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雪之原さんは不思議な人だ。
人の事を物凄く詳しく知っているくせに、人とあまり関わろうとしない。
いつも何考えているかわからないし、かと思えば心臓にブスリと突き刺さるような言葉をぶつけてくる。
でもなんとなく。
悪い人ではないと直感的に感じていた。
そんな彼が、どうして今回俺の悩みに付き合ってくれたのかわからない。
でも…
「キョウ君。僕の言った事覚えてる〜?」
「はいはい、覚えてますよ」
「はは。じゃぁ僕は早くウサギさんに会いたいから行くよ。ばいばーい」
雪之原さんは俺と同じマンションの上の階に住んでいる。
会おうと思えばすぐ会える距離だ。
彼は意味深に笑って階段を上がっていった。
相変わらずな人だ。
そして俺は廊下を進み、自室の前に立った。
『冷静になって部屋に入る』
一体どういう意味だろう。
しかし今は言われた通り、やってみるしかない。
行動としては毎日同じだけど、少しだけ間を置いて大きく息を吐く。
そして玄関の扉を開けて
パチン!
「………………え?」
真っ暗の部屋の電気をつけた瞬間、その意味がようやくわかった。
部屋番号は間違っていないはず。
そこは小汚かった一人暮らしの男の居場所だったとはとても思えない、
綺麗な花が至る所に飾られた自分の部屋だ。
そうだ、思い出した。
俺は鈴ちゃんに一目惚れをし、彼女と親密になり。
彼女に会いたいがために、あんなにも花屋に通っていた。
花になんてこれっぽっちも興味がなかった自分。
鈴ちゃんからだったらその花の話を聞くのも楽しくて、そして彼女が花に語りかける姿が大好きで。
自宅に帰ってからは毎度彼女の事を思い浮かべて、柄にもなく購入した花々を部屋に飾った。
窓際にガーベラ。
ベッドの傍にマーガレット。
キッチンにアネモネ。
そして玄関に向日葵。
たくさんたくさん飾ってある。
花を飾ったらなんだか鈴ちゃんに似合う男になりたくて、毎日部屋の掃除を始めた。
花に話しかけながら水をやった。
以前の無頓着な自分では考えられない。
ここまで俺が変わったのは、間違いなく彼女のおかげだ。
彼女が俺の性格から考え方から生活スタイルから、全てを変えてしまった。
それだけ…俺は彼女の事が好きだったのだ。
どうして部屋がこうなっている事にずっと気づかなかったのだろうか。
この部屋全部が、俺が鈴ちゃんを心の底から好きだった証拠。
「………っ…!」
それに気づいた瞬間には、俺はもう走り出していた。
足には自信がある。
俺は自慢の足で街中を全力で走るっ…
「ハァッ…ハァッハァッ!」
息が上がっても体が走る事をやめない…!
目指す場所は決まっている。
もう、中途半端な自分は嫌なんだ。
ありがとう、雪之原さん。
俺に、本当の気持ちを思い出させてくれてっ…
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