……………


手紙で指定された日時。

weather lifeとエマは20分前に学校に到着したが、相手の男はまだ姿が見えていないようだ。



「…だ…だいっ…じょう…ぶ?」


目の前にいる女性は瓜二つ…とまではいかないが、紫色の結った髪に蝶のカチューシャをはめている。

長いロングスカートは自分とそっくりだ。

むしろ本人よりも可愛いかもしれない、色白の美少女。



『可愛いでしょ?うふふふふ』


だが、この人は男だ。


「そ…うじゃ…なくて……ご、ごめん…ね…私の…せいで…」

『よろしくてよ。おほほほほ』

「気持ち悪い口調はやめろ」

「あら、照れていらっしゃるのぉ?」


気味悪がる雨宮に女装した雪之原がつっかかる。

ぱっと見、姿はエマそっくりで、その格好で他人にちょっかいを出している光景が逆に不自然だ。


美空「そっくりそっくり!お胸に何も入れなくても全然違和感ないね!」

日晴「美空さん、本人の耳が聞こえてたら一発ぶん殴られてますよ」

雪之原「ちゃんとブラジャーも付けてるよぉ。ほら、見…ガッ!←クラウディに肩を掴まれる音」


楽しいお昼すぎの男子高校生のノリを、エマはぽーっと眺めている。

一通り、女装イジりが終わった所で10分前だ。

ようやく話の本題に入る。


「じゃぁ早速。僕は具体的に何をすればいいのぉ?」

「お前はこれからエマに成り代わり、来た男にハッキリ断る旨を伝えてくるんだ。

会話をする上で重要な点がある。

彼女は耳が聞こえない人だ。
決して相手の言葉や周りの音に反応したりしないように。
まず最初に自分が難聴である事を伝え、筆談での会話を要求するんだ」

美空「声を出すとさすがに男だってばれちゃうかもだから、そっちの方が好都合だよ」

「相手が怪しい行動を取ったり、何かしそうな時は我々がすぐに助けに入る。くれぐれも無理はしないように」

「わかってるよぉ。それじゃ、時間だしそろそろ行くね〜」


信用性のない笑顔と敬礼を見せつける。

心配気なエマに手を振り、変装した雪之原は校門の前に立った。

その姿はまるで、デートで彼氏を待つお年頃の女の子だ。












「ユキ、ちゃんとエマちゃんのフリが出来るかなぁ」

「そうっすね。耳の聞こえない演技なんて結構難しいでしょうし、うっかり相手の言葉に反応したりしなきゃいいっすけど」

「…っ。誰か来たぞ」


草陰に隠れ、待ち続けて10分。

雪之原の元へひとりの男性が近づいてきた。




「エマさん!」


自分達と同じ年齢くらいの細身の男性。

身長も平均的、見た目もごく普通の人で、彼らが思うような悪人面の第一印象ではなかった。


「……ッ」

姿を確認し、ゆっくりとその男を見るエマに変装した雪之原。


「やっと会えたね!嬉しいよ!」


本当に嬉しそうに笑う男性を見ても、雪之原は無表情。

少し目を伏せた後、無言のまま自身の携帯を打ち込んでその画面を見せる。


『私は耳が聞こえないので話が出来ません。文字での会話をお願いします』


「あっと、そうだったね。ごめんね」


携帯の文字で挨拶をしている男を、隠れて観察するweather life4人とエマ本人。

「ユキ凄いじゃん!本当にエマちゃんっぽい!」

「人を騙くらかすのは昔っから上手かったっすからね」

その演技に美空と日晴は高評価だ。




「近くで見ると思ってたより身長高いな。160センチ手前って情報は嘘だったのか…」


今回ヒールを履かず、出来る限り小さく見せて誤魔化してみたが、やはり若干の違和感はある様子。

だがそれだけで、男性は彼女がまさか偽者だとは気づいていないようだ。


雨宮「入念にエマの事を調べているな。名前どころか耳が聞こえない、身長まで把握しているとは」

美空「あんまり色々話してると本物じゃないってばれちゃいそうだから、要件を伝えて早めに戻ってきた方がいいね」


不安そうに彼らを見つめている本物のエマ。

それを心配したのか、クラウディが軽く背中をさすってあげた。



『それでさエマさん。手紙、読んでくれたよね?』


男が自分に向けた携帯の文字。

