13
……………
「ただいま。お土産買ってきましたよ!」
「ブギャァァァアアアア!!買潟bキュァァ!!!」
出張期間が終了し、3人は特に大きな問題もなく無事に予定日の午後に帰宅。
3日間も愛しの王子様に会えなかったビッキーは寂しさの感情が爆発したようだ。
お土産の冷凍牛肉袋を受け取ったと同時に地面に激しく叩きつけ、リッキーに猛獣の如く飛びかかった。
「相変わらずガキは騒々しいな」
「ナイジェル君…君のためにキノコソテーを作って正座して待っていたよ。自室のタンスの裏から生えてきたんだ」
「お前が食え」
ナイジェルは帰って来て早々に、普段通りだらしなくソファーに座ってタバコに火をつけ始める。
いつもの日常的な光景を眺めながらサラはうっすら笑い、ある男の肩を軽く叩いた。
「ジム、ちょっといい?」
「ん?」
声をかけたはコーヒーカップを片手に持っていたジム。
彼女に呼び出されて向かったのは、誰もいない休憩室だ。
何も知らずに男が座り、サラは静かに扉を閉める。
「どうだった?3日間の研修は?」
「とても勉強になり、普段は経験出来ない貴重で実のある体験をさせて頂きました」
「なんだよ、そのわざとらしい喋り方」
思ってもいない事を言うな。
ジムが馬鹿にしたように笑うと、彼女も同じように笑った。
「はは、楽しかったわよ。研修というよりは見学会って感じみたいで。得意先も良い人達ばかりだった」
「そうか。それは良い時に当たったな。レポート期限は来週末までだから忘れるなよ」
「はいはい」
腕を組み、彼の隣に座る。
「よっこらせ」なんて、それが二十代前半の女子の台詞か。
「んで…大丈夫だったのか?ナイジェルとリッキーは」
「私を誰だと思ってるの。股間を蹴り上げてやったわよ」
「うわ、マジで…。超痛そう」
「てな話は冗談」
この女が言うと冗談に聞こえないのが、正直な感想だが。
「それで?」
「んー…」
なんだかよそよそしい空気の様子に、何かあった事なんて簡単に予測がついた。
何年仲間やっていると思ってんだ。
「話…ついたのか?」
「…。まぁ…ね。リーダーには一応話しておこうと思って」
若干気まずいのか、サラも目も合わせないまま微かに唇を動かす。
「ナイジェル」
「ナイジェル…か。まぁ、そんなトコだろうと思ったよ」
「え、何でよ?」
「まぁ俺くらい気配りスキルがありゃ、一目見れば大体わかるよ。なんだかんだ言いながら相思相愛なんだな、コイツらって(笑)」
「からかわないで」
ぷいっとそっぽを向く彼女にジムはニヤリと笑う。
「あれれぇ?サラ子ちゃん、珍しく顔が赤いじゃんー。で、付き合う事になったの?」
「なってなかったら報告してないから」
立場逆転。
普段からかわれているジムがニヤニヤしながら目を逸らす彼女をいじってみる。
調子に乗ってほっぺたをプニプニつついたら軽く首を絞められた。
「そうかぁ。ま、リーダーとしても仲間達の問題が無事に解決して良かったよ。
あ、でもリッキーは?お前らがデキた事知らないのか?」
「知ってるわ。というか、あの子から話を振ってきたの」
「え?」
そこは予想していなかった展開に言葉が詰まる。
「あの子、勘が良いから…ずっと前からわかってたのよ。私がナイジェルを好きだって事」
「そう、か…」
「リッキーも色々思い悩んだんだと思う。私と同じくらい。
本当に…あの子は賢くて素直で優しい子よ。私には勿体ない程に」
その部分だけは、声が震えて聞こえた気がした。
きっとこの3日間の短い出張中に、悲しい決別があったのだろう。
俺が思ってた以上に悩んでたんだな、彼女も。
「ま、リッキー程イケメンで性格良くて才能があれば、すぐにもっと可愛い彼女が出来て私の事なんかどーでもよくなるわよ」
「そうかな…」
「慰める気あんの?そこは『そうだよな』って言いなさい」
結構マジで肩パンされ、再び軽傷を負うジム。
「イッテェ」
「女子が軽く叩いただけで大袈裟なのよ」
「お前は普通の女子じゃないから。なんでナイジェルもリッキーもこんな暴力女が…」
「タックルで壁をぶっ壊す彼女がいるアンタがそれを言うのね」
お互い一息ついて、再び話に戻る。
「で…リッキーとは今後気まずい関係になったりしないのか?」
「大丈夫よ。彼が大切な後輩である事には変わりないし、これからも普段通り接してくれって言われてるから、私もそうするつもり」
「………。」
「私には…あの子がどれだけ頑張ってくれたかわかる。
身を引くって言った時の彼の顔は、多分一生忘れられないと思うから。
だから私、その気持ちを踏みにじらないよう…これから精一杯あの人を愛していこうと思うの」
「サラ…」
「それに、あんなダメ親父の世話が出来るのは私しかいないわ。そうでしょう?」
「はは…それもそうだな」
一通り報告が終了し、サラは狭い個室で濃度の高いため息を吐き出す。
抱えていた大きな荷物を下ろして、ようやく身が軽くなったのだろう。
ポケットから何かを取り出し、それを隣の彼に差し出した。
「なんだこれ?」
「お土産よ。ミニバイクキーホルダー」
「なんで俺だけに?」
「相談に乗ってくれたお礼」
可愛らしい小さなキーホルダー。
俺の愛用しているフェンダー部分が紫色の青いバイクだ。
サラはそれを渡した後、重い腰を持ち上げて立ち上がった。
「じゃぁ、私先に戻るから」
「あぁ」
いつもの涼しいクールな表情だ。
…ったく、俺の時はあんなにはしゃいでたのに、自分の事になると相変わらず素直じゃないな。
そういう部分を含めて、もしかしたらナイジェルやリッキーも魅力を感じたのかもしれない。
「サラ」
ドアノブを握って部屋を出ようとする彼女を呼び止めた。
「何?」
「おめでとう」
「……ッ…」
「ありがと、ジム」
歯を見せずに笑い、彼女はメインルームへと戻っていった。
fin
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