【ボストンへの出張について】


それはとある平日の夜。

ウィンディラン本部に送られてきたのは、音を立てて出てきた一枚のFAXだ。

メインルームに居合わせたのは、バラエティー番組を観ていたジムとサラで、機械の近くにいたジムが立ち上がって届いた紙を手に取った。


「何?」

「先週の会議で理事長が言ってた出張の命令だ。3日間、ボストンに拠点を置く専門企業で研修をしてこいだと」

「どうしてお上の方々はお金をかけてまで、そんな遠くに行かせて勉強させたいのかしらねぇ」

「それが決まりなんだろ。それより他人事みたいに言ってるけど、今回の命令お前に出てるぞ」

「えー、私?そんなやだ〜ん」


わざとらしい甘えたな声を出すサラに突っ込む事もなく、ジムは彼女の向かい側のソファーに座る。


「…………。」

「どうしたの?黙っちゃって」


ジムはそのFAXの内容に目を通す間、言葉を発さない。


「ジム?」

「ちょ、お前も見てみろ」

「え?」



紙をこちら側に向け、サラもなんとなく文章を読んでみる。

普段のかったるい研修と何ら変わりないみたいだが…


「…っ」


最後の一行に目が留まる。




『〜内容を把握しレポートをまとめる事。

尚、前回出張に出席出来なかったナイジェル・ヨークとリッキー・スターンは今回の出張に同行するように』




「3人で出張なんて珍しいわね」

「何のんきな事言ってんだよ。大丈夫なのか?」

「何が?」

「何が?って…お前、仮にも女だろ?
それにナイジェルもリッキーもお前の事気に入ってるわけだし、そんな男達と3日間も過ごすって」

「ははは。大丈夫よ、何かあれば股関を蹴り上げてやるわ(笑)」

「サラ。俺は真面目に話してるんだ」

「…ッ」


珍しく真剣な口調。

雑音になっていたテレビの音を、ジムはリモコンで切った。

サラはそれを見てようやく状況を理解したらしく、きちんと耳を傾け始める。



「俺やビッキーも心配してんだよ。お前ら3人の事」

「何よ、急に…」

「それはお前が一番わかってるだろ」


誤魔化そうとする態度に大きなため息をつき、ジムは体を前のめりにして話を続ける。


「こんな関係…一体いつまで続けるつもりなんだ?いい加減、答えを出したらどうなんだ?」

「…っ……」

「悪い。俺みたいな無関係の奴が首を突っ込んで」

「いいの。ありがとう」


聞き慣れないサラの真剣な返事。

俺と話している時は、基本適当だからな、コイツ。


「私だってわかってるわよ。このままじゃいけない事くらい」

「そうか」

「でもなんというか…怖いのよ。
私だってナイジェルとリッキーはとても大切な存在だと思ってる。
そんなふたりを天秤にかけて計るような真似…簡単には出来ないから」

「まぁそうだよな」


テレビの音もない夜の静かなメインルーム。

重い空気がなんだか気持ち悪くなって、サラは変に笑ってしまった。


「大体こんな私をまだ好きでいてくれてるのかしら」

「は?」

「だってそうでしょ?私なんて貴方の妹みたいに誰からも愛されるキャラじゃないし、酒癖は悪いし無愛想だし…何よりこんなにも優柔不断だし」


まぁ…だったら直せって話だけど、なんて笑いながらテーブルに落ちている輪ゴムをなんとなくクルクル回す。


「それは…ないと思うな」

「っ…」


ふとジムとサラの視線がぶつかった。


「お前が思ってる以上に、アイツらの想いは強いと思う」

「どうかしら」

「人がいる前では普通にしてるけどな、ふたりで面と向かって話すとわかるんだよ。
ナイジェルもリッキーも、ずっとお前の答えを待ってるんだって」

「…………。」

「まぁお前ら未だによく3人つるんでるから仲が良いのはわかるんだが、アイツらの気持ちもそろそろわかってやってくれ。

お前がここまで悩んで決めるんだ。
選ばれなかった方だってお前を恨んだりしないし、きっとわかってくれるはずさ」


何も言い返さないサラを見つめて、ジムは残していた缶ビールを一気に飲み干した。


「それじゃ、俺寝るから。お前もあまり遅くならないうちに寝ろよ」

「わかった」


缶をゴミ袋に入れ、彼はそのまま部屋を出る。



はぁ。


急に兄貴面しちゃって。



頭ではわかってるのにね。

私ってどうしてこうなんだろう。


天井を見上げたって何も答えは見えてこない。


いっその事、どちらかひとりが出会うはずのない遠い町に住んでいれば、こんなに悩む事はなかったのにとさえ考えてしまう時もある。

ほんと…神様って人は。

顔を戻して何気なく開いたのは携帯電話。

指は無意識にギャラリーフォルダをクリックする。



表示されたのはナイジェルとリッキーの写真。

この部屋で撮った何でもないありふれた写真だ。

ナイジェルは写される事が嫌なのかレンズを手で覆いかけ、

正反対にリッキーはキラキラした笑顔でピースをしている。

こうして見ると全く対照的な男達。

ふたりともそれぞれ良い部分があり、悪い所だってあり

それぞれがとても愛しい。

やっぱり、今すぐに決断なんて出来ないか。

エマちゃんに偉そうな事を言っておきながら、我ながら情けないな。



「はぁ…」



いつも最後はこう、悩む事さえ疲れてしまうんだ。



私も寝よ。



立ち上がり、缶ビールを捨てて部屋の電気を消した。


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