それを読んだ瞬間、雪之原の表情が若干強張った。


「…っ」

『僕は本気だよ。君の事、一目見た時からずっとずっと可愛いと思ってた。僕と付き合わないかい?』


付き合って欲しい。


この言葉に彼女は目を逸らし、俯き、黙り込む。

少しの間。

震える瞼を押し上げ、ようやく彼の顔を見上げた。



『ごめんなさい。私は貴方とは付き合えません』

「っ…!なんでなんだい!?僕がこんな言ってるのに!とにかく理由を説明しっ…!」


言葉で伝えてしまった事に気がつき、急いでそれを文字にする。

しかし、それを読んだ所で彼女の考えは変わるわけもない。


『私は貴方の事が好きじゃないの』

『そんなもの、付き合えば感情が変わるかもしれないじゃないか!』

『諦めてください』

「…っ」


どの言葉も彼女の胸には響かない。


『もう、これ以上関わらないでください』


とどめに突きつけたこの言葉。

男はそれを読むと、さすがに黙り込んでしまった。



「雪之原さん、どうやらハッキリ断ったみたいっすよ」

「相手もかなり呆然としてるね。これでやっと諦めたっしょ」



そう思っていた。

普通の人間はここまで拒否されてしまったら、さすがに傷つき、諦めざるを得ない恋だと気づくはずだ。

このまま素直に帰る事を信じ…



ガッ!


「…ッ!!」





突然両肩を強い力で掴まれ、雪之原はバランスを崩しかけた。

見上げるとギロッとした瞳で顔を近づけてくる。


「ふざけないでくれよッ…僕がこんなにお願いしてんじゃないか…」

「っ…」


雨宮「なんだ?」

エマ「雪…くっ…」


ただならぬ空気。

思わぬ展開に、隠れていたメンバー達は咄嗟に草陰から身を乗り出した。

男の顔は先程までの優しそうな表情とは違う。

期待を裏切られた事に腹を立て、自分が振られたという事実が受け入れられない。

そんな状態なのに、何故か笑っている顔が更に不気味なのだ。


「僕は君の事、何でも知ってるよ…。君の学校での姿、帰る時間、立ち寄る店、家の場所、家族構成!」

「……っ」


腕を振り払おうとするも、すぐにまた何度でも掴みかかってくる。

その力は徐々に強くなって。


「全部…全部知ってるんだッ…。意味わかるかい?
それだけ僕は君に興味があって、君はそれだけ僕に行動を把握されているわけだよ!」



「なんすかアイツッ…」

「気味悪い」


光景を見つめていた日晴と美空が思わず声を漏らす。

やはりあれだけ無視をしても尚、しつこく手紙を送り続けた男だ。

根は普通の人間とはまるで違う。

自分の姿をした雪之原に強引に掴みかかる男の姿に、エマは恐怖で足が震えた。


「助けに入る?」

「あぁっ。クラウディ、エマを見ていてくれ」


これはただ事ではないと判断。

エマをクラウディに任せ、美空、日晴、雨宮はふたりの元へ駆け寄ろうと飛び出した。











「怖いかいっ…?脅かすつもりはないんだよ。僕は事実を言っているだけなんだ」

爪が食い込む程の力で肩を握られ、強く揺さぶられる。

抵抗しようと胸を押し返すも無意味。

男は立て続けに言葉を並べる。


「わかるだろう?僕のこの気持ち。これだけ言われ続けてもわからないの?」

「ねぇ、僕の何が気に入らないんだい?」

「何でもしてあげるよ。君が望むのなら、何でも。いい加減素直になりなよ」


呪文みたくブツブツと唱え続け、顔を近づけようとすると背けられる。

それでも男は畳みかける行為を止めない。


「…っ」

「ははっ、まさか僕以外別に、気になる男でもいるの?」

「やめっ…」

「まさかね。そんな奴いるわけないよね?」

「離っ…」

「大体、君みたいな耳も聞こえない子。大抵の男は面倒臭がって誰も好きになんてなってくれないから」

「………。」


ふわっと、突然抵抗する力が弱くなった。

男は雪之原の肩を握り続けたまま更に言葉を続ける。


「そうだ。君にとって、僕は救世主なんだ。
こんな障害を持って生まれて会話する事さえ面倒にさせてしまうんなら、むしろ好きになってもらえるだけ有り難いと思…」




ガッ!!






