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……………
「エマさん、お疲れっすー」
「遅れてっ…ごめ…ん…なさ…」
「いいっすよー」
「♪」
事務所の扉から出迎えてくれたのは、今日も元気いっぱいの日晴と落ち着いた振る舞いのクラウディ。
とても同い年とは思えない。
紳士なクラウディが荷物を持ってくれ、エマは部屋の中に入る。
「エマちゃん、やっほー♪」
「お疲れ」
他3人も既に事務所へ到着していた。
結局私が一番遅かったみたいだ。
「遅くなって…ごめんね」
「もう!会いたくて待ちくたびれちゃった!」
「七音、ふざけるな。続けるぞ」
美空と雨宮は打ち合わせの途中だったのか話に戻り、エマは疲れ気味で椅子に座った。
あ。そういえば…
鞄を開けて取り出した一枚の封筒。
私のロッカーに不自然に挟まっていた。
表にはやっぱり何も書いてないな。
誰からだろう。
「ん?エマさん、それ何っすか?」
彼女が珍しい物を持っている事に気がつき、興味を持った日晴が近づいて覗き込んできた。
「…今日……わたしの…ロッカーに…挟まってたの…」
『誰からの手紙っすか?』
「わか…らない」
破らないように封筒の糊を丁寧に剥がす。
中に便箋が入っているようだ。
それを取り出し、そっと両手で開いてみた。
【いつも貴方を見ています。
君は僕の可愛い天使です。
連絡をください。連絡先…〜】
パチッ
パチッ
日晴とエマがほぼ同時に瞬きを繰り返した。
これって…
これってまさか…?
「ラ、ラブレターじゃないっすか!!!」
「「…ッ」」
日晴の大きな声に、話をしていた美空と雨宮、本を開いていたクラウディ、携帯をいじっていた雪之原…
weather life全員が振り返った。
「なになにぃ?どぉしたの?」
「…?」
雪之原とクラウディも傍に寄ってきて、そのラブレターを覗き込む。
この文章の書き方は誰が読んでも愛のメッセージ。
初めての経験にエマも手紙を握ったまま困惑している。
日晴はそんな彼女を見て、携帯に文字を打ち込み嬉しそうに見せた。
『やったっすね!早速このメールアドレスに連絡をしましょ!』
「えぇっ…そ…そんな…」
「こんな絶好のチャンス見逃すわけにはいかないっすよ!ほら、早…」
スッ
2本の影により突然視界が暗くなる。
日晴が見上げると、そこには美空と雨宮の姿が。
「ダメだ」
「…あっ」
低い雨宮の声と共に彼が便箋を、美空が封筒を取り上げた。
「えっ?な、なんでっすか?せっかくエマさんにも彼氏が出来るチャンスだってのに!」
「「カ レ シ ッ …(怒)」」
「ちょちょ…だからなんっすかその顔は。俺はエマさんの将来を思って…」
雪之原「あはは。君、相変わらず読めてないねぇ」
エマがぽかんとしている間に、彼らは手紙の内容に目を通す。
ふたりとも同じような表情。
眉間にシワが寄り、頬に怒りマークが浮かんでいる。
「あ…あの…」
雨宮『君がこのような物を持つ必要はない。芸能界は恋愛禁止だ』
日晴「いや、別にエマさんは芸能人じゃないっすよ」
美空「こんな『天使』とか『可愛い』とか平気で言う奴、女たらしの(ピー)に決まってるよ」
雪之原「あはは。じゃぁ君も女たらしの(ピー)だねぇ」
エマがまさかラブレターを貰ってくるなんて、weather lifeも予想していない出来事だった。
雨宮は便箋を封筒の中へ戻し、彼女の顔を見る。
『持っておきたいか?』
「…え」
『無理にこちらで回収したりはしないが』
か…回収…。どうしよう。
エマはその言葉に少し考えた後、顔を上げた。
「う…ううん…っ…雨宮…くんが…持ってて…」
『そうか。わかった』
結局エマが気迫に負けた事により、手紙は雨宮が預かる事に。
彼自身は少しホッとしているように見えるけど。
思い通りにならない結果に、日晴は残念そうな顔でエマに問いかけた。
『いいんすか?返事しなくて』
「…はい。…私……ここの…皆と以外…男の人とはっ…上手く…接せないし…」
「そっかぁ。残念だなぁ」
雪之原「あはは。僕は全然残念じゃないけどねぇ」
日晴「え?なんでっすか?」
雨宮は封筒を仕舞い、代わりに楽譜を手に取った。
「この話はこれで終わりだ。隣の部屋で次曲の確認をするぞ」
見る限り、顔つきはまだ不機嫌な様子。
もちろんそれは美空も同じ。
今日のレッスンは相当長引きそうだ。
「了解」
「うぃーす」
彼らは次々と隣の部屋へ向かい、最後にクラウディがエマの肩を軽く叩いて笑った後に立ち去る。
「………。」
ぽつんと部屋に残されてしまった。
一体なんだったんだろう…
見知らぬ男性が自分に好意を向けてくれた事は、少し嬉しかったけれど
それでも一歩が踏み出せない、言いようのないもどかしい気持ちに駆られた。
でも…結局、連絡を取って会った所で耳の聞こえない事に幻滅されちゃうだけなんだろうな。
エマは窓の向こうの遠い雲を無意識に見上げていた。
さて…今日は何をしようかな。
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