「ふんふふん♪」


廊下で珍しく鼻歌を歌いながら歩いているのは、この建物の1階に住む男。

ジム・リバースだ。

彼がこんなにも上機嫌なのは、本日のバイクレースの結果にある。

1位が取れたのだ。

しかも今日だけではなく、先週も先々週のレースも首位だった。

最近の彼は妙に調子が良く、あの天才肌のリッキーを抑えてレース1位を独占している。

やはり走る上で重要なのは、全ての能力がバランス良く備わっている事と、あとはベテランの感覚だ。

結局リーダーの俺が一番普通で一番凄いんだよね←



「あ、ジム」

「…?」


後ろから呼び止められて振り返ると、そこにはタバコを口に咥えたナイジェルの姿が。

彼も今日は2位の成績だった。

体ごと振り返るとナイジェルは傍まで歩いてくる。


「お前、今夜空いてるか?」

「…ッ!?な、なんだよ急に。俺はそんな趣味ないぞ」

「ちげーよ、気色悪い想像すんな。俺の知り合いのバーがあってな。どうにも相手がいなくて、久しぶりに飲みに行かねーか?」

「あぁ、そんな事か。いいぞ」


同僚のナイジェルからの久々の呑みの誘い。

ベテラン同士でお互い話が合い呑む機会は多かったが、最近はここで缶ビールを飲むのがほとんどだった。

しかも洒落たバーなんて久しぶりだ。

上機嫌な彼はすぐに首を縦に振る。


「あ、それならサラも誘うか?アイツ酒好きだからな」

「あぁ…その…今日は無理だな」

「へ、なんで?ケンカでもしたのか?」

「そうじゃなくて、今日行く店は女人禁制なんだ」


女人禁制?

ナイジェルの口から出た珍しい単語に、ジムは思わず首を傾げる。


「変わったバーだな」

「行けばわかるって。リッキーはいねぇつか未成年だから無理だし、あとボビーも誘うか」

「そうだな」


話によると、ボビーはメインルームのソファーに座って何かをしていたとの事。

ふたりは早速呑みに誘うため、その部屋へ向かった。







「おう、ボビー」

「やぁっ…ジム君…話しかけないでくれないかい?今忙しいんだっ…」

「お前それゲームボーイじゃねーか!まだやってたのか!?」

「単3電池っ…買ってきてくれないかい?最近は2面の途中で電池が切れるようになってきたからさ」

「そりゃそんな年代物のゲーム機使ってたら燃費も悪くなるだろ」


1面の3コースをクリアした所で、ナイジェルが後ろに立ったまま本題を切り出した。


「なぁボビー。俺達今からバーに呑みに行くんだ。お前も来るか?」







ビクッ!




「…?」


お気に入りの彼の誘いだ。

良い回答を期待したが、ボビーはゲーム機を握ったまま、突然指先が動かなくなった。

覗いてみると何故か顔が引きつって真っ青になっている。


「どうした?顔色悪いぞ」

「…いや、な、んでもない」

「…で、どうだ?来るか?」

「い…いや…いい、また今度誘ってくれよ…」



なんだ?

あの普段はシリアスの「シ」の字もないボビーが珍しく大人しい…というかよそよそしい。

ナイジェルもジムも揃って同じ印象を受けた。


「そうか、わかった。なら俺達だけで行ってくるから、また今度な。気分が悪いなら部屋で寝てろよ?」

「わかったよ…」



ガチャン。



メインルームを出たふたりは、すぐに不思議がっているお互いの顔を見合わせた。


「あんなボビー初めて見たな。どうしたんだ一体」

「ビッキーちゃんに罵声でも浴びせられたんじゃねーの?」

「そんな事されたら大喜びだろ」

「仕方ねぇ。今日は俺達ふたりだけで行くか」

「そうだな」



陽も沈んだ夜の8時。

ボビーを連れて行くのは諦め、ふたりだけでナイジェルがお勧めするバーへ向かう事となった。


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