「ングァッ!」


彼女は突然、男の足を片足で強く踏みつけ、その衝撃で肩から手が離れた。

それを見た雨宮達も驚いて動きが止まる。


「エマさん、何す…!」


「………。」




前髪の隙間から見える、ハイライトのない氷のような冷たい瞳。

彼女は何も言わず、手に持っていたバッグを地面に落とした。



「ハグッ!」


空いた手を伸ばし、掴んだ胸ぐら。

女性とは思えない強い力で引っ張り出し、

男の耳に顔を近づけた。


















「          」














「……ッ!煤v


何かを囁かれた瞬間、慌てて彼女の体から離れる男。

顔色はみるみる真っ青に。


「な、んだ君…!?煤v


ニヤッと笑うその姿は、今までに見た事のない不気味なエマの顔だ。

その表情に仲間達さえ言葉を失い、恐怖を感じて一歩引き退がる。



ザッ


「ひっ…」


前に出れば出る程、男は後ろに身を引いて怖じ気づく。


ザッ


「ま、待て!」


ザッ


「来るなっ!!来るなぁぁっ!!!煤v


あっという間に走って逃げてしまった男。

先程まであんなに自信過剰だった人間が、一瞬にしてこの変わりようだ。

一体何を言われたのだろうか。










「……あぁ?リツ君達そんな所にいたのぉ?終わったよぉ」




一時の沈黙の後。

近くに雨宮達がいると気がついて、雪之原は普段通りの気の抜ける声で手を振ってきた。


「奏?大丈夫か?」

「うん、平気〜」


集まってきた仲間達にも笑顔を見せる雪之原。

さっき一瞬見えた恐ろしい顔は幻覚だったのかと思えてしまう。


「最後何があったんすか?声も聞こえなかったし、雪之原さんがいきなり相手の胸ぐらを掴んだからケンカになるかと思いましたよ」

「あはは、ちょっとねぇ」

「もうビックリしたっすよ〜!」


大事にならずに済み、日晴は額の汗を拭って胸を撫で下ろした。




「雪くん…だ…だい…じょうぶ?」


走って雪之原に話しかけてきたのはエマ本人だ。

その表情は怯えており、何度も繰り返し謝罪の言葉を口にする。


『大丈夫だよ〜』

「ごめ…んな…さい…っ…私のせいで…危ない目に…遭わせ…て…」

『気にしないで。結構ダメージ与えたから、もうエマっちには近づかないと思うよ(・ω・)』


その文章を見て、隣にいた雨宮が顔を引きつらせる。


「恐ろしいな…。相変わらず敵にだけは回したくない男だ」

「あははは」



しかし肩をあんなに強く掴まれ、酷く何か言葉を浴びせられていた。

しかも男の人に。

思い出しただけでも怖くてたまらない。


「…エマさん、元気ないっすね」

「仕方ないでしょ。元々怖いと思ってる男からあんなされて」

「確かにな。今回は奏のおかげで回避出来たが、これから先学校や街中で会ってしまう可能性だって十分にある」


恐怖からか、エマの顔から笑顔は消えてしまっている。

雪之原は3人の会話を聞きながら、怯えている彼女に近づき…

そして自身の携帯画面を見せた。


『もしまたどこかで会っちゃったらって思ってる?』

「……う…うん」

『じゃぁ教えてあげる。もしまたアイツが近づいて来たらね』



近づいて来たら…?


対策法を携帯に長々と打ち込む彼。


そして他のメンバーには見られないように体を近づけ、その内容をエマだけに見せてきた。


「…………。」



文字を辿る灰色の濁った瞳。

その視線が動くごとに、顔は青白く…

またもや血の気が引いてきた。


「雪…く…これ……どうして…」

「あはは。内緒ぉ♪」


笑う彼の顔は純粋な笑顔ではなく、黒い何かを含んだ小悪魔の笑顔。

やっぱり……この人何考えてるのか全然わかんないっ…(怖)



「えー!エマちゃんばっかりズルい!僕達にも見せてよ!」

「ナオ君達は近づかれる危険なんてないでしょぉ?」

「気になるじゃないっすか!見るだけだから!」

「やぁ〜だ〜」


ぽつんと彼女を取り残して、雪之原は追いかけてきた美空と日晴から逃げ出した。


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