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……………
出張二日目。
本日の業務は、バイクの内部調整や修理などを行ってくれる馴染みの業者への挨拶と新商品の下見だ。
「ではこちらが資料と特注品のバイクになります」
工場の中はオートバイからスクーターまで、様々な型のバイクで溢れている。
エンジン、タイヤ、素人にはわからない細々した部品。
形の変わったデザインの商品も。
我々バイク好きにとっては胸が躍る夢のような空間だ。
「わぁっ…!凄い!」
「やべーな」
男ふたりはすっかり舞い上がり、所長さんの説明も途中からは聞かずにバイクを見る事に没頭している。
やはりここでは、ナイジェルもリッキーも同じ男の子みたい。
胸が熱くなり、女子にはわからないときめきを感じるのだろう。
「ふたりとも、勝手にいじっちゃダメよ」
「「はーい」」
ナイジェルも昨日の事は忘れているのか、ごく普段通り。
まぁ、変に気まずくなって目を逸らされるよりも、こういう自然体でいてくれた方が私にとってもありがたい。
工場の見学を始めて20分。
アーサー…マルクス…ブライアン…ボロンTマサラーニャ……あれ?この写真どこかで見た事があるような…
歴代レーサーの写真をぼーっと眺めていると、その男は後ろから突然肩を叩いてきた。
「サラ」
「…っ」
振り返るとグレーの髪が瞳に入る。
何を触ったのか、煤で頬が汚れているリッキーだ。
「リッキー、どうしたの?」
「あっちの部屋に今年の新型バイクが置いてあるんです。一緒に見に行きませんか?」
今年新型のバイク…。
それは男じゃなくたって、女の私だってライダーだもの。
興味はもちろんある。
「本当に?見たいっ」
「ですよね。行きましょう!」
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展示場に並んだ数台のモーターバイク。
どれも最新型デザイン、色、新機能。
車体がピッカピカで、自分の顔が鏡のように映った。
「わぁ…凄い格好良い…」
新しいバイクを見るリッキーの目は、まるで少年の目だ。
瞳を輝かせて、独り言を呟きながらあちこち夢中で歩き回る姿はなかなか珍しい。
「リッキー、目がいつもの倍は輝いてるわね」
「だって…そりゃそうですよ!ほら見て、このR750型!デザイン格好良いし超最新型ですよ!
あとこっち見てください、こんな小型化されたエンジン初めて見ます!
それにこれはエアフィルターが変わったデザインですし…こっちはチェーンとスプロケットをアルミに変えて軽量化を図っていますね。
歯数も用途毎に変えればかなりのスピードが出せるんじゃないですか?」
「フフッ」
「え?」
「いや、そうやって乗り物に夢中になったり、専門的な用語がペラペラと出てくるから、リッキーもやっぱり男の子なんだなと思って」
「何言ってるんですか、俺は最初から男ですよ」
「その顔で言っても説得力ないのよ」
クスクスと笑う先輩に、なんだか腑に落ちない様子の後輩。
何も言い返せない所がまた正直で憎めない。
彼女はリッキーが一番気に入った新しいバイクを細い指で触った。
「確かに良いバイクね」
「でしょ?」
「貴方ならすぐに乗りこなせるんじゃない?」
「そうですか?でも…欲しいけど、きっと高いんだろうな…」
「社長におねだりして買ってもらえば?」
「無理ですよ。ウチの社長、社長のクセに俺より貧乏ですから。
車も壊れかけのにいつまでも乗ってるし、エアコンは壊れて暖房しかつかないの使ってるし、洗濯機は壊れて脱水しか出来ないの使ってるし」
「洗えないのに脱水はすんの…」
「やっぱり自分でお金貯めます」
「車は命に関わるから、中古の車を買うように言いましょう」
「そうですね」
同じのほほん顔を思い浮かべながら、ふたりで笑い合う。
昨日と今日だけでこうも話のネタにされてるだなんて、本人は何も知らないのだけれど。
今頃おせんべいでも食べながらクシャミをしているだろう。
「さて…あ、そろそろ戻らなきゃいけない時間なんじゃない?」
「そうですね」
「じゃ、行きましょうか」
「…サラ」
「何?」
「……いえ、なんでもありません」
「そう」
「行きましょう」
腕時計を確認し、リッキーはこのバイクに跨がれる日を夢見てその場を離れた。
最後に私を呼び止めた瞬間の顔…
何か言いかけたように見えたけど。
まぁ、いいか。
先を歩き出す少し高い背中を追った。
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