程遠…










葛西「可愛い!!!なんて可愛いポ●ポムプリンなんや!!」




ビッキー「エエエッ!?トイプードルじゃないの!?」

弥生「催眠術にかかってても宗ちゃんはアホやからな。まぁあれもベレー帽被せたらほとんど同じモンやろ」

ビッキー「あんなのを許容範囲内にしてたらサ●リオに怒られるよ!」





葛西は閉じている目をキラキラ輝かせて、可愛いキャロラインの元へ走り出す。


「可愛ぇ!僕、今まででこんな可愛い生き物見た事あら……プギャァァァアッ!!!」

ビッキー「ちょ!!葛西君、頭かじられてる!助けなきゃ!」

弥生「催眠術にかかってるから大丈夫や」

ビッキー「首を咥えてブンブン体を振り回されてるよ!助けなきゃ!」

弥生「催眠術にかかってるから大丈夫や」

ビッキー「地面に押し付けられて全体重で潰されてる!助けなきゃ!」

弥生「催眠術にかかってるから大丈夫や」

ビッキー「催眠術解けたらどーすんの!!!」


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